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4-4 高熱の時に見た夢

『件名:【高熱の時に見た夢】改変ミーム疑いの事象について


 オータムAIサービス 安藤様


 お世話になっております。ヴァージニアアーク・ジャパン Virgo(ヴァーゴ)運営部サポートチームの湯谷(ゆたに)です。


 現在流行している「高熱の時に見た夢」というミームに関して、安藤様にお伺いしたいことがあり、ご連絡いたしました。


 インフルエンザ等の感染症の流行する季節となり、自分の見た悪夢を共有する投稿がPeketter(ペケッター)等のSNSにおいて増えています。

 こうした投稿に、Virgoにて生成した画像が数多く添付されていることを確認しております。


 ここ数日にかけて、当該話題について投稿、あるいはリアクションをしたユーザーが「同じ夢を繰り返し見る」「夢に似た幻覚を見る」というケースが急増している模様です。


 一方で、十一月二十五日から二十六日にかけて、弊社の運営するVirgoシステムと、弊社がOlsis(オルシス)上にて連携するクラウドワークスペースにシステム障害が発生し、現在も継続して対応中です。

 Virgoに関しては、夢で見た光景の画像生成において不具合が確認できています。

 加えて、ミーム異常が起き始めたのが同じタイミングであり、SNS上では「Virgoのシステム障害とVirgo生成画像による悪夢ミームの異常は関係しているのではないか」等の憶測が飛び交っている状況です。


 現在、弊社ではOlsisクラウド経由での外部侵入の可能性、Virgoシステムが悪用されている可能性、Virgoシステム自体の動作異常の可能性などを視野に入れて調査中です。


 つきましては、本件に関してご存知のことがございましたら、ご教示くださいますようお願いいたします』



 湯谷さんからのメールを一読して、俺はしばし固まってしまった。


 同じ夢を繰り返し見る。

 夢に似た幻覚を見る。

 あの、虹色の巨大ナメクジ。

 夢で見たのはもちろん、現実でも視界の端でチラついていた。


 俺、知らないうちにミーム感染してた?

 だとすれば通常のウイルスチェックで異常が見つからないのも頷けるわけだが。


「何にせよ調査依頼だし、まずは『高熱の時に見た夢』ってミームのことを調べる必要があるな」

『Peketterを開きますね』


 スターりんがPeketterアプリをタップする。

 見慣れたタイムラインが展開する。

 こういう時、メメがいれば一瞬で該当のポストを抽出してくれるんだけど。

 俺は自分で検索欄に『高熱の時に見た夢』と打つ。

 そうして絞り込まれたのは、ここ一週間程度の投稿がほとんど。

 トレンド順に並べてトップに出たポストが、大元の投稿のようだ。


 ——怖いか、俺が高熱の時に見た夢が。


 シンプルな一文に添えられているのは、蛍光イエローに輝く大量の洋式便器の生成AI画像。何ともクレイジーで、確かに高熱の時に夢に見そうな光景ではある。


 どうやら、このポストの引用リポストで同じ一文、つまり「怖いか、俺が高熱の時に見た夢が」を連ね、自分の見た悪夢を再現した生成画像を貼っていくタイプのミームであるようだ。


「そもそも『高熱の時に見る夢』みたいな言い回しって、ニヨニヨ動画のシュールな楽曲映像とかに付いてたタグだったよな。それっぽい概念のものを見た時に使う、ミーム的な表現だった」


 今回のブームも、それに流れを汲むものだ。

 どれもこれもカオスだが、共通するイメージがある。色味がサイケデリックだったり、人や物が異常なサイズや数で登場したりと、現実にはあり得ない要素が多分に含まれ、視覚的なインパクトが強い。

 AIで作った画像なので、ユーザーがイメージを盛っている可能性は否めないわけだが。


「で、このポストを投稿したユーザー群が、ウイルスミームに感染してるっぽいわけか」


 該当ユーザーの投稿を追う。

 問題の、二十六日以降のポストでは。


 ——あれ以降、昼寝でも夜寝でも蛍光トイレの夢しか見ないんだが。もう熱下がってるのに。しかも起きてる時も蛍光トイレの幻覚が見えるんだが。


 これもかなりリポストされ、何人ものユーザーが「自分も同じ状態だ」とリプを付けていた。


 ——あれ以降ワイも巨大ネコチャンに喰われる夢ばっか見る。なんなら今もワイの隣に巨大ネコチャンいる。


 ——私も夢でワープ空間を走り続けてます。ずっと寝不足っぽいし、家の中とかもワープ空間になりました。


 俺もまさしく同じ症状が出ている。

 さらには。


 ——イヤーカフ端末が良くないんだろうと思って外してみたけど、普通に不便だし無理だった。あと、あの夢の幻覚ちょっとクセになるかも。結局端末外せてないw


 言われてみると、俺とて今日の昼寝の時は端末を外していた。冗談抜きで脳ミソに寝癖が付いているのかもしれない。

 『踊るパンダミーム』の時の女子中学生も、似たような感じだったはずだ。いったん端末を外しても、しばらく脳の中に信号が残り、我慢できなくなってまた装着してしまうという。


「でも俺、Peketterに悪夢の話なんてポストしてねえんだよ。二十五日の夜から二十六日いっぱいまるっと記憶ないし。よもやその間に何かしちゃった? 俺のアカウント、何の痕跡もないんだけど」

『十一月二十五日から二十六日にかけてと言えば、Virgoのシステム障害がそのタイミングから起き始めたと、湯谷様のメールに書かれておりましたね』

「俺が死んでる間にいろいろあったんだな」


 さらに話題を追う。


 ——Virgoのシステム障害で、夢の画像生成頼むとエラー出やすくなってるやん。幻覚見てる人たちと何か関係あるんじゃね?


 湯谷さんのメールに書かれていた通りの噂が立っていた。


「そうなると、今は新規で悪夢の画像を作りづらくなってるってことか」

『異常現象ポストが出始めてからは、新規投稿は激減しているようですね』

「つまり既存の悪夢ポストの間だけで感染が拡がってるってことなのか」


 ううむ、なんとなく不思議な話だ。


「夢の記憶と、脳波とイヤーカフ端末の直接連携と、端末を通じたVirgo操作……その辺で何らかの異常が起きてるんかな」


 何にせよ、俺の症状がウイルスミーム感染ならば、SNS等のログをもっと詳細に確認する必要がある。

 Peketterで自分の管理するアカウントをチェックしていると、あることに気付いた。


「あれ? サブ垢の方でポストしてるじゃん」


 サブ垢とは、先日の『#私の彼氏』の時に作った『めめたん』という名のアカウントだ。事案の解決後も、犯人と接触した痕跡保全のために残してあった。

 当然動かしてはいなかったわけだが、最近になって身に覚えのない投稿がなされていた。

 例によって、蛍光トイレポストの引用である。


 ——怖いか、俺が高熱の時に見た夢が。


「えっ……しかもこれ、俺の見た夢だし」


 なんとそこに、俺自身の見た悪夢に酷似した画像が貼られている。嫌になるほど追いかけられた、虹色の巨大ナメクジが。

 投稿時刻は十一月二十六日になったばかりの午前一時過ぎ。俺が完全にダウンしていた夜だ。


「何これ、乗っ取り? それにしたって俺の夢が画像生成されてるのは意味分からんのだけど。でもたぶん、ここから感染しちゃったってことなんだよな」

『しかも結構反応をいただいておられますね』

「……いや、待てよ。は? 何だよこれ」


 『めめたん』の悪夢ポストの、さらに引用リポストにて。


 ——このアカウントからのDM、ヤバいから開かないで! #拡散希望


 この投稿はプチバズしており、たくさんのリプライが連なっている。


 ——覇道王でバズってた人じゃん?


 ——うちも来た。変なQRコード貼ってんの。


 ——例の幻覚とかの現象、めめたんがヤバいプログラム撒き散らしてるせいってほんと??一人感染したらフォロワーさんに次々うつってくみたい。


「ちょっ……何言ってんだ」


 確かに、幻覚を見た人たちのポストは、『めめたん』の投稿の後から始まっているわけだが。

 見知らぬ人々の根拠のない憶測はお手軽に次々拡散され、『めめたん』が一連の騒動の犯人として槍玉に挙げられる流れになってしまっている。


 ピコン! リアルタイムで通知音が鳴る。


 ——特定しました。『めめたん』と『オータムAIサービス』は同一人物。


「は……?」


 ご丁寧に、『めめたん』垢のAI彼氏の画像の背景と、『オータムAIサービス』垢での投稿画像が一致する、という検証が添えられている。


「えっ……な、なんで、こんな……」


 ピコン! ピコン! ピコン!

 たちまち埋まる通知欄。


 ——オータムAIサービスってとこが犯人らしい。


 ——どっかの会社? 特定班たのむ。


 ——VirgoやOlsisのシステム障害もこいつの仕業ってほんと?


「はぁ⁈」


 俺は思わずPeketterを閉じた。


「くそっ、何なんだよ! 言いがかりにも程があんだろ」

『アキトさん……』


 心臓が騒いでいる。全身から嫌な汗が吹き出す。


 Virgo運営は当然、今回の悪夢ミーム騒動で『めめたん』にどんな疑いがかけられているのか、把握しているはずだ。


『本件に関してご存知のことがございましたら、ご教示くださいますようお願いいたします』


 調査依頼なんかじゃなかった。

 俺はようやく、湯谷さんがどういう意図でメールを送ってきたのかを理解した。

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