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妻が貴族の愛人になってしまった男  作者: 重原水鳥
第四粒 ルイトポルト、貴族学院へ ~春季(はる)~

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【150】弓術大会-観覧席にてⅡ

ブラックオパール伯爵家の席にて


(久々に執筆中にデータ吹っ飛んで泣きました!!!!!!)


 横からジビラ、ルイトポルト、ノイバーを抱いているレヒタールという順番で、若者たちは横に並んで、試合を見ていた。


 ルキウスが矢を放ち始めてから、数周している。今の所、ルキウスは問題なく残っていた。


 大会に来ているのは皆、弓の腕に自信がある者たちだ。

 それでも一周事に数人が外し、会場を去っていく。


 参加者によっては、この大会の為に一年かそれ以上の時間を費やしてきた者もいるだろう。

 この日の為に、自腹で高い移動費をかけて来た者もいるだろう。


 けれど名誉が与えられるのは、勝ち残った者だけだ。


 例えたまたま体調が悪かっただけだとしても、実力不足として扱われる。

 去り行く中には涙を耐える者も少なくない。特に若者は、今にも泣きだしそうな顔で去っていく者もいた。


 ルイトポルトはルキウスを見る。彼は真顔で、ただ的を見つめていた。


 新たな一巡の合図が響く。最初から今まで一番手でプロェルス・ビーフブラッドルビー子爵が同じように弓を構えた。一射。相変わらず、的のド真ん中――真っ赤な丸の中心に、矢が刺さる。あまりに同じところにささり過ぎて、矢が抜かれた後の的には、綺麗な穴が開いてしまい、数回的が取り換えられていた。

 次の人間が打ち、そのまた次が打ち………………そしてルキウスの番になった。


 ルキウスは最初と同じように、矢を番えたと思った直後に弓を放つ。狙いを定めている時間がない。

 先ほどとは違う位置の、赤い丸の端に矢が刺さったように見えた。距離があり、しっかりとした場所まではルイトポルト達も見えなかった。


 それからまた一人、また一人と脱落し、一巡が終わり、また新しい参加者が気合を入れて列に加わった。


 同じことの繰り返しだ。けれどルキウスの番が近づくたびに、ルイトポルトは息をのみ、従者の結果を見守った。


「……その、侍従見習い(ルキウス)は順調、なようですわね」


 ジビラの言葉にルイトポルトは頷いた。


「良かったよ。会場に呑まれていないようだ」


 ルイトポルト達若者はそう思ったのだが、どうやら、騎士たちには違う景色が見えていたらしい。それに気が付いたのは、護衛として傍にいたオットマーが、トビアスにした耳打ちが聞こえた時だった。


「…………おいトビアス。ルキウス、あれは不味くないか?」

「そうだな……」


 オットマーが、小声でトビアスにそう声をかけたのは、ルキウスの六回目の矢が放たれた後だったと、ルイトポルトは記憶している。

 オットマーの不安視する言葉からの、トビアスの肯定。

 ついつい聞きとがめ、ルイトポルトは振り返った。

 付き合いの長い騎士たちは、当然、振り返った若い主人に気が付く。二人とも、しまったという顔をしていた。


「どういう意味だ?」


 問われ、オットマーは気まずそうに肩をすくめた。ルイトポルトに聞かせるつもりはなく、トビアスについ漏らした言葉だったのだろう。

 ルイトポルトの様子に、先ほどのオットマーとトビアスの言葉を聞いていたなかった他の人々も、二人の騎士を見る。視線が集まり、オットマーは少し逡巡した様子を見せた後、観念したように口を開いた。


「……ルキウスが、集中を欠いているように見えたので」

「集中を? そうかしら。先ほどからずっと、的を当てているけれど」


 マヌエラが首をかしげる。

 少し離れているけれど、しっかりと試合の状態は見ているようだ。


 彼女の疑問通り、ルキウスは先ほどから的を当て続けている。

 到底、集中を欠いているようには見受けられない。


 伯爵家の人々の疑問に次に答えたのは、トビアスだった。


「……ルキウスの普段の、弓を使う時の様子を、ルイトポルト様は覚えておられますでしょうか?」

「勿論」

「では、お分かりいただけるかと思うのですが……ルキウスは、あれほど性急に矢を番え、的を狙う者ではありません。集中できているのであれば、むしろ、ゆっくりと的を狙う筈です。……今大会において、狙いを定めるための時間は、極端に長くない限りは好きなだけ取る事が許されております。そのような環境下で、わざわざ矢を番えた直後に放つ利点はありません」


 速さではなく、正確さを最も求めている場だ。故に、あれほど早く矢を放つのは異常だと、トビアスとオットマーは主張した。


 ルイトポルトは、自分たちを守るためにぐるりと囲うような配置で控えている騎士たちを見る。

 ブラックオパール伯爵家に仕えている騎士たちは皆、ルキウスが弓の訓練をしている場を見た事があった。故に、トビアスやオットマーの言葉に同意するように頷いた。


「た、確かに、早く打つ必要はあまりない気もするが……ルキウスはずっと的を当てているのだから、集中を欠いているというのは、いささか過ぎる言葉のような気がする」


 なんとか弁解したい。そんな気持ちがあふれて口を開いたルイトポルトに、真剣な顔でトビアスが言う。


「……今はまだ、安定性はありませんが、赤い丸に当たっておりますからよいでしょう。けれど」


 ブラックオパール伯爵家の人々が話しているうちにも、試合は進む。一巡した。新しい者が入っていき、また新しい一巡が、審判の合図で始まった。


「ギリギリで保っている集中は、崩れたら大変な事になります」


 ルキウスの番になった。審判が合図するとほぼ同時に、十分に的を狙っている様子もなく、矢を放つ。


 そして矢が、的に刺さる。()()()()()()()


「ルキウス……っ!」


 観覧席を仕切る手すりをルイトポルトは両手でつかんだ。身を乗り出すような形になった彼を、レヒタールは慌てて抑えた。レヒタールの方が年上で力もある。抑えれば、それ以上身が乗り出すような事はない。


 ルイトポルトは赤い瞳でルキウスを見つめていた。


 近くにいき、声をかける事が出来るのであれば、いくらでも手があったかもしれない。

 けれどこうして大会の舞台に上がってしまった彼に、観覧席から出来る事はない。


「ルイトポルト様、どうか席に……」


 レヒタールに促され、インゴにも肩を掴まれて、ルイトポルトは席についた。

 膝の上で拳を握り、ルイトポルトは、ルキウスがどうか緊張から解放される事を祈った。

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― 新着の感想 ―
実戦で同じ場所に何度も当てることはないから、的をハリネズミにするのかな
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