【146】弓術大会
追記:一部、書き直し前の文章が記載されてました! 混乱させてしまいすみません! メルツェーデス(と、代官ヘーゲン)は不参加となっております現在は訂正してます。
追記2:タイトルも間違えてましたので訂正してます!!!
会場入りする前にトビアスとオットマーから伝えられた言葉。
それらの意味をルキウスが理解したのは、開会式での事だった。
◆
弓術大会の参加者は、八割ほどがルビーの血族らしい。ルビーの参加者が多いとは聞いていたが、どこを見ても赤い髪か赤い瞳の持ち主がいる。
そうでない色合いは別の血族出身者だったり、平民のものなのだろうが、数は少なく目立っていた。当然、ごくごく普通の平民な容姿のルキウスも、色が理由で目立っている。
色だけが、ルビーの血族だと見分けるポイントではない。
筋肉だ。
盛り上がった肩や腕や胸元。
首や腕も、ルキウスの二倍か三倍ぐらい太いのではないか、という人がやたらいる。
……ついでに、声も大きい。
「おお、久しぶりではないか!」
「卿も参加されるか」
ガハハハ!
こんな会話が聞こえてくる。
ルキウスがたまたま近くを通った男性二人――ではなく。ルキウスからかなり離れた位置にいる男性二人がしている会話だ。それなのに、はっきり聞こえるぐらいに、二人の声は響いていた。
これが、一組の話ではないのだ。
四方八方で、顔見知りと会話をする男性たち(たまに女性)の声が響いている。それが全て、やたら大きい。
いつの間にやら、ルビーの血族ではなさそうなもの同士が、会場の一角に集まってきていた。自然と出来たその集団で、ルキウスはほかの参加者たちと簡易的な挨拶を交わした。
(これが声の大きさの話か……)
とルキウスは思った。確かに何も知らずにこの現場に来たのなら、驚いて縮こまっていただろう。しかしトビアスが事前に教えてくれていたので、そこまで怖がったりする事はなくてすんだ。
弓術大会の会場は上から見ると、楕円形になっている。
参加者たちが活動する場所が中央にある。そしてそれを観覧者たちが見下ろすように観覧席が作られており、参加者たちは土を踏みしめているが、参加者の数倍はいるだろう観覧者たちは数段に分けられている観覧席に座している。観覧席からルキウスたちがいる場所には降りる事は出来ないようになっていた。これは出来る限りの乱入を防ぐための仕組みのようだ。
唯一、現場に直接つながっているのは、一番上座の席である。
一番上座の観覧席に座しているのは、まるで血のような赤い髪の毛の人々だ。
赤髪と赤目の男性、女性、そしてその横にいる若い男児は、ルキウスも見覚えがある。
カールフリートだ。
つまり、あの席に座っているのは今回の主催――ピジョンブラットルビー伯爵家の人々なのだろうと、すぐに察せられる。
その左右には、少し色合いの違う赤色の集団が、三つある。ルキウスの予想であるが、恐らく他の有名なルビーの家……ルビー侯爵家、ビーフブラッドルビー伯爵家、チェリーピンクルビー伯爵家の三家ではないかと予想した。明らかに、その家々の観覧席が、他の観覧席より豪華な作りになっていたからだ。
他の観覧席は、多くが椅子が用意されていない様子である。立見席ばかりな事にルキウスは驚いた。狩猟祭では、観覧側である人々は天幕の下、椅子に座して優雅に時間を潰していたからだ。今回もそんな風かと思ったのだが、天幕などは全くなく、個人で傘をさしている夫人がみられるぐらいだった。そして、多くの観覧者は男も女も子供も立っている。
座っている人間もいるにはいるのだが……。
(……ルビーの人々は、立ち見で見るのか?)
少し見渡して、ルキウスはそう思った。
立っている人間と、座っている人間。その違いが、赤髪や赤目か、そうではないか、という風に別れて見えたからだ。
このルキウスの予想はその通り当たっていて、観覧者でしかないルビーの者たちは、殆どが立ち見で大会を観覧する。おかげで、この手の大会の平均より、多い人数が観覧者として会場に入る事が出来る仕組みになっていた。
椅子を用意して座しているのは、ルビーの血族ではない人たちばかりだ。
そんな沢山いる観覧者の中から、比較的上座に近い部分に、ブラックオパール伯爵家の人々が座しているのを、ルキウスは見つけた。
(ルイトポルト様)
そう思うのと、ルイトポルトがルキウスを見つけたのは同時だったようだ。ルイトポルトは笑顔を浮かべ、ルキウスに向かって大きく手を振っていた。その横には、レヒタールとノイバーの姿も見える。
その横に並ぶように、トビアスたち騎士が立っているのまでは、見えた。他に来ているだろう、メルツェーデスや代官ヘーゲン、インゴとその妻にジビラなどの人々の姿は、落下を防ぐためなのだろう柵の向こうで見えない。ただ、傘が数本見えているので、奥のあたりにいるのは分かった。
ただ、傘の本数が本来あるべきものより少なく見える。
メルツェーデスとヘーゲンの二人がいないために少ないのであるが、二人が来ていない事は知らないルキウスはそこまでは気が付かなかった。
とりあえず、遠方ながら、自分に手を振っている主人に「気が付いている」事を伝えるべく、ルキウスは胸に手を当てて、小さく会釈をした。
◆
ついに開会式が始まった。何人いるのか分からない――ザッと見て、五十人は軽く超えているのは確実だ――参加者たちが、全員、大会の舞台に集められている。そんな人々を見下ろすように、ピジョンブラットルビー伯爵が立ち上がった。
「――皆の者!」
腹から声を出した伯爵の声は、全体に響き渡った。それぞれ会話をしていた人々も、皆だまり、参加者も観覧者も、会場に居合わせた全ての人がピジョンブラットルビー伯爵を見上げた。
ピジョンブラットルビー伯爵は両腕を広げ、堂々と開会のあいさつを始めた。
「此度はよくぞ、この大会に集まられた。存分に実力を発揮し、己が腕を周囲に見せつけるが良い!」
オオオッ! という歓声が上がる。
ここまではよくあるような挨拶で、ルキウスも弓をしっかりと握りながら聞いていた。
ピジョンブラットルビー伯爵は、すう、と息を吸い込んだ。先ほどまでの会話とは違う、明らかな事前準備の、呼吸だった。
「そして……。ルビーの血族よ!!!!!!!!!」
まるで暴風が吹きつけるような声であった。遠く離れた位置にいる男性の声とは思えない迫力がそこにあった。
「我ら!!!!!!! 武をほこるルビーの子!!!!!!!!」
「オオオオオオ!!!!!!!!!!!!!!」
ピジョンブラットルビー伯爵の声に呼応するように、周囲にいた参加者の大半が、とてつもない声を上げ始める。距離のある伯爵一人の声ですら、吹き付けてくるような迫力があったというのに、すぐそばにいる無数のルビーの血族の参加者たちが腹から声を出したらどうなるか。
ルキウスの隣の隣の隣に立っていた参加者(ルビーの血族ではない人)が、ふらりと揺れた後、倒れた。
耳を塞いでいる者も、何人も現れている。
それに気づいているのかいないのか、ルビーの宣誓は続く。
「武器を取るが良い!!!!!!!!! 力を見せるが良い!!!!!!!!! 家名に相応しい戦果を挙げよ!!!!!!!!」
「オオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!!」
「強くなき者ルビーに非ず!!!!!!!!!!!!!!!!」
それは、ルビーの合言葉か何かだったようだ。
参加者たち(ルビーの血族)は拳を握り、天に向かって拳を突きあげながら、何度も繰り返した。
「強くなき者ルビーに非ず!」
「強くなき者ルビーに非ず!」
「強くなき者ルビーに非ず!」
「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!!!」
人間の声だけで、大地が揺れるのだとルキウスは知った。
(と……とんでもねえ所に来てしまった)
強くなき者ルビーに非ず!
強くなき者ルビーに非ず!
強くなき者ルビーに非ず!




