行きも帰りも悪いんですが
鬱蒼と茂る銀杏の、まだ青々とした葉が目に優しい。
そういえばあの時平里が植えてた若木はどうなったかな、と思いながら魔導拳銃を手に瓦礫の上を歩いていると、不意に襟を後ろに引かれた。
「前に出過ぎだ!」
「あ、すみません。」
あれから……私が当主になってから1週間が過ぎた。
引き継ぎに会議、人員配置に訓練場の再整備と忙しくて、合間を縫うようにしか特訓出来なかった。無念。
まあでも、高梨もそれなりに動けるようにはなったし、私も前よりは痛みに意識を割かれないようになったと思う。
それに茜塚が村民の教育係を引き受けてくれたから、多分いい方向には向かえてると思う。
多分、だけど。
私は兄さんたちみたいに先見の明はないし、何より最終的に暴力一辺倒だから……確信は持てない。
だけどきっと、ちゃんと変わってる。と、思う。
そんなこんなで休暇が終わってすぐにまた任務に駆り出された訳だけど。
「……あーあ。なーんでまた一緒なんだろ。」
「それはこっちのセリフだ!」
茶髪の少年___Sクラス2年の吉川文目は菖蒲色の目を鋭く細めると、あからさまにため息をついた。
「俺だってあんたみたいな生意気な奴と組みたかなかったよ。」
「奇遇ですね、私も同じ気持ちです。」
「なんだ、気が合うじゃねーか。後で基地戻ったら相談してみようぜ。」
「良いですねー!……っと。そこ!」
物陰から飛び出した影に向かって引き金を引くと、パンッと乾いた音が周囲に響いた。
当たったそばから影はどろりと溶けてゆき、最後に小指の先ほどの破片だけがその場に残った。
「ちっちゃーい。珍しい。」
「大きさがこれってことはかなり若い個体だな。もうこの辺は狩り尽くしたんじゃねーの?」
「ですかねー。じゃ、戻りましょっか。」
「そうだな。さっさと相棒変えてもらいたいし。」
「ですねー!」
あはは、と乾いた声で笑いあって、私と吉川文目は基地へと引き返した。
***
「たっだいまー……戻りましたー!!!」
「うるさい。2年吉川文目、1年古賀爽耶両名帰還しました。」
瓦礫の街の入口付近。白い天幕がいくつも並び、イカつい装甲車が出入りしている全線基地。
その中でも1番大きな天幕へと入ると、中央のテーブルの上に地図を広げていた上官たちが顔を上げた。どうやらこういう場では相変わらず紙の地図が使われてるみたい。
「無事でよかった。何か異変は?」
「ありません。哨戒中も相変わらずモンスターとしか遭遇しませんでした。」
「そうか……」
少壮の男性___久米上官は口元に手を当てると、地図の上に赤く×印をつけた。
「……本当に、こんな場所にあるんですかねぇ……」
テーブルを囲んでいたうちの1人がぽつりと呟いたが、久米上官は苦々しそうに眉間に皺を寄せただけだった。
「上層部はここに解放軍の拠点があると踏んでいる。命令がある以上、見つかるまで帰れんさ。」
誰が言ったか、どこか諦めたような声に皆乾いた笑い声を上げた。
……ホントに嫌だ……。




