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かくも世界は醜くて~魔導師学校の陰陽師~  作者: おおよそもやし
空空周りて行先なし
111/113

百射百中※流血

そこまでグロテスクではないと思いますが、流血描写があるため苦手な方は注意してください。

 銃身が短いにもかかわらず、平里は駆けながら離れた石積みを的確に撃ち崩していく。本人の技量の高さももちろんあるんだろうけれど、引き金を引く度に走る魔力の軌跡が空気なんてないみたいに真っ直ぐで、星が降るみたいで綺麗だった。

 ひとつ重圧の減った高梨は少し落ち着いたようで、先程までよりも幾分か顔色が良い。これなら問題なく次の鳥居まで辿り着ける_____

 そう、全員が思っていた。


「……っ!ごめん!」

「え?」


 背中を押される感触。突然のことに足が縺れて、視界が傾いて真横になっていく。

それでも躾られた直感は勝手に受け身を取った。ころりと転がって平里の足元に身を寄せると、平里が僕の襟首を掴んで立ち上がらせた。

 その手の震えに尋常でない状況を悟って、僕はゆっくりと振り返った。

 散らばる赤と、岩場にこびりついた粘り気のある何か(・・)。鋭い牙の並んだ顎門(あぎと)噛み潰される枯れ草色の瞳と目が合った。

 びちゃりと脳か脂肪かも分からない、白っぽい肉片が飛び散って僕の顔を叩く。それでも彼女(・・)はやはり死ねずに、ぼこぼこと細胞分裂を繰り返して元の形へと戻ろうとしていた。


「……佐伯!お前らは鳥居の前まで先に行け!」

「は!?突然、なに……え?」

「ここは俺たちでどうにかする!お前ら(久米と大伴)高梨(八咫烏)を守れ!」


 ……正直なところ、楽観視しすぎだったのだ。僕らも、望月穂稀も。

 十数年程度ならまだしも、千年以上も経って変わらないものなんて、石でも有り得ないのに。そんなこと、知っていたのに。


「……何アレ。ここが黄泉の国なら、ここは黄泉醜女(よもつしこめ)とかじゃないの……?」


 望月穂稀の再生を待たずに肉体を引き裂き続ける三つ首の獣。3つの首それぞれが鋭い牙と丈夫そうな顎を持ち、赤黒い液体がだらりと滴っている。体高は平里より頭ひとつ分高いくらいだけれど、その脚や蛇のような尻尾は太く重そうで、殴られたらひとたまりもなさそうだ。


「……ケルベロスだ。」

「けるべろす……?知ってるの、平里。」

「俺の神様が……外の国の神様なんだ。それで、穂稀さんに教えてもらって……」


 ……外の、神様……いや、でも『日本書紀』にも三韓征伐とかあったし、海の向こうにも国があること自体は有り得るのかも。それに、今はそんなことを考えてる場合じゃない。


「そうなんだ。……それで、あいつはどんな怪異なの?」

「ケルベロスは冥界……黄泉の国と同じ、死者の暮らす地下世界の入口の番犬で、侵入者や脱走者を貪り食らう犬の怪物らしい。」

「入口!?ここ、だいぶ下って来てるのに……」

「ここが三倉咲良の霊域だから、だろうな。霊域の主はある程度霊域を自由に組み替えられる。

……主の知能が高ければ、こうして要素を追加できるんだろ。」

「そんな理不尽な……!」


 こうしている間にも望月穂稀は食われている。引き裂かれた傷口が盛り上がって肉が再生する度に食いちぎられるのに、悲鳴を上げるための喉すら噛み切られて、短い呻き声だけが断続的に聞こえるばかりだ。

 望月穂稀が食われている間はあの犬は大人しいのだろうし、三倉咲良に死を取り上げられている望月穂稀がそれで死ぬこともない。だけど、その間に感じる苦痛まで取り上げられた訳じゃない。

 この間だって、どれ程の苦しみの中にいるのか。腕が治っても脚が治っても、再び潰されるまで逃げようともしないのは、きっと僕らを逃がすためだ。

 ……息が苦しい。何もできていないことに焦りが募る。

 早く……早く助けないと。


「……弱点は!?神話なら攻略法があるはずでしょ!?」

「……甘いもの、竪琴の音、あとは……怪力?」

「そんなの、今は……」

「大岩がいれば話は別だったんだろうが、あっちはあっちで役割があるからな……別の方法を見つけないと、攻略は不可能だろうな。」


 別の弱点たって……神話を元にした怪異に神話以外の弱点があるの?だけど、見つけないと助けられない……!


_____『この位の石積みがあるはずだから、みんなにはそれを崩しながら進んで欲しいんだ。』_____


「……あっ!石積み!」

「しまった!」


 目の前の状況に夢中で、最初に言われたことをすっかり忘れてしまっていた。道の端に顔を向けると、ちょうど小さな手が最後の石をてっぺんに載せようとしているところだった。咄嗟に手を伸ばしても、とても届く距離ではない。

 僕の声に反応して平里がすぐに銃口を向けたけれど、もう引き金を引くには遅すぎた。


「まっ……」


 間に合わない_____!

そう思った直後、煌めく一閃が小石を散らし、地面に突き刺さった。呆然とその鋭い光を見つめていると、下から駆け上がってくる足音が無遠慮に響いた。

参考

『まんがで読む星のギリシア神話』(株式会社アストロアーツ 2010年 第1版第2刷)

ウィキペディア_ケルベロス

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B1%E3%83%AB%E3%83%99%E3%83%AD%E3%82%B9

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