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かくも世界は醜くて~魔導師学校の陰陽師~  作者: おおよそもやし
空空周りて行先なし
110/113

河原者

 蜃気楼のような鳥居を潜ると、等間隔に並んだ石積みが道の先に続いているのが目に入った。

 先頭を進んでいた高梨が控えめに足で払うと、簡単に崩れて坂道を転がっていった。丸い小石でも崖の方へは落ちていかないあたり、きっとこの石もこの区画に縛られた存在なのだろう。


「……出てこないですね。先ほどの話なら、子どものモンスターがいるんですよね?」

「そのはず、なんだけど……」

「あん時は……小さな手がうじゃうじゃといたよな?」

「だよね。」


 石積みを崩しながら辺りを見回す高梨の問いに、僕と平里は顔を見合せた。随分昔になってしまった記憶を手繰り寄せて、そしてその時の状況を思い出してハッとした。

 あの時は確か、最後尾から襲われていったんだった。誰も気づけなかったなら、最後の1人が鳥居を潜ることで出現するのかもしれない。


「望月さ_____あれ?」


 振り返ってみてもすぐ後ろには誰もいなくて、視線を少し遠くに移すと、立ちすくんだように鳥居の向こうにいる望月穂稀が目に入った。俯き裾を掴む姿に幼い頃のサヤが重なって、望月穂稀の成長しきった大人の容姿とは不釣り合いに見えた。

 どう声を掛けるべきか、手を引くべきかと悩んでいるうちに、平里が僕の肩を軽く叩いてそっと口を開いた。


「……穂稀さん。行きましょう。」

「…………そう、だね。ごめんね。今更緊張してたみたいだ。」


 低く静かな声色は子どもに呼びかけるようで、ひとつしか違わないはずの平里がずっと年上みたいだ。……僕らが死んでからも平里は生きていて、生まれ変わってからも最近まで会えなかったのだから、僕の知らないうちに何かがあってもおかしくはない。

 だけど……なんでだろう。


「モヤモヤするー……!」

「神原?」

「なんでもないよ!」

「はぁ。なら良いけど……無理はするなよ?ただでさえこの霊域は」

「分かってるって!大丈夫だから!……望月さん、早く行きましょう!」


 平里の言葉を遮って、顔を望月穂稀の方へと向ける。あからさま過ぎたのか、望月穂稀は何かを察したようにニマニマと嫌な笑顔を浮かべて、そっと一歩を踏み出した。


「……神原くーん?」

「……なんですか。」

「面白いもの、見せてくれてありがとうね。おかげさまで緊張がほぐれたよ〜。」

「見世物じゃないんですけど!」

「神原落ち着け。どうどう……」

「馬じゃないんだけど!?」


 鳥居の真下でけらけらと笑っている望月穂稀にはもう先ほどまでの弱々しさは見えず、すっかり平静を取り戻しているようだった。短くなった髪をも振り乱す勢いで抗議をしている僕の両肩を軽く叩いて落ち着かせようとする平里の手のひらが優しくて温かくて、昔にもこんなことあったな、と少し懐かしくなった。


「……さて!総員、河原の石積みを崩す準備はいいかい?」

「言葉だけ聞くと最低ですね。」

「子どもの積んだ、ってお話だしね。」

「まぼろし相手に気にしないの!準備はいいの?それとも悪いの?」

「あ、できてます。」

「問題ない。」

「……おー。」

「佐伯、返事くらいしゃんとしろよ。」

「佐伯さんができてないそうでーす。」

「できてる!」

「……だそうでーす。」

「よしよし。それじゃあ_____字面通りの鬼ごっこと行きましょう!」


 望月穂稀は笑顔をしまい込んで真面目な表情になると、深く息を吸い込んで鳥居の下から飛び出した。


***


崩すそばから積み直し始められる石積みを全員で崩していく。横を通しぬける時に足で払えば良いだけだから、ここは別に手間どらない。

実際、手の群れは小石に夢中でこちらを気にしないし、蝦蟇(がま)も出てこない。

だからあの頃に比べて楽。楽……な、はずなんだけれど。


「……高梨?顔色が悪いが。」

「まだいけます。久米上官、早く行きましょう。」

「…………いざとなったら担ぐからな。」


先頭を進む高梨だけは別だ。

迫り来る手の群れの圧と、石積みを見落としてはいけないという緊張感。ただでさえこんな高位の霊域に入ったことのない高梨の精神は、既に摩耗し始めているようだった。

権能で癒そうにも距離が離れているし、何より僕の権能の効果は実在性に依拠するから、精神に対してはほんの気休め程度だ。世界だって概念と思われがちでもきちんと僕の周囲に実在しているから再生させられるわけで、脳の電気信号でしかない精神はどうにもできない。

とはいえ、高梨は突破口だ。どうにかしないと……

……あ。


「平里。」

「狙撃しろと?」

「さっすが平里!話が早い!」

「お、おい!待ちなさい!跳弾したらどうするんだ。」

「跳弾?何言ってんだ?」

「佐伯。」

「……何言ってんですか?」

「あんまり変わってなくない?」


久米上官の懸念も尤もなことだけれど、それは銃に弾丸が込められている場合の話だ。どうやら学園側の装備とは違って、平里のいる解放軍側の装備の水準は半世紀以上の進歩を遂げている。

以前サヤと共闘していた時に見たあの魔導狙撃銃、あれなら跳弾の心配もない。なんなら、弾丸が不要だから荷物も軽くて済む。

……外套の中に大荷物入れて平気みたいだから、果たして重量を気にするかはよく分からないけれども。


「……この狭さだと、狙撃銃は少し取り回しづらいな。」

「えぇー……ダメってこと?」

「だからこっちを使う。」

「さっすが平里!準備いい!……あれ、でも魔導拳銃だと飛距離も短いし、そこまで威力出ないんじゃ……?」


 平里の取り出した白い魔導拳銃は、その手のひらよりも少し大きいくらいで銃体も短めだ。近距離戦ならまだしも、石積みを狙撃しなければならない状況では不向きなように思える。

 僕が石積みをゲシゲシと積まれるそばから蹴っ飛ばしながら首を傾げていると、平里はニヤリと得意げに笑った。その笑顔の頼もしさに胸が熱くなって、期待することを許されているような気がした。

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