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イストワール国~その花の名を私は知らない~  作者: 天音蓮
第三章 事件編

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語られたシェリールの秘密(2)

サブタイトルを変更しました。

表現を修正しました。

 コンスタンティンは再び皆の前に立った。


「呪詛の術者は以降、鳴りを潜めた。しかしシェリールが戻ったことで術者が再び動き出し、新たな呪詛を仕掛けてくる可能性も捨てきれぬ。また、此度の犯人が呪詛の術者と関わりがあるとも考えられる」


 表情も硬く話を聞き入る一同をコンスタンティンは見渡した。


「となれば、必ず妖石や贄を集めるはずである。皆も知るとおり、妖石は主に呪詛に用いられ、簡単に手に入る代物ではない。だがシェリールを襲ったレクタには、妖石が複数使われた。

 ひょっとすると、妖魔の出るような傾きかけている領があるやもしれぬ。貴族の不審死や行方不明事件も含め、秘かに情報取集に励んでほしい。──以上だ」



 コンスタンティンと入れ替わり、アルフレデリックが一同の前に立った。


「倒したレクタは妖石を食らっている故、魔石にはできぬ。目立たない処にまとめておくように。その後、庭の血痕をディアヌローズが目覚めるまでに浄化してくれ。では手分けして始めよ」


 各々、散っていった。




 ディアヌローズをマリレーヌに任せ、コンスタンティンとミゼリコルド、アルフレデリックの三人は別室に移った。

 応接卓を囲み、お茶が出されると人払いをして遮音の魔術を展開し、無言でお茶を口にした。


 お茶が半分ほどになったティーカップの底をアルフレデリックは見つめた。

「呪詛の術者はなぜ存在を消したのか……」


 誰に尋ねるでなく落とした言葉をミゼリコルドは拾い上げた。


「元々、人を呪う、などという行為は密やかに行われるものだ。あの一件が異常なのだよ、アルフレデリック」


「おふたりでも祓えなかったほどの呪詛です。先ほど話されたとおり、高魔力の贄が使われたのはまず間違いないでしょう。魔獣や妖魔だけではない、人の贄もです。それも相当数の贄が必要だったはず。

 当時、高い魔力を持つ貴族の不審死や行方不明事件などはなかったのですか?」



 当時を振り返るように、コンスタンティンは肘を置いた手で顎を摩りながら遠い目をした。


「その可能性は我々も考え、調査を行った。ランメルトはもちろんのこと、プリエテールをはじめとする親交の深い領地からも、そんな話は聞こえてこなかった。──他の、親交の浅い領地は分からんな」


「周到に準備され、実行されたと?」


 コンスタンティンは僅かにお茶を口にした。


「ああ、おそらく。確実に言えるのは、術者があの日、シェリールの祝いがあると()()()()()ということだ。洗礼前の子の存在など、よほど親しくなければ知り得ぬ。だから我々は、慎重にならざるを得ないのだ」


「なぜディアヌローズ、いえ、シェリールを狙ったのかと考えた時、両親のどちらかに恨みがあったと考えるのが妥当ではありませんか?」


 ミゼリコルドは首を振って否定した。


「シェリールの父母は、誰かに恨まれるような性質(たち)ではない。恨む者というのは利己的な理由を付けて、どれほどの善人に対してでも息をするように恨むのだ。厄介なことにな」


 コンスタンティンは顔を歪めた。

「善人なのが気に入らぬ、というやつか」

 お茶を煽るように飲み干し、ガチャリと音を立ててティーカップをソーサーに置いた。


「ああ、そうとも。だが、呪詛のために贄を山と積むような(やから)は、いくら狡猾にしていようともいずれは暴かれよう。心は目に表れるもの。衆人の目を隠し切れるものではない」


 ミゼリコルドもお茶の最後のひとくちを飲み干して、ティーカップを静かに置いた。



 暫く沈黙がおり、「話は変わりますが」と、アルフレデリックは口を開いた。

「ディアヌローズは祝いの日に加護を受けていたのですね。漸く納得できました」


 コンスタンティンは怪訝な目をアルフレデリックに向けた。


「何かあったか?」


「祈りの日に中央聖堂で、ディアヌローズは常にない加護を受けて倒れたのです。本来であれば助からなかったでしょう。しかしディアヌローズは命を繋ぎ止めた。

 ──私にはその理由がわかりませんでした。ですが、神より守護する加護を受けていたのであれば理解できます」


「……加護は……」


 そう言って、コンスタンティンはミゼリコルドと顔を見合わせた。

 アルフレデリックは戸惑い気味に眉を寄せて、ふたりを交互に見た。


「何か?」

「いや、……中央聖堂へはいつ?」

「熱月です。平民の祈りの日に、二階の翼廊で参列させました」


「何と……」

 僅かに青い目を大きくして、ミゼリコルドは呆れとも感心ともとれる言葉を落とした。

「過剰な加護の話は聞いておった。そうか、平民の、二階……。しかも、月を三つも過ぎた頃とはな。どうりで報告に上がらぬはずだ」


 ミゼリコルドの隣で、コンスタンティンは呆れたように肩を竦めた。

「まったく。とんだ伏兵が身近にいたものだ」


 コンスタンティンはディアヌローズが戻ったと知って、中央聖堂に迎えにいった。だが、どこにもディアヌローズはいなかったのだ。それもその筈、既にアルフレデリックに保護されていたわけだ。


 三月(みつき)の間、コンスタンティンとミゼリコルドは聖堂を中心にディアヌローズを探し、保護されるなら神官か聖堂に関わる貴族だと考えた。しかし聖堂関係者に保護した者はおらず、貴族の祈りの日に参列した子どもの中にもいなかった。平民については、中央聖堂を訪れるのは祈りの日だけなので重要視していなかったのだ。



 大きく嘆息したコンスタンティンはがらりと雰囲気を変えて、好奇心に輝く目をアルフレデリックに向けた。


「ところで、ディアヌローズが言っていた『何度も呼び掛けた』とは、何のことだい?」


 揶揄う気配を隠しもしないコンスタンティンに、束の間アルフレデリックは動きを止めて、さも嫌そうに眉を顰めた。

 その話は、ディアヌローズの意識が闇に溶けようとしていたときの話。アルフレデリックは長い話になると前置きをして語り始めた。


「──ということです。ディアヌローズが言うには、漆黒の闇で時間の感覚もなく、自分の身体が自分のものとも思えない。徐々に思考が鈍り、闇に溶けて無くなっていく感覚だと。……あの日に目覚めなければ、命はなかったでしょう」


 聞き始めてまもなくコンスタンティンの表情から揶揄いは消えて、聞き終えると深く息を吐いた。


「……そうか。よくやってくれた、アルフレデリック。あの子が見つからなくて気を揉んだが、これで良かったかもしれぬ。我々が保護していたら早々に術者に気づかれ、新たな呪詛をかけられる可能性もあった」


 しみじみ語ったコンスタンティンに、ミゼリコルドは白銀の長い顎鬚を撫でながら、小さく何度か相槌を打った。



「さて、そろそろ戻るか」

「お待ちください」


 腰を上げるコンスタンティンをアルフレデリックは引きとめた。


「皆にはディアヌローズの洗礼式について話されませんでしたが、なぜおふたりは洗礼式に『起こる』と確信を持っておられるのですか?」


 コンスタンティンは浮かせた腰を下ろし、膝の上で両手を組んだ。アルフレデリックをまっすぐ見る。


「あの祝いの日、黒い呪詛の光は()ず、言葉となって現れたのだ」






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