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転生王女は闇落ちフラグを回避したい

 私、エルフリーデ・フィン・エストラルは北の大国ヴァルヴァロッサ王国の王女として誕生した。

 心優しい母に子煩悩な父、面倒見の良い召使い達に囲まれてありったけの愛情を注がれた私は何不自由なく、すくすくと成長した。


……ただ一つ、前世の記憶を除いて。


 この世に生をうけてから、私は前世の記憶とやらを持ち合わせていた。

 前世から可愛い女の子が好きだった私は、男性をあからさまに避け、可憐な令嬢だったり、素朴なメイドさん達ばかりに懐いていた。

 その行動の例をあげると、赤ん坊の頃から可愛いメイドさんの後ろを追いかけたり、怖い執事長の目を盗んでは逃亡を図ったり、お父様にキスをねだられたら顔を蹴り上げて撃退するという、赤ん坊のステータスを(悪い意味で)フルに活用した——本人達が聞いたら卒倒しそうな——事を平然とやってのけていた。


 でも、考えても見て欲しい。

 目が覚めたら赤ん坊で、王女様なんて呼ばれてて。混乱しないのも無理な話でしょ?

 見知らぬ土地に見知らぬ人達。最初は困惑して、おしゃぶりを咥えながら「バブァッ!!(わけわかランボルギーニ!」とか言ってたけれど、成長していくにつれて分かったことがある。


 それは、ここが乙女ゲームの世界だということ。

 生前、私はとあるゲームに熱中し攻略対象そっちのけで主人公の女の子に夢中になるという、また違った楽しみ方をしていた。

 恋した女の子は何よりも可愛いし、見ず知らずの馬の骨共(※攻略対象達)に任せたくはなかったけれど、主人公の可愛いスチルの為に必死で攻略したものだ。


 その主人公こそが『エルフリーデ・フィン・エストラル』つまり、今の私だ。


 そんなに好きなら生まれてすぐに気づくものじゃない?とか言われそうだけど、まぁ待って欲しい。私が彼女だとすぐに気付かなかったのには訳がある。


 私はヴァルヴァロッサ国第一王女にして王位継承権第2位。こんな大仰な身分を偽れるわけないし、国王であるお父様から直々に告げられてるから間違いはないはずだ。

 対して、ゲームのエルフリーデは世界中を巡る流浪の旅芸人。王女なんて肩書きも無ければ、帰る場所もない。

 ヴァルヴァロッサ王家のみが持つ白銀の髪は一緒だけれど、彼女の緋色とは違って私の瞳は翡翠色だ。ゲームをまだクリアしていないとはいえ、ストーリー開始段階ではヴァルヴァロッサ国なんて出てきてないし、王女なんて以ての外だ。


「顔が同じだけの別人って可能性もあるけど……恐らくそれは無さそうね」


 月明かりに照らされると、私の髪は青白く輝く。ゲームのエルフリーデは素性こそわからないものの、その髪の特徴は一緒だった。


 疑念が確信へと変わったとはいえ、そうなるとまだまだ問題がある。


 まずは、私がエルフリーデになっているという事だ。

 死の間際、私は「エルフリーデと一緒になりたい」とは言った。言ったけどもね…?


「これ最早一緒じゃなくて一心同体だから!そういう意味で言ったんじゃないから!隣で添い遂げたいとかそっちの意味だから!なんで初恋の人と成り代わってんのーーー!?」


 神の気まぐれか、はたまた何者かの悪戯か。

 人生最後の願いを曲解された私は“本当の意味で”彼女と一緒になってしまった。

 自分とは付き合えないし実質的な失恋ということになるんだけど、それにしたってこんな失恋の仕方ある…?


「毎朝鏡を見るたびに自分にときめくって、嫌だよそんな新手のナルシズム…」


 何で!自分と!結婚できないの!?

 成長した美少女は己の運命を悟り、執事長に泣きながら訴えた事がある。それに対する返答は「ご自身が大好きなんですね…」という、ドン引き以外の何者でもないものだった。

 何故かそれ以来使用人がよそよそしくなった気もするけど、まぁそれは置いといたとしてもだよ。


「ゲームのエルフリーデと私の性格が違い過ぎる気もする…」


 いや、もちろん中身は違う人だから仕方ないんだけど、ゲームのエルフリーデは世の中のことを悲観し過ぎてるっていうか……何事に対しても諦めた態度で、死に場所を探してるって感じなんだよね。


 今の私は前世の「野生児」と呼ばれてた私の性格そのものだけど、少なくとも周りがゲームと同じならばエルフリーデは両親や召使い達に愛されていたはずだ。

 それなのに、王女という身分を捨て世捨て人の様に世界を放浪してるなんて、どうにも話が結びつかない。


「うーん、私達の瞳の色が違うのも何か関係してる…?」


 ゲームでは絶望の中にいるエルフリーデが、攻略対象である男性達と出会って生きる希望を見出すっていうストーリー。

 だけど、彼女が「死にたい」と思うような出来事が少なくとも16歳……ゲームのエルフリーデの年齢に達するまでには起こるということだ。


「そうなると、私も他人事じゃないよね」


 エルフリーデとして生きることを決めても、待ち受ける困難を甘受できるかと言ったら話は別だ。できる限りそれは避けたい。


「とは言っても、私に何が出来るんだろう…?」


 世間的には齢4つの可憐な姫。

 誰かに助けを求めようにも事情を説明したら、子供の絵空事としか受け取ってもらえないだろう。

 どう考えても良い案はでないし、結局頼れるのは自分だけということかもしれない。


 しかし、何がいつ起こるかわからないのがネックだ。

 かと言ってのうのうと王女ライフを満喫するわけにもいかない。このままでは人格を変えるほどの事件が起こって、興味のないイケメン達との恋愛フラグが立ってしまう……!


「なんで恋愛フラグの前に闇落ちルートがあるのかなぁ…」


 普通、恋愛フラグが立ってから闇落ちルートも分岐点として存在する程度で、前提として闇落ちルートに行くとか主人公に厳し過ぎない……?


「全く、恋愛フラグなんていらないから、闇落ちフラグを回避したい……」


………………あれ?


「逆に考えれば……闇落ちフラグが恋愛フラグを生んでる?」


 独り言が加速する中、私はある事を思いついてしまった。

 エルフリーデが攻略対象と会って恋をするのは、彼女が世を悲観するようになってからだ。

 つまるところ、シナリオライター的には恋愛をする事で絶望の淵にいる少女が未来に希望を抱くって事にしたいんだろうけど、そもそも恋愛フラグを叩き折っとけば闇落ちフラグは事前回避できるのでは…!?


「それがゲームの主軸となってるし、闇落ちがなければ乙女的ストーリーも始まらない…」


 さては私、天才だな?


「他に方法もないし、試してみる価値はありそう!」


 失敗したらその時はその時だよね!うんうん!

 予想外のフラグ回避方法を思いついた私は、浮かれ気分で鏡をニコニコと見つめた。

 それを陰で見ていたメイドさんが「またお姫様、ご自分を見て笑ってらっしゃる…」と言ってたらしいけど、私の耳には届かなかった。


 だから、私は忘れていたんだ。


 この世界がゲームとすべて同じではない事に。

 そして、乙女ゲームの主人公が持つ特有のチート能力があることに…。

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