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属性は陰でした。  作者: はる


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第7話 深緑の狩人


ギルドの中へ足を踏み入れると、声がさらに大きな喧騒がこえてきた。


石畳の上に並べられた幾つもの木の机に、料理片手に騒いでいる冒険者達

その奥には、掲示板と思われる板が貼ってある。


「あった…これだ、掲示板。」


「討伐依頼に、採集依頼。……かなりの量があるわね…。」


「序盤に受けるなら採集依頼が、安全でしょうね。けれど報酬が見合っていない。」


貼られていた紙には「薬草採集依頼」と書かれており、「報酬5000ゼニ」とあった。

5000ゼニ。この世界での物の価値などは分からないが、日本で5000円で25人分の食料を補充するとなると確実に足りない。


「やるなら討伐依頼か……」


「そうね。一応影山君にも聞いておいて、討伐もできそうな人を選んだわ」


煌矢、炎纏、結界術、鑑定眼という攻守に関しては問題ない編成に拓也の鑑定眼を合わせれば、危険になることはほとんどないだろう。


「たしかに……それじゃあこの依頼は?」


小春が手に取ったのは「ゴブリン討伐依頼」であった。報酬は1匹討伐する事に5000ゼニ。


「決定だな。ならこれを受けるか……?」


「ああ。」


悠達は依頼受付と書かれたカウンターへ紙を持って行く。


「すみません、この依頼受けたいのですが……。」


「承知致しました」と軽く頭を下げ、依頼を確認する。そして受付嬢は少し驚いた顔で、こちらを見た。


「どうか致しましたか?」


「い、いえ。すみません、あまり見ない顔でしたので……依頼を受けるのは初めてですよね?」


受付嬢はそう言って人数分のカードをスっと取り出す。


「このギルドカードを授けておきます。依頼を受ける際にはこちらのギルドカードが必須となります。再発行には手数料が発生しますので、そこだけご注意くださいね。」


ギルドカードを受け取り、内容を見る。


「え?!なんで……」


横で小春が驚いた声を出す。

受け取ったギルドカードには既に、自身の能力やステータスを映し出していたのだ。


「指でカードに触れるとそのまま解析が始まり、自分達の能力やステータスを数値化できるようになっています。また魔物を倒して行く事に経験値が入り、レベルも上がります。」


「これ……すごい」


拓也はカードを見つめながら呟く。


「悠君、これすごいよ……。このカードに解析魔法が組み込まれてる……!それもかなり高度なものだと思う……。」


「そっか……鑑定眼でわかるんだもんね」


はしゃぎながらカードを見る拓也を横目に、悠は受付嬢へ聞いた。


「それでお姉さん、この依頼受けるには……」


「はい、こちらに印鑑を押させて頂きました。これで大丈夫ですよ。……ですが、皆様初めてだと思うので一応忠告というか……」


「この依頼の指定場所の洞窟なのですが……。」


歯切れ悪そうに、受付嬢が言い淀む。


「どうかされたのですか?」


綾の言葉に声を落とし、受付嬢は周囲を気にするように視線を巡らせた。


「昨日から、洞窟周辺の森で魔物の死体が冒険者を襲う事件が相次いでいるのです。もう既に4件の報告を受けています」


「死体が……動く?」


「アンデット……と言うやつか?」


冗談を言っているようには見えない。


「はい……ですが本来であればアンデットはここ周辺に現れるはずが無いのです。……こちらでも調査を進めていますが詳細はまだ不明で。……ですので、どうかお気をつけて」


そう言って受付嬢が差し出した依頼書。

悠は手に取り、軽く息を吐く。


初めての依頼。


胸の奥には緊張感と高揚感。そして少しざわつきが感じられた。


「行きましょう。周囲の警戒は影山君と雨宮君でお願い」


先程の言葉を聞いてか、綾の声は少し警戒に入っていた。



ギルドを後にした悠達は、そのまま街道を抜け、指定場所の森へと向かった。


昼間だと言うのに、森はやけに薄暗い。


風を受け、ざわつく木々が悠達の心を大きく揺らす。

その風の中に混じり、少しの獣臭があった。


森そのものに警戒されているような、緊張感を覚える。



「指定の洞窟は……ここを少し先に行けばあるみたい。……今の所、周辺に危険な魔物はいないよ。」


「僕の方も魔物は見えない。進んで大丈夫そう」


「了解だ……。行くぞッ」


雅人の掛け声を合図に、一斉に駆け出し洞窟へ突入した。


洞窟へ一歩踏み入れると、より異質な空気が悠達を包み込む。洞窟という殆どが閉鎖された空間だからか、あるいは……奥にいるゴブリンの気配だろうか。



石の上を歩くと音が、洞窟内に響く。

前衛を小春、雅人、中衛に綾、後衛に悠と拓也。


「ちょっと間って……。」


ふと拓也が、暗闇の先を見つめて声をかける。

少しだけ声が震えている気がした。


「……10?……いや、20……ッ!奥に大量に何かいます!」


冷や汗を流す拓也の言葉に、皆の顔は一瞬こわばり警戒態勢へ。


静かになった空間の奥から、何かが耳に届く。

それは確かにゆっくりではあるが、こちらへ近づいてくる。

音が近づくにつれ、皆の顔はさらにこわばっていく。


「……っ…。」


少しだけ差し込む陽光が、音の正体の足……と思われる部分を照らす。


……深い緑色に、荒れた肌。

子供の様な体躯に、細長い四肢。その手には鋭利な短剣を握っている。

赤く鋭い瞳が、こちらを覗く……。


そして一呼吸起き。



「ギェェァァァァァツ!!」


甲高い不快な声が、耳を劈く。

その咆哮と同時に、真っ直ぐに小春を狙う。


「……ひ……ッ!!!」


青ざめ、初めて見る異形に腰を抜かしてその場にヘタレこんでしまった。


「ッ!!坂本さん!結界を!!」


「……ッ!」


悠の声でハッとした顔で我に返り、

すぐさま両手を翳し、結界を展開する。


間一髪。

短剣が小春にあたる直前に、結界が展開されガギンッ!と弾かれる。


「ギェェッ!!!」


衝撃で、後ろへ飛ばされたゴブリンを雅人が追撃する。


手には炎を纏っていた。薄暗い闇を晴らす様な眩い光。その光が一直線にゴブリンの腹めがけ衝突した。


「……ッ!皆さん!まだです!……大群……来ますっ!」


先程の音か、雅人の炎か。

何に反応したかは分からないが、拓也は顔を顰めながら先を見つめる。


次々に、赤い瞳が姿を現す。

その数は20は越えている……。

拓也の見立てを上回っていた。


甲高い雄叫びを上げながら、一斉に迫るゴブリン。

異形、異臭、異音、想定外。

その全てが重なり、皆の反応が遅れてしまう……。


「佐久間くん!小春を連れて後方へ!坂本さん、すぐさま結界を展開して!!」


「ッ!あぁッ!」


悠の声に、雅人が小春へ飛び移り肩に抱え後方へ飛ぶ。そのタイミングに合わせて綾は結界を展開する。


「……くそっ。量が拓也君の見立てより多いッ」


「ご……ごめん……。」


蒼白な顔をしながら悠に謝る。


「謝ることじゃないよ。予想外のことが起きただけだよ。……坂本さん。あと何秒持つ?」


「ッ……もって……20秒……ッ!量が多すぎる……ッ!」


質量の圧というのだろう。

ゴブリンたちは結界を割ろうと攻撃し、突進しを繰り返している。


「わかった、ここからは僕が指示を出すよ。」


否定はなかった。

2度の悠の号令。それで救われた命が2つもある。


「雅人にこれを」


はるは先ほどのゴブリンが持っていた短剣を渡す。


「これは……」


「説明するより実戦で使った方が、いいかもしれない。」


時間が限られた中、最小限だけ告げていく。


「小春、大丈夫か?」


「大……じょうぶ……。」


青ざめた顔の小春。

だが、構っている余裕は、無い。


「そうか、強いな小春は。……僕たちが3分稼ぐ。だからその3分間で、煌矢を最大威力まで溜めてくれ。……この戦いは小春が希望だ。」


「……え?……僕たちって……」


悠が言った「僕たち」という言葉に一瞬、止まる。


「ああ。僕も討伐に参加する。……役に立つかは知らないけどね」


悠は苦笑いを浮かべた。

自分の無力さは自分が1番、よくわかっているものだ。


「そろそろッ!限界だっ!!……壊れるッ!!」


「拓也くんは引き続き、情報を頼む!」


パリン……ッ!

という音と共に、結界の破片が散らばった。

そして一斉に責めてくる、ゴブリンたち。


その瞳には、悠達を獲物としか認識していないように襲いかかるッ!



「悠!行くぞッ!!」


「わかった!!」


ふっと息が切れたように、ゆっくりと後ろへ倒れる綾の横を、同時に2人は駆け出した。

覚醒したように雅人の短剣に炎が宿る。


「はぁッ!!!」


迫って来るゴブリンの頭を短剣で1突き。

ゴブリンが絶命し、持っていた太い棍棒が地面へ落ちる。


悠は身を低くしてその棍棒を握り、そのまま前方を薙ぎ払うッ!


「ギェェッ!!」


と言いながら吹っ飛ぶが、やはり絶命には至らない。

悠が先陣を切り、ゴブリン達をよろめかす。

よろめいた、隙に乗じて雅人が短剣でトドメを刺す。

それの繰り返しだった。


「はぁ……ッ……は……ぁッ」


順調に思えるが、それは理論上の話。

悠のスタミナが絶え絶えになる。

身体中に打撲後、切り傷。

致命傷にならないが、確実に体力を削るものである。


雅人がゴブリンを倒している最中に膝に手を付き、その場で息継ぎ。

そしてまた仕掛ける。


「佐久間くん!左行くよ!!」


「あぁッ!!」


雅人も衣服がボロボロになりながら、呼応する。

そのコンビネーションは即席にしては上出来だと、後方から情報を処理していく拓也の目に映っていた。


ーーーーー残り1分。


かなり倒したたはずだった。

軽く数えても15匹は行っているはず。

だが、数は一向に減らない。


「悠君!この奥からはもう今度こそ反応を感じない!これで最後のはず!!」


拓也の掛け声に、悠と雅人は闘志を限界まで引きあがらせる。


「まだッ!!やれる!!」


「そうだねッ!!」


コンビネーションは上々。だが、2人の動きは素人その物だ。上手な短剣、棍棒の扱い方など知ったこっちゃない。

ただ、目の前に来るゴブリンを薙ぎ倒す事だけを考える。


「悠君!後ろ回り込まれてる!!」


「ッ!!」


棍棒を思いっきり、後ろへ振りかぶる。

死角を狙うゴブリンが、壁面へ頭から激突した。


そして振り返り、前方の敵をまた攻撃するーーーー。


はずだった。


トスッと、悠の腹部へゴブリンの短剣が突き刺さる。

鮮血が後方へ飛び散り、ゴブリンは狡猾な笑みを浮かべた。


「悠ッ!!!!」

「悠君ッ!!!」


雅人は短剣を、腹部をさしたゴブリンへ突き刺した。

そのまま短剣ごとゴブリンを持ち上げる。


そして雅人の炎纏の出力が上がった。

火達磨になるゴブリンを、そのまま前方へ投げつける。


「消えてろッ!!!」


渾身の一投が、何匹ものゴブリンをまとめて吹き飛ばし、炎が伝染する。


「いけるッ!離れて!!」


小春の一声。

その声を聞き、雅人は悠を抱え横へ飛んだ。


煌矢が飛来する。


放たれた3本の煌矢は、誰が見てもわかる通りの質量、魔力量がある。


悠と雅人の横を一瞬で通過した煌矢は、そのままゴブリン達の頭部を次々に吹き飛ばしていく。


煌矢が洞窟の奥へ衝突し大穴を開ける頃には、生きているゴブリンは1匹もいなかった。


「悠ッ!!!」


「……ッ!!!」


駆け寄って、飛びついてきたのは小春だった。

アドレナリンは切れ、激痛が走る。

遅れて、綾を抱えた拓也が到着する。


「悠君……傷ッ!!すぐに戻ろう!!」


「小春離れて、俺が悠を持つ。」


「……わかった…。」


寂しげな表情を浮かべ、小春は食い下がる。

悠の傷を見て、この場に回復要因がいればと誰もが思ったであろう。


だがさすがに腹を貫かれて、死なない人間はいない。

……悠の意識は、雅人に背負われたまま途絶えた。






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