第2話 役立たず
ステータスの確認を終え、神官たちは再度中央へと集まった。
「全て確認致しました。……それでは、場所を変えましょうか。」
パチン
また神官が指を鳴らすと、さっきの場所とはうって変わった場所へと移動していた。
3度のわけの分からない経験を経て、驚く者は少なくなっていた。
「ここは……?」
「皆さんの住居になります。」
そういいながら神官は、懐から1枚の紙切れを取り出し机へ広げる。
「この家の見取り図です。ここはリビングですね。」
リビングと呼ばれたこの場所。
木目調を基本とし、家具にキッチン、その他の生活に困らないような備品が、綺麗に配置されていた。
「ここから廊下を進むと、人数分の部屋がございます。ご自由にお使いください。」
ひとしきり神官は話すと。少し間を置いて話し始める。
「私の役目はここまでになります。皆様、目的を忘れないようお願い致します。」
神官は立ち上がり、そのその場を去ろうとした。
だがそれを、小春は引き止める。
「ちょっと待って…。」
「何か?」
神官は振り返らない。
そのまま声を出す。
「役目はここまでって……私たちはこれからどうやって行けばいいの?」
至極真っ当な意見であった。その疑問はおそらく小春だけじゃなく、このクラス全員が疑問に思っている事だ。
この場所についての説明。呼び出した目的。
案内された住居。
どれもしっかり説明されたが、細かなところが省かれて曖昧なものだった。
「そうだよ!いきなり魔王討伐して、とかここが住む場所です。とか言われても細かい事なんも言ってないじゃねぇか。」
「それは皆様で考えてみては?」
神官がこちらを見る目が強くなった。
クラスの何人かは、その威圧に負け肩が震え出す。
「何をしようとも、魔王討伐という大義名分を忘れぬ限り私たちはあなた方に干渉致しません。この場所を捨て新たに宿を見つけるのも、依頼を引き受け魔物を倒そうと、ダンジョンへ潜入しようと。好きにすれば良いでしょう。」
神官は一方的に告げ、音もなくその場から消え去ったのだった。
「なんなんだよ……。」
「…………」
話そうとする人はいなかった。
だが、この状況を変えなければ何も始まらないことは明確である。
委員長としての責任か、綾は重い口を割り話し出した。
「ひとまず状況を整理しましょうか。」
その一言に、クラスの何人かは顔を上げる。
「このままじゃ何も変わらないままよ。元の世界に帰る為にも、動きましょう。」
「そう……だな!」
「ああ」
「綾の言う通りだね。くよくよしてても何も始まらない。」
綾、雅人、翔太、小春、芽依を中心に段々と士気が上がってくる。これな陽キャの力と言うやつか。
綾はそれじゃあといいながら話し出す。
「この世界についてね。あの神官から聞いたことをまとめたら……こんな感じか。」
スカートに入っていたメモとペンで、情報を整理し出す。
この場所は、ノクステラ大陸と呼ばれる場所。
その中央にあるイルゼリア王国。
目的は魔物の王、魔王を討伐すること。
そのためには自身のステータスを、敵を倒しレベルアップさせていく必要がある。
ある程度まとめ終わり、次は各々の能力についての話し合いが始まった。
「じゃあまず、私から」
先陣を切ったのはやはり、クラス委員長だった。
「私は、《結界術》っていう能力ね。多分護衛系の能力よ。」
委員長という、このクラスをまとめ挙げる彼女にとってはかなり相性のいい能力だ。
後方支援に徹しながら、クラス全体に指揮をとる。
役割が決まったようなものだった。
それに続いて小春が
「私は、《煌矢》(かぐや)?っていう光属性の矢を使えるらしいわ」
「遠距離型だな……。俺は《炎纏》(えんてん)だった。身体や者に炎を纏わせれるらしい」
佐久間 雅人は拳を握りながら、その能力を発現させた。
「うぉぉぉ!かっけぇぇぇ!」
それに応じるかのように翔太も能力を発現させる
「俺は《雷装》(らいそう)だ!!」
立ち上がり、能力を使って移動する。
その速さは人に出せる動きでない事が、はっきりとわかった。
「すげぇ!はぇぇ!」
「なら次私ね!私は……ほいっ!」
芽依が手をかざすと、何も無かった場所から色とりどりの華が咲く。
「この華で、体力を回復出来るみたい!……あとは……ばふ?……ばふって?」
バフという言葉に聞き覚えがない、芽依はきょとんとした顔で腕を組む。
「ちょっと……いいかな?」
その姿を見て悠の隣の、拓也が手を挙げた。
悠と同じくあまり目立たない彼が、自主的に手を挙げるのは珍しいく、クラスの大半が拓也へ目を向けた。
一瞬たじろく拓也だが、少し間を置いて話し出した。
「佳村さんの、そのバフってやつ……多分補助系の能力だと思う……。」
「そうなの?」
「うん……ゲームとか、RPGでもあるんだけどその能力で、自分や味方の能力を一時的に上げれる……みたいなスキルだと思う。」
「そうなんだ…すごいじゃん!拓也君!物知りだね!」
褒め言葉に、少し顔を赤くしながら「ありがとう」と呟く拓也。
そのまま拓也も自分の能力について話し出す。
「僕は…みんなみたいな戦闘にはあんまり向かないんだけど…。《鑑定眼》っていう、対象のステータスを可視化することができる能力……。」
「……影山くんがいれば、無理な戦闘は避けられるんじゃない? 」
小春がそう呟いた。
「確かに。それにその鑑定…って戦闘だけじゃなくて、物にも使えたりするんじゃない…?」
綾は顎に指を置きながら、拓也を見る。
「……そうだと思う…。ゲームでもそんな感じ」
「ならすごい役に立つんじゃない!?」
「そ、そうかな……。ありがとう……。」
褒められることに慣れていないのか、影山は照れながら答えた。
その後も能力の話が続き、中には料理に特化した能力や、農業に特化した能力など、様々な能力があった。
「じゃあ次は……?」
「おい、雨宮!お前なんも喋ってねぇじゃん。」
綾が話し出す直前、言葉を遮るように声を上げた。
この家に来てから一度も口を開けてない悠に、翔太が首に腕を回しながら声を掛ける。
「えと……その……。」
言い淀む悠の隣で拓也は、悔しそうに目を細め黙っていた。
一度能力について話し、能力が不明だと言うことを知っている故の沈黙。ここまで悠が話さないことも理解していた。
「僕…………能力無いみたいで…。」
「は?」
ぽかんと口を開けたまま塞がらない翔太。
だが数秒後に大きな声で笑いだした。
「ハハハハッ!ほんとだ!なんもねぇじゃん。しかもなんだよ、属性が陰って……使えねぇ役たたずじゃん。」
「おい翔太。言い過ぎだ。」
雅人が間に割って入り、翔太を睨む。
「だってそうだろ?能力も無い、属性が陰って……。まあ、雨宮にはお似合いだろ。」
悠は前を向いたまま、翔太の言葉をただ聞くだけだった。……いや、言い返せないだけなのかもしれない。
「そうだよ!やめなよ翔太。」
「ッるせな。わぁったよ。」
バツが悪そうに、舌打ちしながら自身の席へと戻っていく。
「悠、すまない。言わせすぎた。」
雅人は悠に、頭を下げた。
「や、やめてよ、佐久間くん。……実際木山くん言ってた通りだし、仕方ないよ。」
「そんなことはない。あれはあいつが完全に言いすぎていた。」
先の一件で重い空気が再び漂い始める。
それと同時に、悠へと向けられる視線も多くなって言った。
「……じゃあ次私。」
そんな空気などお構い無しに、雫は少しだるそうに話し出す。
「……私は影縫い。影属性」
ただ、それだけを言ってストンと腰を下ろした。
「それだけ?」という視線が雫を刺すが、知らんふりを続けた雫。
「……か、影縫い…ってことは影を使って何かしたりするのかな?」
動揺しながらも、芽依は雫へと問いかける。
「……そんな感じ。」
だが帰ってくる返答はやはり、淡白であった。
「……これでクラス全体の能力がわかったわね。それじゃあ……次に…。と行きたいけど。もう夕方だわ。」
気がつくと、外の景色はオレンジ色へと変わっていた。赤褐色の光がフローリングの床を照らし、色を濃く見せる。
ふと悠は視線を設置された時計へと目をやる。
時刻は18時を回っていた。
「今日からはこのクラスのみんなで生活する事になる。協力して過ごして行きましょう。」
陽光が窓際にいた、綾の髪を淡く染める。
これからご飯の時間だろう。
各々が動き始めたその時。椅子に座ったままの雫はバレないように悠の事を見ていたのであった。




