第14話 亡国と愛を捨て
暗いーーーーー。
身体の感覚が曖昧だ。
裂かれた胸。
砕かれた骨。
滴り落ちる熱い血液。
……雫。
最後に見えた顔。
突き飛ばし、死は免れた。
だがその直後。
骸剣卿の刃により、悠の身体は易々と両断した。
「…………」
声は……出ない。
目を開けているのか、開けていないのかも理解ができない、ただ前に広がる闇。
どれ程の時間が経った?
どれくらい沈んだ?
あの後どうなった?
雫は……助かったのか?
やがて。
ーーーーーーコツン。
硬質な音が響いた。
骸剣卿のような……鎧の音に似ている。
それに、聞いたことがある音だ。
そう、確か……。
あの噴水の時………。
その瞬間。
闇が晴れる
そこは荒野だった。
果てが見えない黒灰色の大地。
剣の墓標……。否、戦場跡だ。
無数に地面へ突き刺さっている朽ちた剣。
何処の国であろうか。
幾つもの破けた旗も刺さっていた。
空に月はない。
生暖かい風だけが吹いている。
後ろを振り向く。
先の丘の中央に、一人の騎士が立っていた。
黒い鉄が棘へ変化して歪んだ剣身。
幾つもの蒼の宝石を埋め込んだように、淡く光る蒼黒い巨大な長剣。
人には扱いきれないと一目でわかるその剣を地面へ突き刺し、墓守の如く佇んでいる。
全身を纏う、材質さえ分からない漆黒の甲冑。
背中へ刺さっている無数の剣。
兜の奥だけが、仄かに蒼く灯っていた。
悠は一瞬で理解した。
中庭の時の足音。
あの黒い海の蒼い明滅。
全て事象の主はコイツだ。
それにーーーーコイツはやばい。
今まで出会ってきた、ゴブリンも、ウォルフ・ラビットも………骸剣卿も比較にならない。
存在そのものが、死を纏っている。
騎士は、ゆっくりと顔を上げた。
「ーーー遅かったな」
低い。
地の底から響く様な声。
「………は?」
「貴様は死んだ」
淡々と、事実を告げられる。
「故に、此処へ堕ちた」
「………こ、こは」
「深淵」
その言葉と同時に、空気が軋む。
背中へ悪寒が走る。
「……忘れ去られた者が辿り着く、最果ての海」
騎士は手を長剣から話、
悠へ視線を向ける。
「だが」
「……守ったのだな」
「………………」
「まだ、壊れていない」
その瞬間。
騎士身体を貫いていた、無数の剣が動き出す。
まるで歓喜している様だ。
鎧が鳴る。
騎士は悠に向かい、
静かに名を告げた。
「我が名はーーーエルグレイヴ」
「愛する人へ忠誠を誓い……そして愛する人も王国をも守れなかった騎士の成れ果てだ」
静かに、
だが重い言葉が悠へ突き刺さる。
「ーーー理解が出来なかった」
エルグレイヴが呟く。
「何故、庇った」
「既に限界だった筈だ」
「逃げれば、生き延びる可能性もあった」
「………………。」
「それでも貴様は前へ出た」
悠は話せなかった。
本人にも分からない。
無意識に、雫へ手を伸ばしていた。
ただ、それだけだった。
「剣を振る理由だった」
「命より重かった」
「……だが、届かなかった」
表情は見えない……否、顔はない。
兜の奥から覗く蒼い光だけが頼り。
だがその兜から、黒い靄が零れた。
「故に私は堕ちた」
「何もかもを守れなかった騎士として」
沈黙。
悠は、何故あの行動に出たのか分からない。
だが、これだけはわかるーーーー
「守りたいと思ったから……」
「…………」
「……そうか」
低い声が響く。
ゆっくりと。
エルグレイヴは悠へと近づく。
轟音。
荒野へ突き刺さる、無数の剣が震える。
「我は……その言葉を聞きたかったのかもしれないな」
深淵の騎士は、
悠の前で静かに片膝をつく。
「雨宮 悠」
「死を前にして尚、他者を守った騎士よ」
「我が剣を貴様に捧げよう」




