第13話 覚悟
死というのは、誰にでも存在する。
動物。
魔物。
そして、人。
この世界に置いても、それは変わらない。
誰にでも訪れる、結末だ。
どこかで、ゲームのような感覚はあったのだろう。
異世界に来たという現実が、「死」を遠ざけた。
だがこの場、全員は再度理解する。
ーーーーーー死は存在する。
「………………」
現実を受け入れないまま、立ち尽くす一行。
骸兵はその空気を読むほど、優しくは無かった。
後方の生徒を切りつける。
「……ッ!!!!あぁぁッ!!」
致命傷には至らない。
だが、戦力は確実に削がれる。
「ッ!」
綾は即座に結界を展開する。
だが、骸兵の攻撃と圧でどの程度持つかは分からない。
「全員!入口付近の骸兵だけに集中しろ!!!」
雅人は剣に炎を纏い、骸兵を切り捨てる。
鎧を溶かし、骨を切断。
骸兵は無気力にその場に倒れ込んだ。
「でも…ッ!!あいつ近づいて来てる!!!」
小春は震える声で叫ぶ。
「小春ッ!能力でできるだけ骸兵を減らして!!溜めなくていい!!」
悠は、再び骸剣卿へ振り返る。
その瞳には覚悟を決めた、色があった。
「何やってる!!早く戻れ!!本当に死ぬぞ!!!」
「ッ……悠はっ…………ぅぁっわかった!!」
小春は後ろへ振り向き、煌矢を展開。
「……悠ッダメっ」
雫の声が聞こえた。
たが悠は振り返らない。
骸剣卿は構えない。
たが構えなくても、さっきの剣速。
見るのは不可能。
なら腕が動いた瞬間に、勘で避けるッ!!
ーーーーーっ
今ッ!!!
足に全力を注ぐ。
飛び退き後退ッ!
ーーーーーースパンッ!!!!
遅れて地面を切り裂き、風が舞い起こる。
怯まない。
前へ。
走り出し、股の間を潜りそのまま背中で回転。
「ふッ!!!」
勢いを殺さず、剣を振るッ!
だが空振る。
いや、違う。
骸剣卿は飛び上がっていた。
あの巨体で、軽々と。
「……ま……ッ」
重力に従い着地。
脆く朽ちているはずの巨体。
たが体は崩れない。
地面を割り、衝撃波が悠を襲う。
「がぁッ!!!!」
骸兵を巻き込みながら吹き飛び、壁へ激突。
背骨が砕ける感覚と、全身が弛緩から緊張へ切り替わり、激痛が走った。
衝撃が突き抜け、壁にヒビが入る。
(立ち……上がれない……っ)
衝突で、脳が揺れ視界が定まらない。
耳鳴りも止まらない。
全身が砕けるように痛い。
ーーーーー数秒。
たった数秒で、死の淵へ。
(ここで引き下がったら…………拓也君も……雅人君も、小春も。雫も。全員助からない。)
ならーーーーー。
奥歯を食いしばり、全身を叩き起す。
震える足に、よろめく視界。
骸剣卿が、ゆっくりと歩み寄る。
1歩ずつ。
踏みしめるその1歩が、心の奥の恐怖をかりたたせる。
だがそんなのは後だ。
悠は立ち上がり、前を向く。
骸剣卿が錆びた剣を持ち上げていた。
もはや、ただのハンデだ。
「振り下ろすから避けてみろ」と言わんばかりに悠を見る。朽ちた兜から覗く赤い瞳孔がそう投げかけていた。
剣が動いた。
だが悠は見誤る。
(反応……ッ遅れ……ッ!)
0.1秒反応がズレる。
錆び付いた剣は悠の左半身を真っ二つに。
容赦なく切り捨てた。
……………………はずだった。
影から飛び出してきた雫が、短剣を剣へつきたて軌道そ数ミリずらす。
金属同士が火花を散らし、一瞬だけ周囲を照らす。
「悠っ!立って!」
普段の雫からは考えられない声量に、勢い。
雫が悠の腕を掴み、そのまま後方へ飛び退く。
「……ッ、雫ッ!なんで……っ」
「言ってる場合じゃない……。来る」
不思議そうにこちらを見詰める、骸剣卿。
地面へ突き刺さった剣を引き抜き、銅色の軌跡を描く。
体を悠達へ向き直り、そして。
消えた。
あの巨体が、瞬き1つの間に姿を消す。
そして背後からの悪寒。
雫を狙った一撃。
「…………ぇ」
呆気を取られた雫。
動けずにいた体。
ーーーーその身体を突き飛ばすッ!!
そのまま、振るわれる一撃が悠を貫く。
鎖骨を断ち、肉を断ち。
肺と腸、肝臓を断つ。
血と肉を垂れ流しながらその場へと、倒れた。
悠の意識がここで途絶えた。
「…………は……る?」
突き飛ばされ、地面へ転がった。そのまま悠の方へと向き直ると、悠は死んでいた。
地面へ倒れ込み、切り裂かれた部分からは血と肉が溢れ出ていた。段々と地面に血液が広がり、死の事実を広げていく。
「……ぃ……ゃだ。」
雫は静かに嘆いた。
場所も構わず涙を流し、へたり混む。
雫は元々、話をするのが嫌いだった。
相手に合わせて話すのも、自分から話題を作って話しかける事もしない。
ただ単に失うのが怖かったから。
人間関係も最小限。
その最小限ですら、業務連絡をするくらい。
人と関わるということは、何かがきっかけで話さなくなる事もある。
それは喧嘩か、価値観の違いか、雰囲気か。
または環境か。
雫の容姿に不満を抱く女子は少なくない。
整った顔立ちに、長く、虜になるような生まれつきの灰白色の髪。
嫉妬の対象として、周囲の女子から拒絶されることは日常的に起こっていた。
男子達も下心ありきの下品な奴らばっかり。
関わりを持てば、付き合おうだの、体の関係を迫るなど。様々であった。
そんな中、異世界に来て初めて話した雨宮 悠という人物。
今までは興味すらなく、この異世界に来て初めて個体認識をしたばかりである。
だが悠は他の男子とは違い、関係を迫ることも、食い気味に話してくることもない。
雫自身も悠とそんなに話さない。
話すとしてもお互い短文で、業務連絡みたいな感じ。
だけれどその業務連絡が、業務連絡でなくなってきた。
雫は初めて知りたいと思った。
雫は……悠との距離感が好きだったのだ。




