コンビニの神様 〜最後の夜〜
いつも読んでくださり、本当にありがとうございます。
気がつけば、この物語も終わりが見えるところまでやってきました。
最初は一枚の百円玉と、ひとつの出会いから始まった物語でした。
たくさんの夜がありました。
救えなかった夜もありました。
誰かの言葉に救われた夜もありました。
今回の話は、そんな主人公が歩いてきた夜の集大成です。
神様とは何だったのか。
百円玉にはどんな意味があったのか。
そして、主人公が最後に見つけた答えとは何だったのか。
そんなことを考えながら書きました。
よければ最後まで読んでいただけると嬉しいです。
夜はいつも通りだった。
蛍光灯の白い光。
冷蔵庫の低い唸り。
自動ドアの開閉音。
何も変わらない。
何年も見続けた景色だった。
けれど、今夜は少し違う。
私はレジ横の小皿を見る。
百円玉が四枚。
いつからそこにあるのか分からないものもある。
誰が置いたのか覚えていないものもある。
それでも、
どの百円玉にも夜があった。
悩みがあった。
迷いがあった。
そして、
誰かの人生があった。
私はレジに立ちながら静かに息を吐く。
今夜が最後だった。
コンビニの神様としての最後の夜。
もちろん、
そんなことを知っている人はいない。
知っているのは私だけだ。
午前零時。
サラリーマンが缶コーヒーを買っていく。
午前一時。
学生がカップ麺を買っていく。
午前二時。
夜は静かに流れていく。
いつもと同じ。
何も特別じゃない。
でも、
その普通が少しだけ愛おしかった。
午前二時半。
自動ドアが開いた。
入ってきたのは三十代くらいの女性だった。
スーツ姿。
疲れた顔をしている。
女性はお茶を一本持ってレジへ来た。
私は会計をする。
「百四十円です」
女性は財布を開く。
そして、
百円玉を一枚取り出した。
会計ではなく、
レジ横の小皿へ。
カラン。
小さな音が響く。
女性は少し笑った。
「本当にあったんですね」
「何がですか」
私が聞くと、
女性は少し照れくさそうに言った。
「コンビニの神様」
思わず苦笑する。
「そんな大したものじゃないですよ」
「でも噂になってますよ」
女性は小皿を見る。
「悩んでいる人の話を聞いてくれる人がいるって」
私は答えない。
答えられなかった。
神様なんかじゃない。
それはもう分かっている。
それでも、
その呼び名はずっとこの店に残っていた。
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。
第15話は、主人公にとっての「卒業」の物語でした。
誰かを救いたい。
誰かの力になりたい。
そんな思いから始まった夜でしたが、主人公は最後にひとつの答えへ辿り着きます。
人は誰かに救われるだけでは前へ進めない。
それでも、隣にいてくれる人がいるだけで救われる夜がある。
この物語で描きたかったのは、そんな小さな灯りでした。
神様は特別な存在ではありません。
もしかしたら、誰かの話を少しだけ聞いてくれる人なのかもしれません。
もしかしたら、何も言わず隣にいてくれる人なのかもしれません。
そして、もしかしたら。
あなたの周りにもいるのかもしれません。
次回はいよいよ最終話です。
長い夜の先にある景色を、最後まで見届けていただけたら嬉しいです。
ーーなつめ




