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コンビニの神様  作者: なつめ


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コンビニの神様 〜快晴〜

お久しぶりです。


ここまで読んでくださっている皆様、本当にありがとうございます。


今回の話は、この物語の中でも特に大切な回になりました。


主人公が長い間向き合えなかった過去と、初めて正面から向き合います。


悲しみを乗り越える話ではありません。


悲しみを抱えたまま、それでも前を向こうとする話です。


最後まで読んでいただけたら嬉しいです。

夜勤が終わった。


 午前六時。


 東の空はもう明るい。


 私は制服のまま店を出た。


 いつもなら真っ直ぐ帰る。


 シャワーを浴びて、眠る。


 それだけだ。


 でも今日は違った。


 帰れなかった。


 いや。


 帰らなかった。


 ポケットの中に手を入れる。


 百円玉が一枚。


 指先に触れる冷たい感触。


 私は駅へ向かった。


 


 電車の窓から見える景色は、少しずつ街から住宅街へ変わっていく。


 人は少ない。


 平日の朝。


 会社へ向かう人たちの中で、私は少し浮いていた。


 コンビニの制服のままだからかもしれない。


 それとも、


 これから向かう場所のせいかもしれない。


 


 駅を降りる。


 空は驚くほど青かった。


 雲ひとつない。


 嫌になるくらい綺麗だ。


 もっと曇っていてくれた方が楽だった。


 雨でもよかった。


 なのに今日は快晴だった。


 


 墓地は静かだった。


 風が吹いている。


 木々が揺れる音だけが聞こえる。


 私はゆっくり歩く。


 一歩ごとに胸が重くなる。


 何度も来ようと思った。


 何度も行かなきゃいけないと思った。


 でも来られなかった。


 怖かった。


 会いたくなかったわけじゃない。


 向き合いたくなかった。


 


 やがて足が止まる。


 墓石。


 名前。


 見覚えのある文字。


 私はしばらく動けなかった。


 


 何を言えばいいんだろう。


 ごめん。


 違う気がした。


 ありがとう。


 それも違う気がした。


 元気にしてるよ。


 そんな話でもない。


 


 沈黙だけが流れる。


 


 私は目を閉じる。


 思い出す。


 あの夜。


 最初に出会った夜。


 百円玉。


 小さな笑顔。


 何気ない会話。


 


 そして、


 救えなかった夜。


 


 あの頃の私は本気で思っていた。


 自分がもっと何か出来ていれば、と。


 もっと話を聞いていたら。


 もっと早く気付いていたら。


 もっと。


 もっと。


 もっと。


 


 何年も繰り返した。


 何度も夢に見た。


 何度も後悔した。


 


 でも。


 


 何年も考えて、


 ようやく分かったことがある。


 


 答えは出ない。


 


 どれだけ過去を振り返っても。


 どれだけ自分を責めても。


 あの日は戻らない。


 


 私は静かに息を吐いた。


 


「救えなかった」


 


 初めて口にした。


 


「ごめん」


 


 違う。


 


 首を振る。


 


 違う。


 


 私が言いたかったのは、


 たぶんそんな言葉じゃない。


 


 風が吹く。


 暖かい風だった。


 


 私は墓石を見つめる。


 


「ありがとう」


 


 自然に出た。


 


 あの夜。


 あの百円玉。


 あの出会い。


 


 苦しかった。


 今でも苦しい。


 


 でも。


 


 あの日があったから、


 私は誰かと向き合うようになった。


 


 父とも。


 あの大学生とも。


 たくさんの夜とも。


 


 全部、


 あの日から始まった。


 


「まだ立ってるよ」


 


 声は少し震えた。


 


「ちゃんと立ってる」


 


 返事はない。


 


 当然だ。


 


 でも不思議だった。


 


 返事なんてなくてもいいと思えた。


 


 私はポケットから百円玉を取り出す。


 


 太陽の光を受けて輝いている。


 


 供えようと思った。


 


 でも、


 やめた。


 


 違う気がした。


 


 この百円玉は、


 置いて終わるものじゃない。


 


 まだ持っていたい。


 


 まだ歩いていきたい。


 


 だから私は百円玉をポケットへ戻した。


 


 空を見上げる。


 


 快晴だった。


 


 残酷なくらい綺麗な空。


 


 それでも、


 私は目を逸らさなかった。


 


 しばらくして、


 私は墓石に向かって頭を下げた。


 


 そして歩き出す。


 


 もう逃げない。


 


 過去も。


 後悔も。


 救えなかった夜も。


 


 全部抱えたまま、


 前へ進む。


 


 空はどこまでも青かった。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


この物語を書き始めた頃から、いつか描かなければならないと思っていた場面でした。


救えなかった夜は消えません。


後悔も、きっと消えません。


それでも、その夜があったからこそ生まれたものもある。


主人公は今回、その事実を受け止めました。


次回はいよいよクライマックスです。


神様と呼ばれた夜の終わりが近づいています。


最後まで見届けていただけたら嬉しいです。


――なつめ


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