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コンビニの神様  作者: なつめ


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コンビニの神様 〜灯りの続く場所〜

ここまで読んでくださった皆様、本当にありがとうございます。


気づけば、この物語も最終話を迎えることになりました。


最初は、ひとつの百円玉から始まりました。


コンビニの片隅に置かれた小さな百円玉。


そして、ひとりの少女との出会い。


あの夜を書いたとき、私はここまで長く続く物語になるとは思っていませんでした。


書いているうちに、主人公と一緒にたくさんの人に出会いました。


悩みを抱えた人。


前に進めなくなった人。


家族との距離に悩む人。


夢を諦めそうになった人。


人生に疲れてしまった人。


そして、どうしても救うことができなかった人。


この物語は、神様が奇跡を起こす話ではありません。


誰かを完璧に救う話でもありません。


むしろその逆です。


人は弱くて、不器用で、時にはどうしようもなく無力です。


どれだけ願っても救えないことがあります。


どれだけ後悔しても戻らない夜があります。


それでも。


誰かの話を聞くこと。


誰かの隣に立つこと。


誰かを思うこと。


それには意味があるのだと、この物語を通して伝えたかったのかもしれません。


主人公は、自分を「神様」だと思ったことがありました。


でも最後に辿り着いた答えは、神様なんていなかったというものでした。


けれど、それは決して悲しい答えではありません。


神様がいなくても、人は誰かの灯りになれる。


そんな希望を、この物語の最後に残せたらと思っています。


ここまでお付き合いくださった皆様へ。


感謝を込めて。


どうか最後まで、この物語を見届けていただけたら嬉しいです。


――なつめ


春だった。


 風は少し暖かくなっていた。


 スーツの襟元を緩めながら、私は駅から家へ向かって歩く。


 社会人になって三か月。


 慣れたとは言えない。


 覚えることは多いし、失敗もする。


 上司に注意されることもある。


 帰宅してから、自分の言葉や行動を思い返して眠れなくなる夜もあった。


 それでも、少しずつ前へ進んでいた。


 昔の私なら、逃げていたかもしれない。


 そう思うことがある。


 空を見上げる。


 夕暮れだった。


 あの頃とは違う時間。


 私はもう夜勤をしていない。


 コンビニの制服も着ていない。


 神様でもない。


 ただの会社員だった。


 交差点を渡る。


 見慣れた道。


 見慣れた景色。


 そして――


 見慣れたコンビニ。


 思わず足が止まった。


 変わらない。


 本当に何も変わらない。


 看板も。


 駐車場も。


 ガラス越しの蛍光灯も。


 あの日のままだった。


 自動ドアが開く。


 学生が出てくる。


 楽しそうに笑っている。


 また別の客が入っていく。


 誰も私に気付かない。


 それでよかった。


 私は店の前に立ったまま、しばらく眺めていた。


 思い出す。


 最初の夜を。


 あの女の子を。


 百円玉を握りしめていた小さな手。


 少しだけ寂しそうな笑顔。


 何気ない会話。


 あのときは、ただの夜になると思っていた。


 次の日には忘れてしまうような、ありふれた夜になると思っていた。


 まさか、人生を変える夜になるなんて思わなかった。


 ポケットに手を入れる。


 硬い感触が指先に触れた。


 百円玉だった。


 自然と笑ってしまう。


 いつから持っていたのか分からない。


 もしかしたら違う百円玉かもしれない。


 それでも、私にとっては同じだった。


 あの夜と繋がっている気がした。


 私は百円玉を取り出す。


 夕陽を受けて静かに光る。


 思い出す。


 救えなかった夜を。


 何度も夢に見た。


 何度も後悔した。


 もっと話を聞いていたら。


 もっと早く気付いていたら。


 違う言葉を選んでいたら。


 そんな「もし」を何度も繰り返した。


 答えは出なかった。


 今でも出ていない。


 きっとこれからも出ないのだと思う。


 でも。


 あの日を思い出しても、前ほど苦しくなくなった。


 墓石の前で立ち尽くした快晴の日。


 雲ひとつない青空。


 残酷なくらい綺麗な空。


 あの日、私は初めて言えた。


「ありがとう」


 あの言葉は、きっと彼女のためだけじゃなかった。


 自分自身のためでもあった。


 過去を許すためではなく。


 過去を抱えて生きるための言葉だった。


 風が吹く。


 春の匂いがした。


 私はコンビニを見る。


 父のことを思い出した。


 不器用だった父。


 何を考えているのか分からなかった父。


 言葉は少なかった。


 優しい人にも見えなかった。


 でも違った。


 あの人なりに、ずっと私を見ていた。


 あの夜、店に現れた父の姿を思い出す。


 短い会話。


 ぎこちない沈黙。


 それでも、あれは確かに親子の時間だった。


 昔は分からなかった。


 でも今なら少しだけ分かる。


 人は、言葉だけで生きているわけじゃない。


 伝えられない想いもある。


 不器用な優しさもある。


 私は少し笑った。


 大学生のことも思い出す。


「人生ってクソゲーじゃないですか?」


 レジ前で真顔で言われた夜。


 思わず吹き出しそうになった。


 あのときの彼は、本当に必死だったのだろう。


 笑いながら。


 冗談を言いながら。


 それでも前へ進もうとしていた。


 今なら分かる。


 人生は簡単じゃない。


 理不尽だ。


 努力が報われないこともある。


 頑張ったのに失うこともある。


 それでも。


 捨てたものじゃない。


 少なくとも私は、あの夜たちに出会えた。


 名前も知らない人たちがいた。


 顔も思い出せない人たちがいた。


 悩みを抱えていた人。


 迷っていた人。


 泣きそうだった人。


 笑っていた人。


 みんな夜を抱えていた。


 みんな、それぞれの人生を生きていた。


 私は神様になりたかったわけじゃない。


 誰かを救いたかっただけだ。


 でも、今なら分かる。


 人は誰かに救われるだけでは前へ進めない。


 最後は自分の足で立ち上がるしかない。


 ただ。


 立ち上がるその瞬間に、隣に誰かがいてくれることはある。


 何かを解決してくれるわけじゃない。


 奇跡を起こしてくれるわけでもない。


 それでも。


 隣にいてくれるだけで救われる夜がある。


 あのコンビニには、そんな夜がたくさんあった。


 私は百円玉を見つめる。


 そして静かにポケットへ戻した。


 店の中を見る。


 レジには知らない店員が立っている。


 小皿があるかどうかは見えない。


 もうないのかもしれない。


 まだあるのかもしれない。


 どちらでもよかった。


 大切なのは、あの小皿じゃない。


 百円玉でもない。


 神様でもない。


 あの夜だった。


 誰かが悩み。


 誰かが立ち止まり。


 誰かが誰かの話を聞いた。


 ただそれだけの夜。


 でも。


 その灯りは確かに存在していた。


 信号が青になる。


 私は歩き出す。


 もう振り返らない。


 前を向く。


 夕暮れの街は穏やかだった。


 空には一番星が見えている。


 夜が来る。


 きっと今夜も、


 誰かが迷う。


 誰かが泣く。


 誰かが立ち止まる。


 それでも。


 きっと大丈夫だ。


 人は思っているより強い。


 私がそうだったように。


 私は少しだけ笑う。


 そして歩き続ける。


 神様は、コンビニにはいなかった。


 けれど。


 あの夜の灯りは、


 今も誰かを照らしている。


~完~


最後まで読んでくださり、本当にありがとうございました。


これで『コンビ二の神様』は完結となります。


正直なことを言うと、最終話を書き終えた今、達成感よりも少し寂しさの方が大きいです。


長い間一緒に歩いてきた登場人物たちと別れるような感覚があります。


この物語を書き始めた頃、私は「優しい物語」を書きたいと思っていました。


誰かを傷つけるための物語ではなく。


誰かを否定するための物語でもなく。


読んだ人が少しだけ前を向けるような、そんな物語を書きたいと思っていました。


だからこの作品には、特別な力を持つ主人公もいません。


世界を救う英雄もいません。


大きな事件もありません。


あるのは夜のコンビニと、そこで交わされる小さな会話だけです。


けれど私は、そういう小さな出来事の中にこそ人生があると思っています。


人生は映画のような劇的な瞬間ばかりではありません。


むしろ何気ない一言や、たまたま出会った誰かとの会話によって救われることの方が多いのではないでしょうか。


この物語に登場した人たちもそうでした。


誰も完璧ではありません。


みんな悩みながら生きています。


迷いながら生きています。


時には立ち止まりながら、それでも前へ進もうとしていました。


主人公も同じです。


最初は誰かを救いたいと思っていました。


神様になりたいと思っていました。


でも物語の最後で気づきます。


人は誰かを救うことはできないのかもしれない。


最後に立ち上がるのは、その人自身だから。


けれど、隣に立つことはできる。


話を聞くことはできる。


寄り添うことはできる。


それだけで救われる夜もある。


私はそのことを書きたかったのだと思います。


そして、この作品のもうひとつのテーマは「後悔」でした。


救えなかった夜。


忘れられない人。


取り戻せない過去。


主人公は最後までそれらを消すことはできませんでした。


でも、それでいいと思っています。


人は過去を消して生きるのではなく、抱えて生きていくものだからです。


傷が消えなくても、人は前へ進める。


この物語がそんな小さな希望になれていたら嬉しいです。


最後に。


読んでくださった皆様へ。


更新が止まっていた時期もありました。


それでも待っていてくださった方。


途中から読んでくださった方。


感想をくださった方。


静かに見守ってくださった方。


本当にありがとうございました。


皆様がいなければ、この物語は最後まで辿り着けませんでした。


そして、この作品を書きながら私自身もたくさん救われました。


だから今は感謝しかありません。


もし皆様の人生の中で、苦しい夜や立ち止まってしまう夜が訪れたとき。


この物語のことを少しだけ思い出してもらえたら嬉しいです。


コンビニの神様。


けれど。


誰かを思う灯りは、きっとどこかで今日も灯っている。


ここまで本当にありがとうございました。


またどこかの物語でお会いできる日を楽しみにしています。


――なつめ

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― 新着の感想 ―
ご無事の完走、おめでとうございます・w・ 本当に心配していました。 タイミングが悪かったのか 無理させてしまったのではないかと。 でも今回は大丈夫そうですね・w・
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