閑話:専属侍女ルナの華麗なる考察 其の三 ~お嬢様に相応しい婿について 特別ゲスト編~
この閑話は、ルナの主観と妄想、そしてお嬢様への深い愛情をベースにお送りする『専属侍女ルナの止まらない心のつぶやき』シリーズ第3弾です。
※実際の人物・評価とは異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
私の名はルナ。
オンタリオ家にお仕えして十年超。
ハルカお嬢様の専属侍女として、日々お嬢様の幸せのために身命を賭す忠実なる僕である。
さて——。
久しぶりに、この考察の時間がやってきた。
前回の考察(其の二)からこちら、候補者たちは皆それぞれに目覚ましい成長を遂げた。
岩塩窟の発見。
ヒロの救出。
そして裁定評議会——。
大きな出来事が矢継ぎ早に押し寄せた今期は、まさに候補者たちの真価が問われる試金石となったのである。
本来ならば、私が一人で静かに整理すれば済む話だ。
だが今回は、特別ゲストをお招きすることにした。
理由は一つ。
「候補者たち共通の師」という立場だからこそ見える、公平な視点からの評価を伺ってみたいと思ったからである。
◇◇◇
「……で、なんでワシがここにいるんじゃ」
低い声と共に椅子に腰を下ろしたのは、ラオウ様だった。
お嬢様の祖父にして、オンタリオ前辺境伯。伝説の剣士にしてドラゴンスレイヤー。そして現在は、候補者たちの武術師範でもある人物だ。
「今回は特別対談形式でお送りしようと思いまして」
「断る」
「お嬢様の将来に関わる重要案件です」
「なおさら嫌な予感しかせん」
ご不満のご様子だが、ここで引いては専属侍女の名が廃る。私は机に資料を広げながら、澄んだ顔で続けた。
「『第三回・お嬢様に相応しい婿候補査定会議』、特別ゲスト付き拡大版——開会いたします」
「お前、それ楽しんでるじゃろ」
「楽しんでおります」
私は笑顔で即答した。
ラオウ様は非常に長いため息を一つ吐くと、呆れたように腕を組んだ。
◇◇◇
「ではまず、現状整理から参りましょう」
私は咳払いを一つして、姿勢を正した。
「ラオウ様のお考えでは、現在、婿候補になり得る方はどのくらいいると思われますか?」
「四人——といったところか。アーサー、レオ、ヒロ、そしてセシルじゃ」
「なるほど。私の想定と一致しております」
私は表情を変えずに資料をめくった。
「では、その四名について、此度の一連の出来事を踏まえた評価を伺えますか」
「……仕方ないのう」
ラオウ様は諦めたような苦笑を浮かべたあと、思案するように宙を見つめた。
「まずは——」と言って語り出したのは、アーサー殿下についてだった。
【アーサー・エヴァーランド第二王子殿下】
前回の評価:70点
現時点での評価:75点
「……微増、といったところでしょうか?アーサー様は」
「そうじゃな。頑張ってはいるが、まだ成果と呼べるほどのものは示せておらんからな」
私も同意する。
以前のアーサー様は、自信がなく、遠慮がちで、自分を価値のない存在だと思っていた。だが今は違う。非力な自分を認めた上で、今の自分にできることを探し、精一杯こなそうとする。王族としての立場も、意味あるものとして正面から受け止め始めた。
「そうですね。やっと"ただ守られる側"から"自分の役割を考えて動く"ことを意識し始めた、というところでしょうか?」
「そうじゃな。最近は王族らしい顔になってきたし、自分の強みや将来について考えている様子が窺える。じゃが、そうなってからまだそれほど時は経っていない。今の評価としてはこの程度が適当じゃろう」
「それに——」
「……ああ」
私とラオウ様は、同時にため息を吐いた。
「王族としての責務や立場を優先する方に気持ちが傾けば、お嬢様の婿候補になる可能性は極めて低くなります」
「仕方あるまい。第三王子が臣籍降下すると決まった今、周囲が王位継承権第二位の者にそれを許さんじゃろう」
ラオウ様の声は、少しだけ苦いものを含んでいた。
「だがまあ」とラオウ様は少し間を置いてから続ける。「本気でハルカを望むなら、そのくらい自力で跳ね除けられるようになってもらわねばな」
「今の殿下では覚悟が足りていない、と?」
「覚悟だけではない。武力、精神力、影響力、交渉力——今のあいつには、足りないものだらけじゃ。やっぱりこのくらいの評価が妥当じゃよ」
「厳しいですね」
「そうじゃな。アーサーは、四人の中で……最も課題が多い候補者じゃからな」
◇◇◇
では、次の候補に移りましょう。
【レオ】
初回の評価:50点
前回の評価:保留
現時点での評価:78点
「レオは、最も点数を上げた候補ですね」
「一皮どころか、三皮は剥けたからな」
ラオウ様が腕を組む。その口元は、ほんのわずかに緩んでいた。
以前のレオは、直情的で、どこかヒロとお嬢様に依存している部分があった。だが今は、自ら厳しい修行を選び取り、実力でB級冒険者の地位を掴んだ。ヒロの救出でも、状況を冷静に見極めて動けていた。
そして何より——クラウゼン家の問題が明るみになった時、感情をぶつけることなく、ヒロを支えながら自分の意思をはっきりと示した。
「漢になって帰ってきた、という感じですね」
「まだまだじゃがな。だが伸び代は本物じゃ」
「覚悟という点では、四人の中で最も据わっているかもしれません」
「そうじゃな。……まあ、肝心の本人はあまり自覚しておらんようじゃが」
ラオウ様はどこか楽しそうだった。
※伸び代:大。というより、現時点で既に侮れない。
◇◇◇
この調子でサクサク進めましょう。
次は——
【セシル・ローゼンベルク様】
前回評価:60点
現時点での評価:70点
「前回は新規参入、暫定扱いだったはずが、気づけばレギュラー入りを果たしましたね」
「まあ、今回はいろいろ助けられたからな」
ラオウ様が微妙な顔をした。
「何かご不満でも?」
「いや、不満というわけではないが……あいつ、ワシへの崇拝が強すぎてのう」
「ラオウ様信者ですね」
「そこが難点じゃ。ワシを見る目がちと怖い……」
ラオウ様は「時々寒気を感じて振り返ると——奴がいるんじゃ」と身震いし始めた。
その表情は暗い。このラオウ様を震え上がらせるなんて……実はセシル様はSランク魔物に匹敵するポテンシャルを持っているのかもしれない。ふむ。
しかし——今回のセシル様のご活躍は本物だった。王宮との橋渡し、情報収集の尽力、そして何より、利害を超えてお嬢様たちを支え続けた姿勢。勢い任せに見えていた方が、実は相当に周囲を観察できる方だったとわかった。
「お嬢様も、短期間でかなり信頼を寄せられています」
「うむ」
「妹様方にも大変人気だそうです」
ラオウ様の目が少し鋭くなった。
「双子まで既に手懐けているとは……侮れぬ奴じゃ」
「しかも、大変お顔が整っていらっしゃいます」
「お前、ああいうのが好みか」
私は真顔で頷いた。
「お嬢様もきっとお好きなはず」
「まあ——それはハルカの判断に任せよう」
ラオウ様も、最終的にはそこに落ち着いた。それが答えである。
◇◇◇
さて、最後の候補者について。
【ヒロ(ヒルベルト・クラウゼン子爵)】
初回評価:対象外
前回評価:対象外
現時点での評価:ラオウ様より後述
「ヒロについては、やや特殊なケースです」
「そうじゃな」
「ヒロがお嬢様に抱いているのは、現時点では忠誠心が主かと思われますが。それゆえ、前回までは”対象外”となっていました」
「今のところは、な」
ラオウ様がニヤりとした。
「ラオウ様?」
「春になれば、ヒロは王都へ移る。ずっと側にいたハルカとは、滅多に会えなくなる」
「……はい」
「そして、会うたびに美しく成長していくワシの孫娘の姿に——心奪われない男はおらんじゃろう」
「それは……確かに」
「立場が変われば、人の心も変わる。今はまだわからんでも、そういうことじゃ」
私は静かに資料に書き込んだ。
※将来的な感情の変化:要注目。
「ラオウ様」
「なんじゃ」
「率直にお聞きします。現時点での、ラオウ様の"本命"はどなたでしょうか」
ラオウ様がわずかに黙った。
「……言わなきゃいかんか」
「お嬢様の将来に関わる重要案件です」
「それを言われると弱いのう……」
大きく息を吐いてから、ラオウ様はぼそりと言った。
「ヒロじゃな」
「——ヒロなんですか?」
私は思わず前のめりになった。
「アーサー様でもレオでもセシル様でもなく、ヒロですか。その理由をお聞かせ願えますか」
「安定感とバランスの良さ、じゃろうか。子爵位も得た。それに——」
ラオウ様が少し間を置いた。
「そうなるように、育ててきたのじゃから」
「え」
私は固まった。
「……今、何とおっしゃいましたか」
「ヒロを引き取った時から、将来的にハルカの婿になる可能性を、頭の片隅に置いておった」
「……最初から、ですか」
「生まれも素質も良かった。何より、ヒロ本人がオンタリオとハルカを心から大切にしてくれておる。本当の家族になるのも良いと思っておったんじゃ」
私はしばらく何も言えなかった。
つまり——ラオウ様は、ヒロを引き取った頃から、いつかハルカお嬢様の伴侶候補になる可能性を考えて育てていた、ということか。
「……それでは、アーサー様をお嬢様が婿にすると宣言された時は」
「驚いたな。ハルカがそういうことを言い出すとは思っておらなんだ」
ラオウ様がくっくっと笑う。
「だがまあ——アーサーもワシらの家族じゃ。本気で来るなら、歓迎するわい」
「じゃが——」
ラオウ様が最後に問うた。
「肝心のハルカはどうなんじゃ」
「化粧品店『フロストリア』の来季売上予測を計算しておられました」
「……あー」
「『冬季乾燥対策市場はまだ伸びる』と、大変真剣なお顔で」
「婿選びどころじゃないのう」
「ええ」
私は静かに頷いた。
◇◇◇
十二歳のデビュタントを終えれば、お嬢様も王立学院へ進まれる。
そこでも、きっとたくさんの出会いが待っていることだろう。
ますますお美しくなられるお嬢様に惹かれる方々は、今後も増え続けるに違いない。
私はこれからも、その一番近くで見守り続けよう。
お嬢様ご自身が、ご自身の幸せのためにお相手を選ばれるその日まで。
そしてその日が来た暁には——専属侍女として、全力で見極めさせていただく所存である。
お嬢様に相応しい婿を。
——もっとも、その前に候補者たちには私という最終関門を突破していただかねばならないのだが。
ルナ・専属侍女・ハルカ様至上主義者・暗器使い
(本人による評価:お嬢様への愛 ∞点)
次からは第5章(最終章)スタートです!
引き続きお楽しみください〜〜╰(*´︶`*)╯♡




