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メンタルつよつよ令嬢ハルカはガリガリ王子をふくふくに育てたい!  作者: ふくまる
第4章:ふくふくの花を咲かせましょう 

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第73話:風の神殿

今週から月・水・金の週3回投稿します!

「兄さん! 兄さん、聞こえるか!」


 ヒロを抱えるように膝をつき、両肩を掴んで必死に呼びかけるレオ。

 私も同じように跪き、ヒロの手を両手で握り締めた。


「くそっ……足の骨を折られてる。それに、なんだこの黒い首輪は!?くそ、外れない!」


 レオは吐き捨てるように言いながら、縛られていた縄を素手で引きちぎった。

 続けて首元に嵌められた黒い金属製の輪に手をかけ、留金を探す。


「レオ、それ、魔道具だと思う。無理に外さない方がいい」


「くそっ……こんなものまで使いやがって」


「落ち着いて、レオ。多分、さっき捕えた見張りの誰かが鍵を持ってるんじゃないかな。探してくる!」


 そう言って立ち上がろうとヒロの手を離した。

 と、その時——。


「……うっ」


 小さな呻き声と共に、ヒロの目がゆっくりと開いた。


「兄さん!」


 ぼやけた視界の中で、ヒロの瞳がレオを捉えた。


「……レオ?」


 掠れた声だった。


「……大きくなったな」


 痩せこけ、ところどころ血の跡が滲む顔が、ほんの少しだけ綻ぶ。

 その瞬間、レオの顔がくしゃりと歪んだ。


「……馬鹿野郎」


 震える声が漏れる。


「……心配、かけやがって……」


 それだけ言って、ヒロを強く抱き締めた。


 抗う体力も残っていないのだろう。

 ヒロは抵抗することなく、静かに目を閉じ、そのままレオへ身を預け、再び意識を失った。


◇◇◇


 その後到着したお祖父様は状況を確認すると、すぐに騎士たちへ指示を飛ばした。


 捕えておいた見張りたちを引き渡し、併せて魔道具の首輪の鍵も回収してもらう。


 応急処置を終えると担架が運び込まれ、レオの付き添いのもと、ヒロは慎重に遺跡の外へと運び出されていった。


「兄さん、もう大丈夫だからな」


 担架の横を歩きながら、レオが何度もそう声をかけている。


 私は少し離れた場所から、その様子を静かに眺めた。


「ハルカは、一緒に付き添わなくて良かったのか?」


 ヒロたちの搬送を見届け、監禁現場の調査指示を出し終えたお祖父様が、こちらへやって来る。


「うん。無事な姿も確認できたし、久しぶりに会えたんだもん。兄弟水入らずの時間も必要かなって思って」


「そうか」


 お祖父様は短く頷いた。


「ねえ、お祖父様。ヒロに使われていたあの首輪、魔道具だよね。何の魔道具かわかる?」


「恐らくじゃが、魔法を制限するものだろうな」


 魔法を制限する魔道具。

 ——だから、ヒロは抵抗できなかったのだろうか。


 担架を運ぶ騎士たちの姿が、遺跡の外へと消えていく。

 ようやく張り詰めていた空気が緩み、私は少しだけ肩の力を抜いた。



「……それにしても、ハルカ」


 お祖父様が改めてこちらを見た。


「よくヒロの居場所がわかったな。パトラッシュが感知したのはわかるが——何があった?」


「言葉にするのは難しいんだけど……あの瞬間、風が吹いた気がしたの。そしたらパトラッシュが突然起き上がって、『見つけた』って」


 我ながら、説明になっていない気もする。

 でも、あの感覚を言葉にするとしたら、それが一番近かった。


「ふむ」


 お祖父様は少し考えるように顎を撫でた。


「これは憶測じゃが——ヒロが風魔法で送り出したものを、パトラッシュが受け取ったのじゃろう」


「ヒロが?あの状態で?しかも、魔道具で魔法を制限されてたんだよね?」


「そうじゃな。だから本来は風を起こすのも難しかったはずなんじゃが——この場所のせいかもしれんな」


 そう言って、お祖父様は、切り立った崖に沿うように築かれた遺跡の石壁を見上げた。


「ハルカ、ここがどういう場所かわかるか?」


「……遺跡、だと思う。かなり古い」


「そうじゃ。ここはな、この国が興るより遥か昔、“風の民”が築いた神殿跡だと伝わっておる」


「風の民……!」


思わず身を乗り出した。


「歴史で習ったことがある!確か、古代にこの地に栄え、風魔法に優れた民だったと——じゃあ、ここが『風の神殿』?」


「そうじゃ。あまり知られてはおらんが、ここは風の魔力が溜まりやすい場所だと言われている。それが本当なら、ヒロが見張りの目を盗んで送り出した風が、遺跡に溜まった魔力で増幅され、パトラッシュへ届いたと考えるのが妥当なところじゃろう」


「なるほど……そんな神秘的な力がある場所だったんだ」


 前世でいう“パワースポット”みたいな場所なのかもしれない。

 私は改めて、周囲の遺跡を見回した。


 苔に覆われ、草が絡みついた石壁。

差し込む朝日を受け、その表面がうっすら金色に輝いて見える。そう言われて見てみると、神秘的に見えてくるから不思議だ。


「ワシも、ただの言い伝えだと思っておったがな」


 お祖父様がふと目を細めると、遺跡の奥へ視線を向けた。


「せっかくだ。少し見学してみるか」


◇◇◇


 ヒロが監禁されていた石室のさらに奥。崖肌へ食い込むように建てられた場所に、周囲の建物よりひときわ立派な造りの建物が残されていた。

 恐らく、この遺跡の中心となる神殿なのだろう。


 しかし、長い年月に晒されてきたせいで、屋根も壁もあちこち崩れ落ち、石材の隙間には苔や草がびっしりと根を張っている。まともな道は残っておらず、瓦礫を乗り越えながら進むしかなかった。


 私を乗せたパトラッシュは、そんな足場など物ともせず、ひょいひょいと軽やかに瓦礫を越えていく。

 お祖父様も身体強化を使っているのだろう。軽い足取りでその後を付いてきた。


「ワシも、こんな奥まで来るのは初めてじゃわい」


 時折そんな言葉を交わしながら、十分ほど進んでいくと、視界が開けてきた。


 ——そこは、他よりもひときわ広い空間だった。

 天井は高く、壁面には、かつて何かが飾られていたと思われる装飾の痕跡が残っている。


 そして、その中央——。

 台座の上には、巨大な像が静かに鎮座していた。


「え?……あれって」


 私は思わずパトラッシュから飛び降り、その像の前で立ち止まった。


 四肢を持つ獣の形。

 大きな耳。

 長く垂れた尾。

 そして、ところどころ欠けてはいるが、銀白に輝く石で作られた、立派な体躯——。


「パトラッシュ……?」


 反射的に後ろを振り返った。

 と、そこにはパトラッシュがいた。


 その目が像を見て——それから私を見る。


 どことなく、得意げな顔をしていた。


「恐らく、『風の民』が崇めていた神獣フェンリルの像じゃろう」


 お祖父様が答える。


「フェンリル……つまり、パトラッシュたちのご先祖様ってこと?」


「まあ、そういう認識で構わん。シルバーフェンリルは、古来より風を操る存在として各地で崇められておった。この遺跡がその民の神殿ならば、こういった像があっても不思議ではない」


 像と見比べると、まだ若いパトラッシュより一回り大きいが、確かによく似ていた。

 当のパトラッシュは、もう像の前まで歩み寄り、じっと見上げている。


「パトラッシュ、もしかして気に入った?」


 問いかけると、パトラッシュは鼻をひくつかせ、そっと像に近づいた。

 そして——おもむろに、像の横腹をぺろりと舐めた。


「え、ちょっと!」


 思わず声が出た。


 しかし次の瞬間、私の目が像に貼り付いた。


 ——あれ?


 パトラッシュに舐められた部分が、うっすらと白く光っている。


 いや、光ってるんじゃない。


 表面が——溶けてる?


「……お祖父様」


 私は恐る恐る像に近づいた。


 指先で触れると、ざらりとした感触。


 舌先に少しだけつけてみる。


「……っ、しょっぱい」


「どうした?」


「これ」


 私は振り返って、お祖父様を見た。


「塩だ。この像、塩の結晶でできてる!」


「何じゃと!?」


 お祖父様が大股で近づいてくる。


 像のかけらを拾い上げ、躊躇なく舌に乗せた。


「……本当じゃ。塩じゃ!」


 二人で顔を見合わせる。


 パトラッシュはといえば、今度は台座部分をべろべろと舐め始めていた。


「パトラッシュ、そんなに気に入ったの?塩分の取りすぎはよくないよ……」


 呆れながらも止める気になれず見ていると——台座がぐらり、と動いた。


「え?」


 次の瞬間、ずずずず、と石が削れるような重い音が響いた。

 台座が横にずれ、その下から暗い空間が現れた。


 階段だった。

 崖の内部へと続く、下り階段。


「お祖父様、奥に階段が——!」


「ほう」


 お祖父様が興味深そうに覗き込んだ。


「行ってみるか。ハルカは念のため、パトラッシュに乗れ」


 パトラッシュの背に跨り、お祖父様の後に続いて階段を下っていく。

 足元は暗いが、石壁のあちこちに淡く光る鉱石が埋め込まれていて、進むのに困るほどではなかった。


 どれくらい崖の内部へ潜っただろう。


 やがて、階段が終わり——目の前が開けた。


「……!」


 私たちは、息を呑んだ。


 天井まで伸びる白い結晶の柱。

 壁面から突き出す巨大な岩塊。

 光を受け、きらきらと輝く無数の白い断面——。


「お祖父様」


 声が、わずかに震えた。


「これ、全部……岩塩…なの?」


「ああ」


 お祖父様は静かに頷いた。


「間違いない——探し求めていたものは、こんなところにあったんじゃな……」


 広大な岩塩層が、そこに広がっていた。

 風の民の神殿の、さらに奥深く。


 誰にも知られることなく、ずっとここにあったのだ。


 パトラッシュがゆっくり歩み寄り、白い壁へ鼻先を押し当てる。

 そして、満足そうに小さく鼻を鳴らした。


 私はその背の上で、しばらくの間、言葉も出なかった。


 ヒロが見つかって。

 無事も確認できて。

 岩塩まで見つかった。


 今日一日で、たくさんのことが起きた。

 もう頭の整理が追いつかないくらいに。


 ——でも、そうか。


「……見つけた」


 無意識に、その言葉が口から零れた。

 それは今朝、パトラッシュから伝わってきた言葉と同じで——今度は、私自身の中から零れた言葉だった。

やっと、見つけた*・゜゜・*:.。..。.:*・'(*゜▽゜*)'・*:.。. .。.:*・゜゜・*

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大事な家族と  もう一つの問題だった 岩塩を見つける… パトラッシュさん 大活躍!
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