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メンタルつよつよ令嬢ハルカはガリガリ王子をふくふくに育てたい!  作者: ふくまる
第4章:ふくふくの花を咲かせましょう 

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第65話:旅立ちの朝

読んでいただきありがとうございます╰(*´︶`*)╯♡

 探索隊出発の朝、玄関前の広場は人の気配で満ちていた。


 総勢二十名ほどの隊員たちは、それぞれ装備や荷物を点検しながら、静かに出立の時を待っている。

 その中心で指示を飛ばしているのは、ヒロだった。


 探索責任者として装備を身につけたヒロは、いつもの侍従姿とはまるで雰囲気が違って見えた。

 動きやすい革鎧に腰の短剣、大きな荷を背負った姿は、歴戦の冒険者そのものだ。

 隊員へ向ける声も、普段よりわずかに低く、厳しさと鋭さを帯びている。


「全員、揃っていますね。では、最終確認を——」


 ヒロの声が、ひんやりとした朝の空気に響いた。


 私は少し離れた場所から、その様子を眺めていた。

 隣にはアーサーとセシルがいる。


「なんか、ヒロ殿が別人みたいだな」


 セシルが小声で呟く。


「探索では指揮を執るから」と、アーサーも小さな声で返した。

「普段、俺たちに見せてる侍従としての顔とは違うんだよ」


「使い分けてるってことか?」


「というより、その時々で必要な役割を果たそうとすると、自然にああなるんじゃないかな」


 二人のそんな会話が耳に届き、私は改めてヒロの様子を見つめた。

 たしかに、皆を率いる姿は頼もしく見える。


 でも、やっぱり顔色はあまり良くない。

 上手く取り繕っているせいか、周囲は気づいていないようだけれど——。


 ——あの時、もっと踏み込んでおくべきだったのかな……。

 胸の奥に残った後悔が、じわりと言い知れない不安へ変わっていく。


 やがて準備が整い、ヒロがこちらへ歩み寄ってきた。


「では、行って参ります」


 静かに一礼する姿は、一見すればいつも通り穏やかだった。


「気をつけてね、ヒロ」


 私は心配を顔に出さないよう、笑顔を作って声をかけた。


 ヒロは小さく頷くと、続けてアーサーたちへ向き直った。


「アーサー様、ローゼンベルク様。留守をよろしくお願いいたします」


「任せてください」


 アーサーが真っ直ぐに答える。


「道中、お気をつけて」


 セシルも穏やかに言葉を続けた。


 そこへ、お祖父様も姿を見せ、皆と短く言葉を交わしていく。


 短いやり取りを終え、いよいよ出発の時が来た。


「出発します!」


 ヒロの号令が響いた。


 隊の先頭へ戻ったヒロを追うように、探索隊が一斉に動き出した。

 足音と荷音を響かせながら、次々と屋敷の門をくぐっていく。


 私たちは口々に声援を送り、その背中を見送った。



◇◇◇



 探索隊の姿が見えなくなると、お父様が私たちのところにやってきた。


「セシル殿、少しいいか?」


 お父様は隣に立つ男へ視線を向けた。 


「オンタリオ騎士団団長のガレス・ドーンだ」


 四十代半ば、白髪交じりの短髪にがっしりとした体躯。鋭い眼差しには、実戦を潜り抜けてきた者特有の重みがあった。


「お初にお目にかかります、ローゼンベルク殿。お嬢様、アーサー殿下、ご無沙汰しております」


 紹介を受けたガレスが、深く頭を下げた。


「ガレスは父上の代からオンタリオを守ってくれている騎士団の長だ。ヒロが不在の間、アーサーとセシル殿の訓練を頼んでおいた」


 お父様がそう言うと、ガレスが頷いた。


「オンタリオ騎士団へようこそ。よろしければ、このまま訓練所をご案内しましょう」


 案内されたのは、屋敷から少し離れた場所にある広い訓練所だった。

 私もアーサーも、足を踏み入れるのは初めてだ。


 中へ入った瞬間、まず騎士たちの熱気に圧倒された。


 鋭い掛け声。

 打ち合う音。

 土を蹴る足音。


 張り詰めた空気が、肌に伝わってくるようだった。


 そして、その規模にも思わず目を見張る。


 打ち込み用の的、走路、騎馬用の練習場、弓の射場、魔法の実技スペース——。

 用途ごとに区画された設備が、整然と並んでいた。


「思ったより、ずっと大きいですね」

 セシルが感心したように声を漏らした。


「王都の騎士団訓練所と比べて、いかがですか?」


 ガレスが尋ねると、セシルは少し考えてから答えた。


「規模は王都の方が大きいですが……活気が違いますね。こちらの方が、いい意味で緊張感がみなぎっている気がします」


「そう言っていただけると嬉しい限りです」

 ガレスが満足そうに目を細めた。


「魔の森の魔物の脅威に日夜晒されているオンタリオでは、訓練も常に実戦を想定したものになります。当然、気を抜けば怪我をすることもある。だからこそ、自然と緊張感も生まれるのです」


 ガレスはそう言いながら、歩きつつさまざまな設備を紹介してくれた。

 いつも使っている訓練場にはない設備もあり、なかなかに興味深かった。


「オンタリオ領は、三つの組織で防衛をしています」


 ガレスは訓練中の騎士たちへ視線を向けながら、オンタリオの防衛体制について語り始めた。


 騎士団、治安維持隊、そして冒険者ギルド所属の冒険者による特殊班。

 それぞれが役割を分担し、互いの不足を補い合っているのだという。



「この地はかつて、隣国より幾度も侵攻を受けていました」

 ガレスはそう言って、静かに言葉を続けた。


「以前ラオウ様から少し伺ったことがあります」と、セシルが頷く。


「ああ、ご存知でしたか」

 ガレスが頷きながら少し遠くを見た。


「我々が若い頃は、隣国との関係も今ほど安定しておらず、国境付近での衝突や越境騒ぎも珍しくありませんでした。領都に侵入を許したことはありませんが、あの時の経験が今の防衛体制に生きています」


 セシルもアーサーも真剣な顔つきで頷いている。そんな二人にガレスは少しだけ頬をゆるめ、しかしすぐに表情を引き締めた。


「和平が成り、隣国が友好国となった今でも、我々は訓練を怠りません。我々に万一があれば、この国は侵略の脅威に晒されることになる。

だからこそ我々は、オンタリオの民のみならず、この国に住むすべての民を守るため、強くあらねばならないのです」


 ガレスの視線がまっすぐに私を捉えた。


「オンタリオ辺境領は、この国の北の門ですから」


 口元には不敵な笑みが浮かぶ。


「それだけではありません。オンタリオには、他領にはない『魔の森』があります」


「そうですね。そのために魔物への警戒も怠れません」


 私がそう答えると、ガレスが満足そうに頷いた。


「その通りです。そのため、ここには強い冒険者たちが自然と集まってくる。

彼らが持ち込む素材を加工する工房や、それを扱う流通網も発展し、今ではひとつの産業として成り立っています。つまり、オンタリオは、冒険者と共存共栄しながら発展してきた領地なのです」


 ——なるほど。防衛面だけではなく、経済面でも冒険者の存在は欠かせない。座学でも学んでいたことだけれど、こうして実際に話を聞くと、改めてそのことが実感できた。


「騎士や治安維持隊には、組織として動く力があります。一方で、冒険者には個の技量と柔軟性がある。相手取る魔物によって必要な対応も変わる以上、その両方がなければ魔の森には対抗できません」


 ガレスが静かに続けた。


「ここでは『外敵』と『魔物』、二つの脅威に常に備えているのです」


 一通り説明を終えると、ガレスは改めて私たち三人へ向き直った。


「さて、騎士団では三つの班に分かれ、交代で訓練にあたっています。もしよろしければ、今日の午後からの訓練に早速参加されますか?」


「もちろんです!よろしくお願いします」


 アーサーが即座に答えた。セシルも「ぜひ」と続く。


「お嬢様は?」


 ガレスが私を見る。


「私は仕事が立て込んでいるので、時間のある時に見学させてもらえると嬉しいです」


「もちろんです。いつでもどうぞ」


 その言葉で、訓練場の見学はお開きとなった。




 訓練所を出て屋敷へ戻る道すがら、アーサーがぽつりと言った。


「さっきの話、興味深かった」


「どの話?」


「全部。でも特に——『オンタリオを守ることは、この国の北の門を守ること』って話」


「ああ、俺も。頭では理解してたつもりだったけど、『辺境を守る』ってことがどういうことなのか改めてよくわかった。あと、『魔の森』を抱えるオンタリオの特殊性も」


 セシルが頷く。


「王都にいると、どうしても“魔物対策”と“国防”は別のものとして考えがちなんだ。でもオンタリオでは、その両方を同時に考えなきゃいけない」


「だから、騎士団と治安維持隊、それに冒険者まで連携してるんだね」


「ああ。状況によって必要な戦い方が変わるからな。騎馬隊が有効な相手もいれば、歩兵で防衛線を組んだ方がいい場合もある。逆に、少人数の冒険者で対応した方が効率がいい魔物もいる」


「……なんか、面白い」


 アーサーが小さく呟いた。


「戦うっていうより、“どう守るか”を考えてる感じがする」


「それが戦術だからな」


 セシルが少し笑う。


「学院でも、そういうことを学ぶ授業がある。過去の戦の記録を使って、『なぜその配置にしたのか』『別の動きをしていたらどうなったのか』って考えるんだ」


「そんな授業があるの?」


「ある。騎士科の授業の中でも、かなり人気だぞ」


「騎士科……」


 アーサーがその言葉を小さく繰り返した。


「体を鍛えるだけじゃなくて、そういうことも学ぶんだね」


「むしろ、そっちの方が大事なくらいだ。強いだけじゃ、騎士は務まらない。まして、率いる立場となれば、なおさらだ」


 セシルは少し遠くを見るように目を細めた。


「誰を守るのか。どう動けば被害を減らせるのか。状況を見て考え続ける必要があるんだ」


 アーサーは真剣な表情で、セシルの話に耳を傾けていた。


「……そっか」


 しばらく歩いた後、アーサーがぽつりと呟く。


「俺はそういったことも、学んでいかなきゃいけないんだな」


 そう言って前を向いた横顔は、どこか遠くを見据えているみたいだった。

本文では長くなりすぎたため詳細を省きましたが、オンタリオ領の防衛体制について少し補足を。


オンタリオ領では、大きく分けて三つの戦力が連携して領地を守っています。


まず中心となるのが、対魔物戦を担う「騎士団」。

機動力を重視した騎馬隊や魔法騎士などで構成されており、魔の森周辺の警戒や討伐任務を担当しています。


次に、領都防壁の守備や街の治安維持を担う「治安維持隊」。

平時は領内の巡回や治安維持を担当していますが、魔物の襲撃や外敵の侵攻といった有事の際には、槍兵・弓兵を主体とした歩兵部隊として集団戦にあたります。


オンタリオは過去に隣国との小競り合いも経験しているため、“対人戦”も想定した編成になっているのが特徴です。


そして三つ目が、冒険者ギルド所属の冒険者による特殊班。

魔の森内部の調査や特殊個体への対応など、柔軟な対応力が求められる任務を担当しています。


「組織戦に強い騎士団・治安維持隊」と、「個の実力と柔軟性を持つ冒険者」。

その両方があるからこそ、オンタリオは魔の森と隣り合いながらも発展してきた――そんなイメージで設定しています。

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