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メンタルつよつよ令嬢ハルカはガリガリ王子をふくふくに育てたい!  作者: ふくまる
第4章:ふくふくの花を咲かせましょう 

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閑話:パトラッシュの審査

ハルカと別れた直後、セシル視点のお話です。

 ハルカと別れ、庭の奥へ向かって歩いていると、双子の笑い声が聞こえてきた。


「わあ!」


「もいっかい!」


 声のする方へ目を向けると、芝の上を大きな影がのんびり歩いていた。


 でかい。


 思わず足が止まる。


 馬よりも大きな体。銀白の毛が陽光を反射して青みがかって見える。その背に、アリサとヒナタがしがみついてキャッキャと笑っていた。


 ——あれが、時々話題に上がっていたパトラッシュか。


 シルバーフェンリル。話には聞いていたが、こうして目の前にすると——。


「でかいな」


 思わず声に出ていた。


 その瞬間、パトラッシュの耳がぴくりと動いた。

 そして、アリサとヒナタを背中に乗せたまま、パトラッシュがゆっくりとこちらへ向いた。


 琥珀色の瞳が、俺をじっと見ている。


「よお」


 とりあえず声をかけてみる。

 パトラッシュは無言だ。いや、喋れるわけはないが。


「邪魔するつもりはない。素振りをしに来ただけだ」


 説明してみる。

 パトラッシュはやはり無言だった。ただ、じっと俺を見ている。


「……なんだ?」


 その視線が、なんとなく居心地悪い。

 値踏みされている感じがした。


「せしる!」


 アリサが背中の上から身を乗り出して、俺に手を振った。


「よお」


 手を振り返すと、アリサがパトラッシュの背から飛び降りようとした。

 それに気づいたパトラッシュは、降りやすいようそっとその場に身を屈める。


 アリサはぴょんと軽やかに飛び降り、ヒナタもゆっくりと背から地面へ降り立った。


 そして二人は、楽しそうに辺りをぐるぐると走り回り始めた。


 パトラッシュはそんな二人に一切動じることなく、ただ俺を見続けていた。


 「邪魔するつもりはない。俺は向こうで素振りでもしてくる」


 そう言って、一歩前に進もうとした。


 ところが、俺の動きに合わせるように、パトラッシュも一歩、前に出た。


 俺が止まると、パトラッシュも止まった。


 ——なるほど。そういうことか。


「通してほしいんだが」


 パトラッシュは返事をしない。


 ただ、鼻をひくひくと動かして、俺の方をくんくんと嗅いでいる。


「……ハルカと話していたからか?」


 問いかけてみると、パトラッシュの耳が後ろに倒れた。


「なるほど。審査というわけか」


 俺は木剣を脇に抱え、腰を落として目線を合わせた。


「よし、じゃあちゃんと名乗ろう。俺はセシル・ローゼンベルクだ。レイノルド殿下の側近で、アーサーの護衛のためにオンタリオに来た。ハルカとは、一週間一緒に訓練した仲だ」


 パトラッシュは微動だにしない。


「悪い人間じゃない、と自分では思っている」


 パトラッシュは俺の顔を、しばらくじっと見つめた。


 それから、ふん、と鼻を鳴らした。


「……合格か?」


 パトラッシュはくるりと向きを変え、アリサとヒナタを追って歩き去っていった。


「「ばいばい、せしる!」」


 双子が振り返って手を振る。


 俺も手を振り返した。



◇◇◇



 休憩時間を終え、護衛任務に戻った俺は、アーサーに尋ねてみることにした。


「なあ、アーサー。パトラッシュにああいう習性があることは知っていたか」


「ああいうって?」


「ハルカに近づいた人間を、観察したり牽制したりする習性だ」


 「ああ」と少し苦笑気味に答えるアーサー。


「知ってる。俺も最初にやられた」


 やっぱりか。俺だけじゃなかったことに、少し安堵の息を吐く。


「……ここに来て最初の朝、顔中を舐め回された」

「それは審査とは言わないな」


「あれは挨拶の方だったらしい」

「挨拶……」


「審査されたのはその後。当時は、ハルカを取られると思ったんじゃないかって、ミランダ様は言っていた」


「今は違うのか?」

「今は……まあ、大分仲良くなった、と俺は思ってる」


 アーサーがそっと視線を逸らした。どことなく、目が泳いでいる。


「アーサー」

「何」

「お前、パトラッシュに認められるのに、どのくらいかかった?」

「……一ヶ月くらい」


 俺は沈黙した。


 隣でヒロが「私は三日ほどで慣れてもらえましたね」とさらりと言い、俺はまた沈黙した。


「まあ、私はパトラッシュより先にお嬢様の側にいましたし、お嬢様を手伝ってミルクをあげたりしてましたからね」


「それでは参考にならん」


「それは申し訳ありません」


 ヒロはいつも通り穏やかな顔をしていた。



◇◇◇



 翌朝の自主練。


 訓練場に向かう俺の前に、パトラッシュがいた。

 道の真ん中に座り、俺を見ている。


「……おはよう」


 パトラッシュは動かない。


「通してほしいんだが」


 パトラッシュは動かない。

 俺は大きく息を吸い、吐いた。


「わかった。長期戦だな」


 パトラッシュは、ふん、と鼻を鳴らした後、くるりと向きを変えると、そのまま悠然と去っていった。

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― 新着の感想 ―
パトラッシュさん…ヤキモチですか? ヒトを見る目は 確かでしょうね。
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