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メンタルつよつよ令嬢ハルカはガリガリ王子をふくふくに育てたい!  作者: ふくまる
第4章:ふくふくの花を咲かせましょう 

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第58話:急な話

今日も読みにきてくれてありがとうございます!

 化粧品の商品化に目処が立ち始めてからというもの、毎日がめまぐるしくなった。


 薬師ギルドに依頼していた成分分析の結果を受け、改良方法の打ち合わせと試行錯誤を繰り返す。並行して、量産化の拠点となる工房候補地の視察や、人員の確保にも動いていた。細かな調整が次々と発生し、そのたびにフリッツと顔を合わせる日々が続いている。


 さらに、マークからは今年の米と澄み酒の生産計画、そしてそこから確保可能な酒粕についての報告書が届いた。目を通して返事を書いているうちに、気がつけば午前中が終わっていた、という日もある。


 はっきり言って、多忙だった。



 そんな慌ただしい日々の中、第二回探索隊の派遣予定が正式に決まったと、夕食の席でお父様から告げられた。


 出発は半月後、期間は二十日間。手帳に日付を書き込みながら、私は「いよいよだな」と、期待に胸を膨らませた。


 ——そんなある日の午後。


 お父様から、「二人とも執務室に来てくれ」と呼び出しを受けた。



◇◇◇



 アーサーと二人で執務室を訪れると、お父様とお祖父様が揃って待っていた。珍しい顔ぶれだと思いながら挨拶を済ませ、促されるまま席に着く。アーサーも隣に腰を下ろした。


「実はな」


 お父様が、間を置くことなく要件を切り出す。


「ヒロが探索隊に同行する間、アーサーの護衛が手薄になる。そのため、護衛を兼ねて、有能な騎士科の学生を一人預かることになった」


「え?」


 思わず驚きの声が漏れる。しかし、お父様は構わず話を続けた。


「陛下とレイノルド殿下のご意向でな。まあ、一種の文化交流のようなものだ」


 そう言って、お父様はわずかに苦笑した。


「ヒロには探索でも中心的な役割を担ってもらっているし、これまでも執事見習いとして、俺やハルカの仕事を手伝わせることがあった。アーサーの側を離れて動くことも、決して珍しくはなかった」


 そこで一度言葉を切り、表情を引き締める。


「……アーサー自身の自衛力も上がっていた。だからこそ、専属護衛であるヒロが側を離れることへの危機感が、我々の中で薄れていた——その点を、陛下に指摘された」


 確かに、いつもならアーサーの傍にいるはずのヒロだけど、今日は探索隊の準備で不在だ。


「なるほど。じゃあ、文化交流っていうのは?」


「ああ、今回来ることになったのは、今年で王立学院を卒業する騎士科の学生なんだ。卒業後は正式に騎士団に入団するそうで、その前に武術留学に来たいそうだ」


 お父様が言葉を継ぐ。


「王宮の事情にも通じておるし、護衛任務の経験もある。アーサーの助けにはなるだろう」


 そこで一度言葉を切り、わずかに口元を緩めた。


「……もっとも、本人にも少々思うところがあるようだがな」


 私は首をかしげた。


「思うところ?」


「今度来るのは、以前ヒロと模擬戦をした騎士団長の息子だ。覚えているか?」


 ああ、と記憶が繋がる。


「がっしりした体格で、赤みがかった茶色の髪の……?」


「ああ、——セシル・ローゼンベルク殿というのだが、あの敗北以来、我らの武に強く惹かれているらしくてな」


 お父様は少し楽しげに言う。


「彼はレイノルド殿下の側近でもあるのだが、アーサーの護衛を兼ねて、オンタリオに滞在しながら訓練を受けたいと申し出てきた。王宮側としても、ちょうどよいと判断したようだ」


 なるほど、と私は納得する。


 レイノルド殿下の側近。ヒロの代わりの護衛。そして——本人の希望。


 いくつもの思惑が重なった結果、ということか。


 私は隣のアーサーを見た。


「アーサーは、それでいいの?」


 アーサーはわずかに間を置いてから答えた。


「……うん。この前王宮に行った時、兄上から正式に紹介してもらって、セシル殿に挨拶もしてきた。賑やかで気さくな方だったよ」


 どこか遠い目でそう呟くアーサーは、とても落ち着いていた。王宮の関係者、それもお兄様の側近がそばに来ることを、すでに受け入れている顔だ。


 きっと、向こうで何か話があったのだろう。


 ——でも今は、それを聞く場ではない気がして、問いかけの言葉は飲み込んだ。



「いつから来るんですか?」


 お父様が言いづらそうに一度目を閉じた。


「実は、そのことで今日集まってもらったんだ」


 ……何となく嫌な予感がした。


「明後日には訪れることになっている」


「明後日!?」


 思わず立ち上がりかけた。


「ずいぶん急ですね!?」


「ああ。セシル殿は今現在は学生なので、夏季休暇を使って来てくれることになったんだ。それに、ヒロが探索に出る前に引き継ぎを済ませたいそうでな。それと——」


 お父様がそこでお祖父様にじっと視線を向けた。


「どうしても、父上に鍛えていただきたいとか何とか」


「え」


 私はお祖父様を見た。


「お祖父様目当てってこと?」


「まあ、そういうことじゃな」


 お祖父様が、特に照れた様子もなくうなずく。


「例の模擬戦でオンタリオの武力に感銘を受け、ぜひ父上から教示を得たいと。加えて、従兄弟でもあるアーサーが王宮に馴染むための橋渡しになればとも志願してきたらしい」


 なんと。つまりセシル様は、お祖父様へのおしかけ弟子志望者、というわけか。

 隣に座るアーサーの顔を覗き見る。何かを思っているようだったが、特に口は開かなかった。


「では」と、私は頭の中で迎え入れの段取りを組みながら口を開いた。「急いで、セシル様のお部屋の準備などを進めなくてはいけませんね」


「ああ。すでにミランダから指示は出ていると思うが、セシル殿に不便がないよう、皆でそれとなく気にかけてやってくれ」


 お父様のその一言で、この話はひとまず締めくくられた。



◇◇◇



 執務室を出ると、廊下でルナが待っていた。どうやらすでに話を聞いているらしく、私が口を開くよりも先に、進捗の報告を始める。


「お部屋の準備については奥様から指示が出ており、すでに整っております。現在は奥様とマーサが最終確認をしているところです」


「ルナ、ありがとう。厨房のほうにも連絡は入っている?」


「はい。明後日の昼餐から、お一方分追加でご用意するよう手配済みです。ただ、ご本人の好みが分かりませんので、お越しになってから調整することになるかと思います」


「わかったわ。急なことだから、いろいろ問題も出てくると思うし、何か気づいたことがあれば遠慮なく教えてね」


 歩きながら一通り打ち合わせを済ませ、ふとアーサーの様子が気になって振り返る。


 アーサーはまだ廊下に立ったまま、どこかぼんやりと窓の外を眺めていた。


(どうしたんだろう……?)


 やっぱり、王宮から人が付けられることに不安があるのかな。


「ハルカ」


 じっと見つめていると、こちらに気づいたアーサーが声をかけてくる。


「セシル殿は、すでに騎士団に出入りして剣の腕を磨いているそうなんだ。手合わせするの、楽しみだね」


「そうだね」


 私は明るく答えた。


 ——セシル様のことじゃなかったのか。じゃあ、いったい……。


 アーサーは控えめに微笑むと、わずかに迷うように視線を揺らし、


 「少し、話せないかな」と、部屋のほうへ目を向けた。


 何を、とは聞かなかった。


 ただ、静かにうなずく。


 廊下に差し込む日差しが揺れている。夏がもう、すぐそこまで来ていた。

ハルカが化粧品プロジェクトに奔走する中、探索隊の予定も決まり、さらに急な来客の知らせも舞い込みます。

そんな慌ただしい中、どこか憂いを帯びた表情を見せるアーサー。

果たして、彼が切り出そうとしている『話』とは——。

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