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メンタルつよつよ令嬢ハルカはガリガリ王子をふくふくに育てたい!  作者: ふくまる
第4章:ふくふくの花を咲かせましょう 

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第56話:王宮にて(2)

全話の続きです。

GW後半(5/2~5/6)は毎日投稿予定!

お出かけの合間に楽しんでいただけたら幸いです╰(*´︶`*)╯♡

ふと、ソファに腰掛けた少女と目が合った。


俺に気づいたその瞬間、青く澄んだ瞳が、先ほどまで兄上に向けていた親愛の色から、好奇心を宿した輝きへと変わった。


きらきらとしたその笑顔に寄り添うように、プラチナブロンドの髪がやわらかな光を帯びている。陶器のように白い肌に、小柄で華奢な体つき。その佇まいは、まるでミランダ様の部屋に大切に飾られている人形のようだった。


兄上が振り返り、俺を手招きする。


「紹介しよう。アーサー、こちらは俺の婚約者のソフィア嬢だ」


少女はカップをテーブルに置くと、すっと立ち上がり、一歩前へ進み出る。そして、淀みのない所作で、鮮やかなカーテシーを披露した。ドレスの裾がふわりと優雅に揺れ、その一連の流れるような動きに、思わず見入ってしまう。


「アルトリウス公爵家長女、ソフィアと申します。お会いできて光栄ですわ、アーサー殿下」


まるで手本をそのまま写し取ったかのような、寸分の隙もない美しさだった。


ふと、自分が今受けている王族教育の内容が頭をよぎる。男女で作法に違いがあるとはいえ——これが、王族として求められる水準なのだと、目の前で示されたような気がした。


思わず、小さく息を呑む。


「……アーサー・エヴァーランドです」


はっと我に返り、慌てて頭を下げる。我ながらどこかぎこちない動きに、わずかな気恥ずかしさが込み上げた。こうした場での振る舞いは、まだ練習が足りていないらしい。


「ソフィアはエドウィンの妹なんだ」


兄上が自然な調子で補足する。


「今日は兄に届け物があるとかで、妃教育のついでに寄ってくれたそうだ」


「あら、逆ですわ。妃教育の前に殿下のお顔を拝見するのが本来の目的で、兄はついでですのよ」


ソフィアはさらりと言って、いたずらっぽく微笑んだ。思っていたよりも、ずっと親しみやすい人のようだ。


「おいおい、つれないなソフィア。昔は“お兄様が一番好き”と言ってくれていただろう?」


書類仕事を切り上げ、彼女とよく似た色合いの髪をした青年が近づいてくる。


「初めてお目にかかります、アーサー殿下。ソフィアの兄で、レイノルド殿下の補佐役を務めております、エドウィン・アルトリウスと申します」


俺の前に立つと、落ち着いた物腰の青年——エドウィンが、丁寧に頭を下げた。


その横に、見覚えのある赤みがかった茶色の髪の、がっしりとした体格の青年が並ぶ。


「セシル・ローゼンベルクです。以前、訓練場でお見かけしましたが、きちんとご挨拶できておりませんでしたので、改めてご挨拶と、少しお話を——」


弾けるような笑顔でそう言いかけたセシルを、エドウィンが視線だけで制する。セシルは「失礼しました、改めて」と言って、慌てて居住まいを正して一歩下がった。


「リオネル・ヴァンダイクです。よろしくお願いいたします」


セシルに代わってすっと前に出た青年——リオネルは、簡潔ながらも礼節のある口調で名乗り、丁寧に頭を下げる。口数の少ない大人しそうな人だった。



三人の挨拶がひと通り終わると、ソフィアが静かに口を開いた。


「では、妃教育の時間となりましたので、私はこれで失礼いたします」


兄上に向かって優雅に一礼し、俺にも軽く頭を下げると、そのまま淀みのない足取りで扉へと向かった。


ドアが閉まる音を聞きながら、俺はぼんやりとその後ろ姿を見送った。


「……お人形のような方ですね」


 思わず、口から出ていた。


「素敵な女性だろう?」


 兄上は特に取り合う様子もなく、さらりと受け流した。


兄上は俺にソファを勧め、侍従へとさりげなく目配せを送った。すぐに侍従が動き、ソフィアの使っていたカップを下げると、ほどなくして新しい茶器が俺の前に用意される。


それを待つ間も、兄上は手を止めることなく、側近たちへ次々と指示を飛ばしていた。


「この書類はリオネル、法務に確認を頼む。あちらの案件についてはエドウィン、財務の見解をまとめてくれ。急ぎではないが、明日の午後までには欲しい」


淀みのない指示に、二人が即座に応じて動き出す。


ひと段落したところで、兄上は向かいのソファに腰を下ろした。


「今二人に指示した案件は、複数の部署が関わっていてな。手順を踏んで議会にかける必要があるんだ。——こちらの書類については、資料が揃わないと動けないから、先に担当部署へ指示を出しているところだ」


色々な書類を見せながら、兄上が説明をしてくれる。兄上はすでに皇太子としていくつかの政務を任されており、こうして側近たちと共にそれを処理しているらしい。


どのような仕事があり、それをどう捌いていくのか——俺は時折頷きながら、興味深く話を聞いた。


側近たちはそれぞれに専門分野を持ち、それに応じた意見や情報を兄上に提供している。時には実家の伝手を使い、裏から支えることもあるようだ。


目の前で繰り広げられるやり取りを頭の中で整理していくうちに、「政務」というものの輪郭が、ほんの少しずつ形を結び始めていた。


側近に的確な指示を出し、滞りなく政務を進めていく兄上の姿は、どこか大人びていて、かっこいい。


ラオウ様やハルカに感じた「かっこいい」とは、また少し違う——その落ち着いた在り方に、俺は改めて尊敬の念を抱いた。



ひと通り説明が区切れたところで、兄上がセシルを呼んだ。


「セシル、オンタリオ行きの件、了承が得られたぞ」


その瞬間、セシルの目がぱっと輝き、全身から喜びがあふれ出す。


「本当か!? いつからだ? どれくらい滞在できる? 訓練には参加させてもらえるのか? ラオウ様は指導してくださるのか?」


一息にまくし立てるセシル。その勢いと熱量に、アーサーは虚を突かれたように、ぱちぱちと目を瞬かせ、二人の顔を交互に見やった。


「詳細は、今ごろ父上が辺境伯殿と詰めているところだ。正式決定はもう少し先になるが——アーサーの護衛を兼ねて、夏季休暇にオンタリオへ向かってもらうことになる」


「アーサー殿下の護衛任務か! 殿下、よろしくお願いします。一緒に訓練できるのも楽しみにしています!」


そう言って、勢いよく手を差し出してくる。アーサーは戸惑いながらも、おずおずとその手を握り返した。


「こちらこそ、よろしくお願いします」


セシルは握手を交わしたまま、独り言のように思考と願望を口にし続ける。


「ヒロ殿と再戦できるかな……いや、その前に今の俺では話にならん。今日から訓練時間を倍にするか。いや、倍でも足りないか——」


エドウィンが額に手を当てる。リオネルは何も言わず、静かに目を閉じた。


その様子に、兄上が苦笑しながらこちらを見る。


「大変だろうが、よろしく頼む」


「……あ、はい」


戸惑いを隠しきれないまま、どうにかそう返すと、兄上が小さく笑い声を漏らした。つられるように、俺も笑みをこぼす。



(……この夏は、賑やかになりそうだ)

余談ですが、ミランダの部屋には、双子が生まれた際に訪れる機会がありました。文中に登場した陶器の人形は、その部屋に大切に飾られていたものです。


実はあの人形、ミランダと幼馴染だったアーサーの亡き母・ローズ妃とお揃いの品でもあります。ローズ妃の死後、その人形がどうなったのかは、今も分かっていません。

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