第92話:帰省
毎日暑いですね_:(´ཀ`」 ∠):
待ちに待った夏休みがやってきた。
私は王都で馬車いっぱいのお土産を買い込むと、レオとルナと共にオンタリオへ向かった。
六日間の馬車旅は、各地でお土産を買い足し、噂の温泉にも立ち寄る、楽しい旅となった。
——そして。
「お嬢様、城壁が見えてきましたよ!」
オンタリオ辺境伯領の領都アルデンブルク。その堅牢な城壁が、目の前に姿を現した。
灰褐色の石を幾重にも積み上げたその分厚い壁は、長年の風雪に晒され、無数の傷跡を刻んでいる。けれど、その一つひとつが、この辺境を守り抜いてきた歴史そのものだった。
今は開け放たれた門を、多くの旅人や商人が魔獣や外敵を恐れることなく行き交っている。
人々が当たり前の日常を送れている。その光景を前に、この地を守る辺境伯家の使命の尊さに胸が震える。
私も、いつか——。
「バウッ!」
馬車の列の最後尾に付き、治安維持隊の検査を待っていると、詰所の方から聞き覚えのある鳴き声が響いた。
「ハルカ!!」
「バウッ! バウッバウッ!!」
今度は懐かしい声まで聞こえてくる。
馬車の窓から外を覗くと——
行列の先、門の前に、お祖父様とパトラッシュが並んで立っていた。
「迎えにきたぞ!」
嬉しそうなお祖父様とパトラッシュに迎えられ、私たちは馬車を降りる。
荷物と馬車はルナに任せ、私はレオと共に、お祖父様たちと屋敷へ向かった。
◇◇◇
「ねえさま!レオ兄さま!」
「おかえりなさ〜い!」
屋敷に着くと、玄関から双子が元気いっぱい飛び出してくる。
私はパトラッシュから飛び降り、両手を広げて二人を迎え入れた。
「ヒナタ、アリサ、ただいま!元気にしてた?」
二人はぐりぐりと頭を私に擦り付け、我先にと喋り出す。
嬉しい気持ちは伝わってくるけれど、一度に話されても聞き取れない。
「二人とも、ハルカが困ってるぞ。順番に、ゆっくり話そうな」
レオが隣にかがみ込み、二人の頭を撫でた。
アリサが嬉しそうに、レオに飛びつく。
「レオ兄さま!私ね、水魔法が上手になったんだよ!あとね、素振りも20回できるようになったの!」
パッと顔を上げると、弾けるような笑顔でアリサがレオの手を引いた。
「訓練場行こうよ!見せてあげる!」
「おいおい、アリサ。二人は帰ってきたばっかりだぞ。少しは休ませてやれ」
見かねたお祖父様の声。
「大丈夫ですよ、大旦那様。むしろ、ずっと馬車だったので体を動かしたい気分なんです」
「ほお。ならば少し手合わせでもするか?この半年でどれほど腕を上げたか、ワシが見てやろう」
「ありがとうございます!では、早速!」
そう言って、三人は訓練場へと行ってしまった。
残された私はヒナタと共に、お父様の執務室へと挨拶に向かう。
執務室には、ちょうど視察から帰ったばかりだというお母様もいた。
◇◇◇
帰還の挨拶を済ませると、皆でテーブルを囲み、お茶をいただくことになった。
学院生活や王都での出来事、新しくできた友人たちの話をひと通り終えると、今度はお母様から神殿調査の進捗について報告を受ける。
「風の神殿なのだけど、フェンリル像の台座に、新たな魔法陣が刻まれていることが分かったの。まだ解読中なのだけれど、研究者たちは、おそらくこれが魔力だまりに影響を及ぼしているのではないかと考えているわ」
——調査が始まって、もうすぐ四年。
これまでは瓦礫の撤去や岩塩窟の調査が中心だったけれど、ようやく魔力だまりの謎に踏み込める段階まで来たようだ。
「今は、その魔法陣の解析と並行して、遺跡内に同じようなものがないか詳しく調べているところよ」
お母様は報告書をお父様へ手渡しながら、今後の見通しについても楽しそうに話していた。
その横顔は辺境伯夫人というより、一人の魔法研究者そのものだった。
夢中になって語る姿がかわいらしくて、私は自然と微笑んでいた。
「魔法陣探索には、パトラッシュが大活躍しているのよ」
ふふ、と楽しそうに笑うお母様。
ヒナタも隣で「パトすごい!」と喜んでいる。
「そういえば、先ほどアリサから聞いたのですが、水魔法が使えるようになったそうですね」
「そうなのよ。適性があることが分かってね。今は、私が時間のある時に少しずつ使い方を教えているところよ」
「ヒナタは?最近どうしているの?」
私は隣のヒナタに話題を振った。
「ヒナタはね、アリサの応援係なの!」
「そうなんだ」
「それとね、お母様のお手伝いもしてる」
「え?」と驚いてお母様に視線を向けた。
お母様は小さく頷くと、ヒナタを優しく見つめる。
「そうなのよ。騎士団で治療してると、ヒナタがお手伝いに来てくれるの。とても助かっているわ」
「そうなんだ、偉いね。ヒナタ」
隣のヒナタの頭をよしよしと撫でる。
ヒナタは嬉しそうに、気持ちよさそうに目を細めていた。
◇◇◇
晩餐の時間が近づくと、まるでその時間を狙ったかのようにアーサーがフェリックスとヒロを伴ってやってきた。どうやら、三人は転移陣を使ったようだ。
一度それぞれの部屋へと案内した後、改めて食堂で挨拶を交わす。この頃にはルナも戻り、私たちが用意したお土産も届いていた。
「みな、よく帰ってきた。フェリックス殿もようこそオンタリオへ。再会と歓迎を祝して、乾杯!」
お父様の音頭により、大人たちはグラスを傾けた。
私も、オンタリオ特産のベリージュースをゴクゴクといただく。
久しぶりに味わう甘酸っぱさに、帰ってきた嬉しさが込み上げてきた。
アーサーやレオも同じようにジュースを飲み干す。
フェリックスだけは、次々と運ばれてくる料理に目が釘付けだった。
「今日は、この時期にしか食べられない特別な魚が手に入ったのよ」
そう言って、目の前に運ばれてきたのは美しく盛り付けられた鮭に似た魔魚ジラスの塩焼きだった。見た目は素朴だけれど、この時期のジラスは産卵前で脂がたっぷり乗り、別格の美味しさ。この時期だけ味わえる、オンタリオでも指折りのご馳走だ。
続いて並べられたのはコカトリスの唐揚げ。わんぱく男子人気NO.1の唐揚げを、三種類の味付けで楽しんでもらう演出だ。他にも色とりどりの野菜と蒸し鶏のサラダにローストビーフなど華やかな皿が並ぶ。
ん〜!これは白米も欲しい!
久しぶりに白飯、味噌汁、焼き魚で定食にしたい!!!
唐揚げ定食でもいいかも!
私は定食への熱望を胸に秘め、フェリックスを見た。
「フェリックス様、料理はお口に合いましたでしょうか?」
そう、問いかけようとして、やめた。
一目瞭然。聞くまでもない。
それはもう嬉しそうに、美味しそうに次々と料理を口に運ぶフェリックスと目が合った。
フェリックスは一瞬だけ恥ずかしそうに視線を落とすと、口の中の唐揚げをゴクンと飲み込む。
グラスの水で喉を潤すと、満面の笑顔で口を開いた。
「兄から聞いていた通り、オンタリオ料理は最高ですね!いくらでも食べられそうです!」
ニカリと笑うフェリックス。
——すごい、一瞬で何事もなかったかのように振る舞ったよ。
「気に入っていただけたようで、何よりです」
お母様が社交的な笑みを浮かべる。
「そう言えば、フェリックス殿は父上との訓練をご所望だとか」
お父様はそう言って、視線をお祖父様へと向けた。
「なんじゃ、それなら明日の朝から参加するか?」
「よろしいのですか!ぜひ、よろしくお願いします!!」
お〜弾けんばかりの満面の笑み。
こんなところも、セシルにそっくりだ。
この後は、学院生活や王宮での暮らし、騎士科の訓練に寮での食事まで。
話題は尽きることなく、気づけば夜もすっかり更けていた。
絶え間なく続く笑い声。
双子の元気な声。
アーサーの穏やかな笑顔。
ヒロとレオの何気ないやり取り。
——ああ、帰ってきたんだ。
私はそんな当たり前の幸せを胸いっぱいに感じながら、久しぶりの家族団らんを楽しんだのだった。
久しぶりにオンタリオへ帰ってきました。
やっぱり実家はいいですね〜〜╰(*´︶`*)╯♡




