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08. 追放されたダイアナ、森で襲われる 

◇ ◇ ◇ ◇



 追放されてから二日後──。


 春風がさわやかな昼下がりの田舎道。



「もうここでいいわ、ロイド!」と、ダイアナは神殿用の馬車から降り立った。


「ですがダイアナ様。行き先の孤児院のあるコゼット村は先ですが、こんな森の手前でいんですかい?」


「ええ、ここでいいのよ。孤児院はこの森を抜ければすぐだから……少し森を徒歩で寄り道したいの。ロイド、ここまでどうもありがとう!」


といって、ダイアナは御者のロイドにチップの銀貨を、三枚渡した。


 

「え、ダイアナ様。これは銀貨ですぜ? 三枚はさすがに多すぎます!」



「いいのよ受け取って。だけどさっき渡した手紙は、必ず巫女のマリーに渡してね」




「へい、ダイアナ様。命に代えても渡しますだ。わしら神殿の厩舎の御者は全員、大聖女様の味方ですけ。この度の追放は王宮の家令たちは皆、カンカンに怒ってます──俺らは怪我や病気を治療してくれる聖女様たちに恩がありますだ!その一番棟梁である大聖女様を追放など罰が当たりますさね!」


人の良い、御者のロイドはまるで『大聖女命!』のように崇拝している家令で、少し禿げた額から耳たぶまで真っ黒に日に焼けていた。




「ありがとうロイド。だけどそんなに怒ると、また血圧が上がるわよ。大丈夫、私は必ず王宮に戻るから心配しないでね」


ダイアナは(なだ)めるようににっこりと笑った。



「へい、俺たちも信じて待ってますだ。どうかお気をつけて、大聖女様!」


 ロイドは、王都から来た道を元に戻って去っていった。


 

 

──そうだ、うかうかはしていられない。やるべきことをやらねば!



ダイアナは、ロイドの馬車を見送った後、背嚢(はいのう)をしょって、急ぎ足で森の中へと入っていった。



◇ ◇


 

 陽光煌めく森の木漏れ日の中、ダイアナは軽快な足取りで歩いていく。


 ダイアナの出で立ちは、灰色のフード付マントに茶色のキュロットとシャツ。

 

 金髪もフードを被っていると傍からは目立たない。

 

 一見すると、平民の旅人風に見える。

 とても神殿にいた元大聖女には見えなかった。

 手荷物も旅行用の背嚢(はいのう)と木杖のみと軽装だった。



「シスターアンナは私が突然、やって来たらびっくりするでしょうね」  

 

 ダイアナはふふと微笑み独り言を呟いた

 

 

 既にダイアナが孤児院から出て十年以上経っていたが、シスターのアンナは園長として健在だったのを思い出して、一時ここに身を寄せようと思ったのだ


  

 このコゼット村は、王都から数十キロ離れた先の山の谷間にあり、付近には鬱蒼とした森があった。

 

 今、ダイアナが歩いているこの森は、“お化けの森”といって村の子供や孤児たちとよく遊んだ場所だった。

  


「ああ、懐かしいなあ、この辺はちっとも変わってないわ」


 ダイアナは気持ち良い森林浴の中で鼻歌を歌いながら、小鳥たちと合唱していた。

  

 

 まだ日は高かったがマツやスギ、ヒノキなど針葉樹林で覆われているので、森の中は陽射しを(さえぎ)り地面には苔が生えて、色とりどりの木の子が沢山生えていた。

 


 ダイアナが孤児院に行く前に森を探索したのは、子供の時に秘密の場所にいってあるモノを探す為であった。



 秘密の場所は森の奥の古い洞窟内にあった。


 

 その洞窟の前に来た時──。


 

 カサッと葉音がして、野鳥がぱさぱさと大きく羽根を伸ばして飛び立っていった!



「!?」


 ダイアナが振り向くと、いつのまにやら数人の黒マントを来た男たちに囲まれていた。


 

 ちょうど木漏れ日の陽光が雲間に隠れてしまう──。

 

 暗くなった森の中でも男たちは覆面を付けていた。


 大柄で宮廷の護衛騎士のような、立派な体格をしていた。




「おまえ達は何者だ、私をダイアナと知っての者か!」


「大聖女様、お命頂戴します」


 

 一人がそう言った途端、全員がダイアナめがけて(さや)から剣を抜き、ダイアナに切りかかろうとした。


 ダイアナは風のヒール(魔力)を使おうとした矢先──。

 

 「!」



 突然、空から一人の大柄な剣士風の出で立ちの男が、バサッとマントを(ひるがえ)してダイアナの前に降り立った。



 「貴様、何奴──!」


 覆面の間者が剣士に問いただした瞬間、光る稲妻のような男の刀剣がさく裂した。


「うっ……」


「ぎゃ……」


「くっ……!」

「ガハ……」


「あっ……う」

 

  

 その剣士はダイアナの眼ではとても見えない速さで、数名の覆面男たちをあっという間に切り捨てたのだ。



 数名の覆面した男たちがあちこちで倒れていて、ピクリともしなかった。



「はん、もう終わっちまったかい⋯⋯よわっちい奴らだな、これでも刺客か?」



 剣士は残念そうに口を開いた。


 何だか飄々(ひょうひょう)とした若い男で、少し高めの声だった。



 ダイアナは呆気にとられて、長い睫毛をパチパチと数回も瞬きした。





──凄い、瞬きする間に……ってこう言う事を言うのかしら?


 

 私には、剣士の男が剣刀を抜いたかと思ったら、濃紺色のマントがひらりひらりと、大風が吹いたようにしか見えなかったわ。



 「うっ……」

 

 ただ一人、手前にまだ(うごめ)く声をだして、倒れている覆面をした男がいた。


 剣士は一足飛びでその男に近づき、碧い剣をギラつかせて、その矛先を男の首に充てた。



「吐け──! 誰の命令だ──王子かそれとも他の奴らか?正直に申せば命だけはとらん!」



「し……神……官長だ……大聖女はこの王国に災いをもたらすから殺せと……」



「バカめが!大聖女を殺めるなどと言語道断、災いはお前らの方だろう!」


 剣士は刀剣を男の首に振り降ろそうとしたが、ダイアナが間に入った。



「おやめなさい、これ以上の殺生を私は許しません!」



「へ?」



 助けた剣士はダイアナの行動に『正気かよ?』という呆れた表情で口をあんぐりと開けた。





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