06. 予言をするダイアナ
◇ ◇ ◇ ◇
ダイアナは壇上で、カミラに忠告をした。
「カミラ、聖女の規律に反した貴方はその資格はない。つまり大聖女の役目など果たせやしない。あなただって知っているでしょう」
「あ~ら、大丈夫よお姉さま。大聖女って一番聖女の長でしょう。聖女たちが沢山いるのだから、私は報告だけ受けて彼女たちに業務の指示をすればいいだけだわ」
「いいえ、大聖女の務めはそんな事務的なものではないわ」
「あら~だってお姉さまが大聖女になってからは、私たちに『ああしろ、こうしろ!』って指図ばかりしてるじゃない?それでいてご自分は巫女達にかしずかれてるだけ! 私が見てるお姉さまは、公式行事の祈祷と神殿結界と後は王族治癒くらいの業務じゃありませんか!」
「カミラ、お前は何もわかってない! この神殿の奥底には、遥か昔、翡翠の女神さまが封印した魔獣たちが眠っています──その封印の結界を定期的に行う事が、何よりも大聖女の大切な役目なのです。結界には大いなる魔力が必要となる。王子と閨事をした貴方には結界を張るのは、逆立ちしてもないでしょう!」
「ま、失礼な! 私の魔力が強いのを誰より知ってるくせによく言えるわね~!あ、お姉さまは私に殿下を取られて悔しくてたまらないのね!」
「──くだらない! 私は事実を申したまで。聖女は巫女の上に立つ神聖者でなければならない。俗世間に染まった者はただの女人に過ぎない、カミラ、あなたに大聖女は務まらない!」
「酷い、妹の私にさっきから暴言ばかり。ああ悔しい〜アレックス殿下ああ!」
カミラは嘘泣きしてアレックスにべったりと抱きつく。
「ダイアナ、貴様は俺の婚約者にむかってなんたる不敬!……カミラは未来の王太子妃ぞ。もうお前は大聖女失格と言っただろう、神殿の護衛たち、直ちにダイアナの纏った大聖女の衣を脱がせろ!」
王子に命じられた王宮騎士団数名が、ダイアナに近づこうとした。
「──汝、男子は寄るな!ヒール──!」
と、ダイアナは自分の周りに結界を瞬時に張った。
「「「うわあっ!」」」
ダイアナが張った結界に、護衛騎士数名がゴムまりのように跳ね飛ばされた。
そのままダイアナの張った小結界は、まあるい美しい球体を描くようにダイアナの周りを金色に照らしていた。
まさに黄金の大聖女の威風堂々たる姿である!
それを間の辺りにしたアレックスは愛憎入り混じった眼になった!
「くっ、ダイアナ。私に逆らうのか?」
「アレックス殿下、いくらあなたが私の地位を剥奪しても私は大聖女です。宜しいか、ここにいる皆の者!よくお聞きなさい!」
ダイアナは聖女含め神殿内の者たちに向かって、右手を高々と挙げた。
凛としたはりのある声が壇上より響き渡る。
「このままカミラを大聖女にすれば次の夏の結界を張る事はできない。さすればこの神殿は魔獣たちの出現で破壊されるやもしれません!」
「「おおっ!」」
「「まあ!」」
神官や聖女たちの幾人かどよめきが起こる。
「魔獣は私たち人間を食う悪魔です! そして悪魔は神殿の次は王宮を破壊する、王宮の次は国民たちの棲む王都へいき、人々の住む街や教会の破壊を繰り返すのです──そうしてジェダイト王国は、太古の時代のように魔物の巣窟と化してしまう。──私はそれを危惧しているのです」
「煩い──戯言はよせ!笑えるぞ、この現代に魔物などいる訳がなかろう」
「殿下、貴方は王国の歴史を学んでいないのですか? なぜ王宮に神殿ができたのか、なぜ私たち聖女が必要か?──すべてはジェダイト国の守護神でもある“翡翠の女神”の思し召しなのですよ!」
「くっ、ダイアナ! お前はどこまで王太子の俺を愚弄するのだ! 翡翠の女神の話など子供の頃から、乳母から子守唄のように聞いて知ってるわい!」
「ならば殿下、どうかカミラだけは大聖女にしないでください! ここにいる私の部下、筆頭巫女のマリーに仮の大聖女の権限をお与えください。マリーならば結界を張れる逸材です」
「大聖女様……」
燃えるような赤毛髪のマリーは突然、自分の名がダイアナの口から出てビックリした。