03. しつこいアレックス王太子
※2025/6/15 修正済み
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カミラには、ダイアナが大聖女に抜擢された以外にも憎悪する理由があった。
ジェダイト国王の息子、アレックス王太子その人だ──。
彼は王族特有の銀髪でアイスブルーの美形王子と、令嬢や聖女たちから人気があった。
カミラも密かにアレックスに片恋をしていた。
だが肝心のアレックスはダイアナの美貌に眼がくらんで、彼女ばかり追いかけ回していたのだ。
「悔しい、悔しい、なぜお姉さまばかり特別扱いされるのよ、私の方が魔力も顔だって美しいのに……」
カミラは姉を追い回すアレックスを見て、歯ぎしりして悔しがった。
そんな義妹の気持ちなど露しらず、ダイアナは大聖女となって慣れない業務に悪戦苦闘の毎日。
新米大聖女には、まだ大神殿の結界魔法が上手くできなかった。
──大聖女様から引き継いだのはいいけど、春夏秋冬の定期神殿結界が上手く張れない!
先月春の神殿結界は、翡翠の女神様のお情けでなんとかうまくいったけど⋯⋯。
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大聖女の一番大切なお役目でもある、神殿内の結界魔法はダイアナ一人の力ではできない。
あくまでも神殿結界は、翡翠の女神像の“碧き力”がないと成功しない。
大聖女になって初めて神殿の結界魔法をかけたダイアナだったが、彼女の放つヒールが弱くそれを翡翠の女神が察知して補充してくれたのだった。
──きっと私の魔力波動が弱いんだわ。もっと精進して、次の夏の定期結界まで習得しないと!
こうしてダイアナは、時間を見つけては神殿内の鍛錬場で練習を重ねた。
そのダイアナの姿を暇さえあれば、見つめていたのがアレックスである。
「はああ、いつ見ても綺麗だな~俺のダ・イ・ア・ナ」
アレックスのとろりん眼がアイスブルーじゃない、桃色ハートに変っていた。
本来アレックスは王太子として、帝王学の講義や宮中内外の公務で多忙なのだが、ダイアナが大聖女となってからは大神殿内に入り浸ってばかりいた。
この情けない王太子が、平然と見過ごされているのには理由があった。
父親のジョージ国王がアレックスを放ったらかしにして、好き勝手に甘やかしていたせいだ。
国王はジェダイト国民や諸侯からも“偉大なる王”と評されている立派な王だが、こと息子に関しては、蜂蜜を指で舐めるくらい甘かった。
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ジョージ国王の過去を少し──。
彼の父、つまりアレックスの祖父が早世した為、ジョージは若くして王位についた。その為王太子時代、若者らしい遊興も殆どせず王国の政務に邁進していく。
また国王は当時、幼馴染の伯爵令嬢と深い仲だったが、突然の父王崩御で隣国の王女と、無理やり政略結婚をさせられる。
その結果伯爵令嬢とは別れ、折しも同じ時期に伯爵家も没落となる。そのまま二人は疎遠となった。
ジョージ国王は政務一筋、駆け抜けて──御年四十となった。
王太子の側近たちが国王にアレックスの素行を進言しても
「まあ、いいじゃないか。せめて息子のアレックスには自分が王子時代、できなかった青春を謳歌させてあげよう」と、ついつい親ばかで甘やかしてしまう。
そうこうしている内に、アレックス王太子のダイアナへの執着愛は、日増しに強くなっていった。
逃げれば捕まえたくなるのは男の性なのか、毎日ダイアナを追いかけていく。
しかし、ダイアナは大聖女だ。男子禁制の原則は絶対だ。
彼女の周りには、常にお付の巫女がいてダイアナを警護していた。たまに不埒な輩が近づけば、巫女たちは風の魔法で彼等を撃墜させた。
特にマリーという燃えるような赤毛の巨体の巫女は、いつもダイアナの側にいた。
彼女はカミラに匹敵する魔力の持ち主で、ダイアナの一番弟子でもあった。
「あの赤毛のデカい巫女はあれでも女か!いつも俺と目が合うとあいつは、蛇のような目で俺を睨みつける!巫女のくせに何様だ、俺は王太子なんだぞ!」
「王太子様、せんない巫女の事です、どうかお気を静め下さい」
「うるさい、なんで皆して俺の邪魔をするんだ! 俺はダイアナとデートがしたいんだよおお~!」
「そうは仰られても殿下、聖女は貴族令嬢とは違います──聖女には規律があって、不必要な男子との会話はご法度なのです。尚且つダイアナは大聖女です。デートなど無謀ですよ」
「ええい、そんな事は分かっている!だが俺はどうしても、ダイアナとデートがしたいんだああああぁ!」
アレックス王太子は駄々っ子のように喚き散らす。
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困った側近は王妃と相談して王太子がダイアナを諦めてくれるように、茶会や舞踏会を次々と開く作戦をたてた。
ともかく王子の意識を大聖女から、貴族令嬢たちに向かわせたかった。
だがアレックスはいくら茶会などの催しに出席しても、貴族令嬢たちには見向きもしなかった。