04. アレックス王子の求婚
2026/2/23 加筆修正済
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アレックスが貴族令嬢に興味を示さないのは、一言で言えば彼女たちに見飽きたからだ。
華美なドレスを着て扇をはためかしながら、香水むんむんの貴族令嬢よりも、真っ白い聖衣を纏い、神殿に厳かに仕える聖女に興味深々だった。
“聖処女”という清らかなイメージも、アレックスの男心に拍車をかけた。
実際、王子に限らず聖女は宮廷内でも殿方から人気があった。中には聖女を手籠めにしようとする悪しき令息もいたくらいだ。
その為、聖女たちは用心として、宮廷内は二人以上でないと行動しない規則となっている。
ましてや大聖女のダイアナには、女性の護衛騎士が傍におり、マリーを含む巫女たちが常にダイアナを取り囲んでいた。
それだけ警護を強化するのは万が一、大聖女に何か不埒な事があっては『神殿の理が狂う』と、聖職者たちから暗黙の了解だったからだ。
だがアレックス王太子は諦めなかった。
しぶとくダイアナに食い下がる。
それでも拉致があかないと思いきや、とうとう国王に泣きついた。
「父上、母上~どうか王命でダイアナを僕の正妃にしてください、どうかどうか、この通りです」と土下座までする始末だった。
弱り果てた国王夫妻はダイアナを呼び出し彼女の気持を確認した。
だがダイアナは大きく首を横に振って国王夫妻の前でもきっぱりと言った。
「恐れながら王様、お妃様。私は神殿の女神に忠誠を誓ったこの身です。婚姻などとんでもない!──何より私めは平民の出自。王太子様とは身分の差がありすぎます。誠に申し訳ありませんが、真摯にお断りさせて頂きます」
と丁寧に断ったが、内心ダイアナの心は呆れ果てていた。
──はあ? 冗談じゃないわ! なぜ私がアレックス王太子と結婚しなくちゃならないの!
とダイアナの本音であった。
幼い頃から大変な努力をして大聖女になったばかりなのに、その地位を捨てるなと愚かに等しいとしか考えられなかった。
◇
「そうですわ、お姉さま。アレックス殿下は余程、頭がおバカな王太子なのでしょう」
早速、ダイアナが王太子の求婚を断ったと聞いたカミラは、嬉しそうにニタニタとほくそ笑んだ。
※ ※
だがアレックス王太子に起死回生の味方が現れた。
ダイアナを推薦した元大聖女が、王太子がダイアナに求婚した噂を聞いて、神殿に出向いて来たのだ。
「ダイアナ、もしあなたが王妃になれば、巫女や聖女の待遇も今よりもっと改善してもらえますよ。それに我が国の聖教会の数はまだまだ少ない──聖教会を全土に増やせば民の信仰心がより深くなる。何より聖女が増えれば、病いやケガをしている多くの国民が助かるのですよ!」
「は?……シスター様。王妃というのはそんな凄い権限があるのですか?」
「そうですダイアナ。王妃は王様に進言できる唯一の女人です。大聖女にもできない力があります」
「………」
ダイアナは恩師である元大聖女の意見に耳を傾けた。
「ねえダイアナ、とりあえず王太子の婚約だけでも受けてみたらどうかしら? 若いあなたには、まだピンとこないかもしれない──けれど国母の座はそれだけ重要なのです。アレックス殿下が嫌でないのなら、後から夫婦の絆は育んでいけるでしょう──あなたが王妃になれば、聖女で培った能力を民のためにも十二分に発揮できると思うわ」
「なるほど……大聖女が為せない政事を王妃なら出来るというのも、確かに一理ありますね」
「そうですよ、最初から決めつけないで一度よく考えて見てもいいと思うわよ」
「⋯⋯⋯⋯」
ダイアナは内心
『大聖女様はなかなか打算的な御方だ』と初めて思ったが、それは口には出さず、恩師である大聖女のアドバイスは素直に受け止めようと思った。
──そうね、大聖女様の言う事も一理あるわ。
それにアレックス王子は軽薄な一面はあるにせよ、私自身、別にとりたて嫌ではないわ。
皆が騒いでるように、アイスブルーの君といわれるだけあって、王子の容姿は麗しかったし、何よりもアレックスが『自分を一途に愛してくれている』という気持は、若き聖女でもこそばゆい気分になっていた。
表向きは大聖女である品位を見せる為、常に異性を無視して行動をしているが、ダイアナだって未だうら若き乙女だ。
あれだけアレックスに付きまとわれれば、彼の気持ちはダイアナにもしっかりと伝わっていた。
それにもう一つダイアナには、大聖女になった時に捨てた夢があった。
ダイアナは孤児だったので“家族の絆”にとても憧れていたのだ。
──もし自分が魔力のない平凡な娘なら、結婚して子供を産んで育ててみたい気持ちはあった。
けれどそれは“儚い夢”だと諦めた。
でも……アレックス王太子と結婚すれば、もしかしたらその夢が叶えられるのかもしれない!
ダイアナは元大聖女様の助言で、生まれて初めて人生で結婚を意識するようになった。
※
そして月日はたち、ダイアナは18歳を迎えた。
彼女はこの間、長い時間をかけて考えた結果、王太子との結婚を条件付で承諾しようと、王宮殿に行きアレックス王子に伝えた。
「アレックス殿下、我儘かもしれませんが、私は最低でも後二年は大聖女としての仕事をまっとうしたいのです──何故なら私が後継と期待している巫女が一人います。その者はマリーといいますが、マリーは私よりも稀に見る魔力の持ち主です。未来の大聖女候補といってもいい!」
「なるほど……」
アレックスは大女のマリーが気に入らなかったが、せっかくダイアナがわざわざ自分に会いにきたので、内心とは裏腹にダイアナの話の相槌を打った。
「ですがマリーは未だ聖女にすらなっていない。あの娘にはもう少しだけ時間が必要です」
「そうなんだ……」
「なのでアレックス殿下、もしあと二年間だけ仕事を続けさせてくださるなら、私はマリーを次の大聖女に指名した後、よろしければ貴方様の妻になりますわ」
「ひえ~! ダイアナ本当かい!」
突然、自分の妻になるといったダイアナにアレックスは飛び上がった!
「ああいいともダイアナ、俺は待つよ。たかが二年などあっという間じゃないか! そうだマリーは最高の巫女だよ!あははは!」
何とも現金なアレックス王太子だ。
こうして条件付ではあったが、ダイアナとアレックス王子の婚約は成立したのであった。




