22. 最終話 エドワルドの要望とダイアナの譲らぬ想い
※ 最終話です。
◇ ◇
後日談になるがエドことエドワルドは、最初は王太子になるのを頑なに拒否していた。
突然、国王の長子と言われて、蒼の騎士団になったまでは良かったが、エドワルドが以前から煙たがっていた、アレックス王太子の後釜になる気はまったくなかったからだ。
そもそもエドワルド自身、王子という窮屈な身分が性に合わなかった。
一介の聖騎士団で十分だった。
しかしエドワルドは病が治癒したばかりの父王と、義理のシーラン伯爵に延々と説得させられていく内に、己の立場を理解し始めていった。
それでも自分が一国の王太子になるなど『笑止千万』と断ろうとした矢先に、突然エドワルドの脳内でピンと閃きが生じたのだ。
──そうだ、俺の願っていた要望をかなえてくれるなら王太子になってもいいぞ!
ふはは、ものは試しだ。ダメ元でいっちょいってみるか!
とエドワルドは突然、やんちゃな微笑を国王に向けて言った。
『王様たちの言い分は理解した!そんなにいうなら、俺様、王太子になってやってもいいぜ!』
『え、本当かエドワルドや、ワシの気持ちを汲んでくれたか!』
『エドお前、あ、いやエドワルド様、よくぞお聞き入れてくださいました!』
国王とシーラン伯爵は、エドワルドが承知してくれて飛び上がらんばかり喜んだ。
『だが二つだけ条件がある。王様が俺の条件を飲んでくれたら王太子になってもいい』
『? エドや二つの条件とはなんだ?』
『それはだな……』
エドワルドは悪戯っ子のようにピースサインをしながら、すみれ色の瞳をギラギラと光らせて笑顔でいった。
『一つ目、俺が王太子までは蒼騎士団を継続する事、二つ目は大聖女ダイアナを俺の嫁にするという条件だ!』
『『!?』』
国王とシーラン伯爵は仰天した。
『なんとエドや、お前は大聖女を好いておったのか!』と国王の声が裏返るくらい驚いた。
『そうだ王様、いや父上。俺は大聖女ダイアナと何が何でも結婚したい』
エドワルドはこの二つの条件を国王に提示したのだった。
『おお、なんとお前もか……』
国王は何とも困惑した表情になった。
◇ ◇
『はあ、これは弱ったな。如何したものか……』
国王はエドワルドの要望を一旦は保留にした。
ただ一つ目の条件、エドワルドが王太子時代までは蒼の騎士団の継続はその場で了承した。
これまでエドワルドは平民のように生きてきたのだ。
王宮内の窮屈なしきたりが辛いのは理解できる。それに騎士団内にいても帝王学の知識は学べられる。
だが、ダイアナとの婚姻を国王はすぐには了承できなかった。
無理もない──。
国王にしてみれば息子のアレックスの悲劇が先だってあったばかりである。
『またもや息子の欲している女人が大聖女のダイアナとは!』
国王は主な重臣たちに相談したり、色々と悩み抜いた。
確かにダイアナは聡明だし大聖女としての魔力もあり、この国にとってよいかもしれない。そう頭では理解しても国王にしてみると心は複雑であった。
聖女のダイアナを娶りたいと承諾したら、たった一人の息子のエドワルドまで魔王の棲む冥界落ちしてしまうのではないかと危惧したのだ。
愚息とはいえ、国王にとってはアレックスも目に入れても痛くないほど愛した息子だった。国王として厳しい処分にしても父親としては、今も胸のロケットにアレックスの肖像画を首にかけていた。
この上自分が心から愛した女の子供のエドワルドまで、同じ二の舞にはさせたくなかった。
またしてもエドワルドの片恋だったら?
あの大聖女のダイアナがエドワルドを愛してくれるだろうかとも疑問であった。
◇ ◇
だがその憂いは国王の杞憂に終わる。
数日後、ダイアナのいた孤児院のシスター・アンナから、国王に寄付金のお礼状が届いたのだ。
シスター・アンナの手紙によれば、ダイアナとエドがこの二ヶ月余り孤児院で生活していたと、二人の親密ぶりがアンナの目を通して、とても詳細に記してあった。
『ふむ、シスター・アンナの見立て通りなら、うまくいくやもしれん』
国王はシーラン伯爵にも手紙をみせた。
『おお、二人で毎朝、毎晩仲良く食事をしてエド、いやエドワルド様の好きな料理をダイアナ様がご自分で食べさせてるとまで書いてありますな。また、あの冷静で黄金の大聖女のダイアナ様がエドワルド様が話すと、声を立てて大笑いするなど聞いたことがない。──王様、これはダイアナ様もエド、あいや~エドワルド様を、相当お好きなのではないでしょうか』
『うむ、おぬしもそう思うか?』
『はい王様』
『う~む』
国王は何度もその手紙を読み返した。
『確かにアレックスの時は、あ奴の一方通行だったが、今回はダイアナもエドワルドを好いているようじゃな』
国王はエドワルドの一方通行の執着心でないと解り、ひとまずホッと安堵したのだった。
また国王も主だった重臣たちと協議し、よくよく熟慮した結果、心情も変わっていく。
『あれだけ聡明なダイアナならば粗野なエドワルドが国王になった時、この国の王妃としてエドワルドを支え、更に国を繁栄させてくれるだろう』という考えに変化していったのだ。
こうして国王はダイアナとエドワルドの婚約を了承した。
その知らせを受けたエドワルドが発狂したように、一日中ところかまわず飛び跳ねていたのはいうまでもない。
◇ ◇
エドワルドが病室から退出した後、ダイアナは窓から夕日に輝く大神殿を眺めていた。
今、まさに真っ赤な茜色の空が一面となり、大神殿が夕暮れに光り輝いてとても美しかった。
ダイアナはこの瞬間、魔界に落ちたカミラの事をふと思い出した。
──カミラ、あなたの選択は間違ってはいたけれど、結果的に私をエドと森で出逢わせてくれた。
子供の頃から私の欲するものを何でも欲しがったカミラ。
あの頃、私もできるだけ義妹のカミラに譲ったけれど。
もしあなたが生きていたらどうだったかしら?
ダイアナはじっと暮れなずむ空と神殿を見つめてはいたが、想いはずっと遥か遠くを凝視していた。
──いいえ、エドだけは絶対に渡さないだろう。
ううんカミラだけじゃない!
私は、他の誰にもエドだけはけして渡さないわ!
沈むゆく夕日を見つめるダイアナの翠の瞳も黄金に煌めいていく。
常にキリリとした大聖女の顔つきから、ダイアナの表情もいつしか愛に満ちた女人の微笑となった。
──エピローグ──
こうして一年後、めでたく結婚式を挙げてダイアナはエドワルド王太子の妃となった。
ダイアナの後釜として新たに大聖女に就任したのは、燃えるような赤い髪のマリーである。
まだ一年しか聖女期間のないマリーが大聖女になるのは異例中の異例だった。
神官たちの中には、まだ若すぎると陰で反対する者もいた。
だがダイアナは彼等の意見をあっさりとはねのける。
『我が神殿で最高の魔力を持ち、清浄な精神を宿しているマリーならば、歴代の中でも屈指の大聖女となるに違いありません』と太鼓判を押して決定したのである。
そしてマリーは大聖女の称号である聖冠を与えられて大聖女に任命された。
その後、マリーはダイアナの期待通り、生涯大神殿の翡翠の女神を守り抜き、死ぬまで大聖女としての使命を全うしたのだった。
──完──
※2026/2/16 エピローグを大幅加筆修正したために2話に分けました。
※番外編としてエドワルドの初恋を次話と分けました。
※修正後の聖女お読みくださり、誠にありがとう御座いました。
初稿の時は、完結が足早だったかなと思ったので、少し加えました。
※もしよろしければ、エドとダイアナの番外編も読んでいただけると嬉しいです。




