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14. 神殿結界が消えた夜  

※ 今回、残酷な描写があります。ご注意ください。

◇ ◇ ◇ ◇



 あの日、ダイアナが予言した通りだった。



『聖女は“聖処女”でなくてはならない、カミラにその資格はない』



 人々はようやくダイアナの言葉の意味を実感した。


 今のカミラは聖女のはしくれですらなかった。



「はあはあ、はあはあ……」


 カミラはとうとう諦めて結界をかけるのを放棄した。


 彼女の髪は乱れ、体中汗だくとなり、熱くてたまらず白い聖衣を檀上に脱ぎ捨ててしまう。



「どうした、大聖女様……」


「結界はどうした?」


「もうすぐ鐘の音が始まる時間だ、このままだと結界が消えてしまうぞ!」


 神殿内に集った人々が戸惑う中、とうとう春の結界が消える夜中の零時を迎える鐘が鳴った。



「リーンゴーン、リンゴーン! リーンゴーン、リンゴーン!」



 本来なら、大聖女ダイアナがかけた春の結界と同じように、新たな夏の結界を祝福する鐘の音になるはずだった。


 

 だが──今、人々が聴こえる鐘の音は、結界が無効となる霊鐘れいしょうのように神殿内に暗く響き渡っていた。


 

「リーンゴーン、リンゴーン!」



 そして最後の鐘の音が鳴り終わった後、大神殿内を纏っていた春の結界の桃色の淡い光が消えた。


 

 暫し、ほんの数秒だったのか、数分だったのかは分からない。



 突然──闇夜のように真っ暗となった神殿内。



「ゴゴゴオオオオオオオッ──!」

 


 地響きのような轟音と共に突然、神殿がとてつもなく大きく揺れた!


 地の底から突き上げられていく振動、波のうねりのような感覚!

 

 人々は立っていられずに、よろめき転倒する人々!


「地震だ──!」


「揺れが大きいぞ!」


「うわああああ!」


「キャーーッ!」



 神殿内のステンドグラスがバリバリバリッ!と音を立てて崩れ墜ちていく。

 

 それまで神殿内を照らしていたシャンデリアの蝋燭の灯りが消えて、辺りは真っ暗で何も見えない。



「ギャ!」

「グッ!」

「グァア!」

「ゲッ」

 

 あちこちで人の呻き声と悲鳴があがった。


 そしてたちまち血飛沫(ちしぶき)が飛び散り、血の匂いが充満していく。



「「な、なんだ、どうした?」」

「「なんだか血なまぐさい匂いがしない?」」

「「怖い!なんなの? 暗すぎて見えない!」」


 恐怖で怯えて喧騒する人々。



「ゴゴゴゴゴオオォォォ──ッ!」


「グアアアアアアァァァァ──!」


 

 突然、神殿の床下から大きな穴が開き、巨大なトカゲの形をした魔獣が薄気味悪い光を纏って現れた!



「ギャアアア──ツ!」


「うああああ!化物だあああ!!」


 

巨大魔獣は檀上にいた何人かの神官を踏みつけ、蹴散らし、あっという間に、カミラとその隣の玉座に座っていたアレックスを鋭い爪の前足で、二人の身体ごとぐわっと掴んだ!



「キャアアアア──!」


魔獣に攫われたカミラが悲鳴を上げる!



「ワアアアアァ! 化物めえええ!ええい、放せえええ!」


 アレックス王太子も魔獣に掴まれたショックで絶叫する!




「アレックス殿下が捕まった──!」

「わあああ、魔獣だ! 結界が破られたんだ!」


 

 驚く神官長、騒然とする神殿内の人々たち!


 

突然の巨大魔獣の出現でそこにいた全ての人たちが、パニックに陥った!



 

 いや、一か所だけ冷静な集団がいた。



 巫女のマリーたちである。


(想定通りだわ。結界が破られて魔獣が出現した! すべてはダイアナ様の言った通りだ!)


 

 マリーは素早く仲間の巫女たちを連れて、翡翠の女神の石碑の近くに走りよった。



「いい、みんな慌てちゃ駄目よ、ダイアナ様の言った通り、石碑の周りを取り囲んでお互い息を合わせてヒールをするわよ!」



「「「はい!」」」


 数名の巫女たちが返事をした。


 そして、マリーはヒールをかけた!



「翡翠の女神よ、どうか我に力を、結界よ放て──!」


「「翡翠の女神よ、どうか我に力を、結界よ放て──!」」



 マリーの暗唱の後、巫女たちも続いていく!


 

 その途端にマリーたちが囲む周りは白い球体ができた。マリーたち数人と石碑を守るだけの小さな球体ではあったが、まぎれもなくそれは結界だった。


 

 その球体はバリアーとなって、檀上から降りてきた何匹かの魔獣たちも近づく事ができなかった。


 

 また、魔獣たちの動きは目覚めたばかりなのか、動きが鈍かったので、神殿の入口から聖女や神官、護衛騎士らの大半は外へ逃れることができた。


 

だが──奥の檀上にいた、護衛騎士や神官長の側近たちは、現れた魔獣たちに(ことごと)くなぶり殺されたり、魔獣の口に飲み込まれていた。


 

 マリーと巫女たちは恐れずに、翡翠の女神を魔獣たちから守るため、必死で祈りを捧げていた、


 

 それでもマリーのパワーでは、やはり大神殿全体の結界は張れなかったのだ。




 その時だった──。




「マリー、皆、お疲れ様、良くがんばったわね!」


「あ、大聖女様!」


「「「大聖女様!!」」」


 

 マリーたちの前には、はあはあと息を切らせたダイアナが突然姿を現した。


 

 ダイアナは、洞窟に埋めた魔石を使って、大神殿へ瞬間移動してきたのだった。



「ごめんなさい、もう少し早くくる予定だったけど、座標軸がずれたのか、王宮の庭園に移動してしまったの!」


 ダイアナは、神殿内に移動したかったが、移動先が庭園だったので、必死に走ってきたのだった。



「いいえ、いいえ、来てくれて本当に良かったです!」



 マリーたちは涙ぐみながら、ダイアナが今、ここに居てくれる事に翡翠の女神に感謝した。





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