12. 七色の魔石とエドの無邪気さ
※ 2025/10/1 成田様、誤字脱字報告ありがとうございます<(_ _)>
※ 2026/3/3 タイトル変更&加筆修正済
◇ ◇ ◇ ◇
ダイアナはエドには内緒で刺客に邪魔されて入れなかった洞窟へ再び足を運んだ。
その洞窟に行ったのは、ダイアナが子供の時にたまたま見つけた、瞬間移動のできる魔石を宝物として埋めていたからだった。
外は夏だというのに洞窟の中はひんやりしていて、半袖だと寒いくらいだった。
ダイアナは奥の小さい清水がチョロチョロと湧き出ている、岩壁の下を鉄のシャベルで掘り続けた。
「ああ面倒だわ、土魔法が使えたら良かったのに」と、ブツブツ独り言を言いながら掘っていく。
ダイアナは白、水、風の魔法は巫女の時代に習得したが、土魔法は習得しなかった。
土魔法はあまり聖女には必要ない魔法だったので、神官たちも巫女の指導カリキュラムに入れてなかったのだ。
もし土魔法も習得していれば、こんな手間をかけずに、簡単に掘り起こせるだろうとダイアナはシャベルで掘り続けながら思った。
ガツンガツンとダイアナのシャベルで、固い土を掘リ起こす音が洞窟内に木霊する。
その時カッ!と何かが当たる音がした。
土の中から掘り起こした土器の小箱が少し見えたので、ダイアナはそっと小箱を取り出した。
──あったわ! 良かった誰にも見つかってなかった。
ダイアナは安堵した。
そして小箱から布でくるんだ魔石を取り出して、大切に布で拭いてから掌に乗せた。
魔石を手で触ると、原石の独特のゴツゴツした感触がした。
ダイアナは魔石を掌に乗せたままじっくりと凝視した。
──ああ良かった。どこも欠けてない。
それにしても十年以上経ってから、こうして改めてこの魔石を見ると、神殿の翡翠の女神の石碑と碧い面している光沢色がそっくりだわ。
やはりこの魔石は翡翠の仲間なのかしら?
ダイアナは片目を閉じながらじっくりと魔石をさらに観察していく。
翡翠の宝石は七色あると言われていた。
魔石はカット面が赤、黄、橙、緑、蒼、紫そして黒と分かれている、とても珍しい魔石だった。
見た目もカラフルだが、何故ダイアナがこの石が魔石だと分かったかというと、ほんの偶然だった。
ダイアナが子供の時に、洞窟でひとりで遊んでいた時、このキラキラ光る石を見つけて大喜びをした。
石の多面体に光を当てると、一面一面他の色に変化するのが、珍しくてダイアナはペタペタと触って遊んでいた。
夕暮れ時になってダイアナはお腹が空いてきた。
『あ、そろそろ孤児院に戻らなくちゃ!』
とダイアナが何気なく呟いた瞬間、突然、孤児院の食堂にダイアナは瞬間移動していたのだ!
『ええ?なんで食堂にいるの?』と──。
その時は訳がわからずダイアナは驚いたが、良く見ると碧い面に古代文字のメッセージが刻印されていた。
不思議な事に、ダイアナの翠色の瞳にはその小さな古代文字が、空中に浮かびあがって解読できたのだ。
メッセージにはこう記されてあった。
『汝の望む先へ三度だけ、我は自由に飛んで見せよう!』
とあった。
──んん……何だかへんてこなメッセージね。
最初、ダイアナはその古代文字の意味を理解できなかったが、更にもう一回、別の場所へ瞬間移動していた。
さすがに子供のダイアナでも、これは瞬間移動できる魔石だと気付いた。
するとダイアナは、あと一度だけ使えるなら、せっかくだから大人になった時、楽しみにとっておこうと決めて、洞窟の土の中に土器の小箱に入れて埋めて隠したのだ。
その後、ダイアナは孤児院から巫女として大神殿へ引き抜かれた為、多忙な聖女の業務で魔石の事など、すっかり忘れてしまった。
ダイアナが再び思い出したのは、アレックス王子に追放された時、大神殿で翡翠の女神の啓示を受けた直後だった。
──そうだ、あの魔石、子供の頃、二回しか使ってなかったはず。
だからあと一度は移動できると。
ダイアナは魔石をそっと握りしめた。
多分あの時、翡翠の女神はこの魔石を、私に思い出させてくれたんだわ。
必ずこの魔石装置を使って、私は神殿に戻れるに違いない。
結界の儀式の当日に魔石を使えば大神殿に瞬間移動できる。
さすれば必ず結界をまた張れる。
ダイアナは魔石を元の小箱に戻して、そのまま孤児院の自分の部屋に持ち帰った。
◇ ◇
実を言うとダイアナは、今すぐにでも神殿へ行き結界が終了する前日までに、新たな結界を張っておきたかった。
だが、新しい結界の切替は前日という神殿の決まりがある。
而して王宮を追放の身となったダイアナが、前もって神殿に戻り密かに隠れたとしても、もしも見つかれば罪人として牢屋に入れられてしまう。
自分だけなら脱出できるかもしれないが、その間、弟子の聖女たちや巫女のマリーにも被害が及ぶだろう。
何より自分が罪人となればこの孤児院に、万一弊害が及んだら一大事だ。
思案した結果、春の神殿結界の消える前日迄じっとこの場で待つことに決めた。
──そう、果報は寝て待てだわ。
それにしても弟子のマリーたちがどうしてるか気が気でないわ。
伝書バトで連絡を取り合ってはいても、神殿内の状況までは把握できない。
ダイアナは、孤児院の居間で子供たちの服を繕る時も、胸中は大神殿の仲間たちを常に案じていた。
◇
「ねえねえ大聖女さまさぁ、さっきから怖い顔しちゃって……俺の話、聞いてる?」
「え?」
ふと、食卓の向い席に南瓜クッキーをぼりぼり頬張っているエドが、ダイアナに話しかけていた。
「あ、エド……」
この一カ月間、エドとダイアナは姉弟のような間柄となり、至近距離で話す事がこうして多くなった。
幸いにも接触はしていないが、時にエドの顔とダイアナの顔が、間一髪で触れそうになるほど、近づく時もあってほとほと困る事もあったが。
──とにかくエドは私に馴れ馴れしい!
そんな事はおかまいなしにエドは不平不満を言った。
「ダイアナ、さっきからさあ、すんごい怖い顔だけど」
「え、そうだった?」
「うん、『眉間に皺を寄せた聖女様なんて、せっかくの美貌が台無しだよ!』って俺さっきから何度も言ってんだけど、あんたはどうも上の空だな!」
茶目っ気たっぷりのエドがニヤニヤしながら言った。
「え、私そんな怖い顔してる?」
「うんしてる。俺的にはもっと聖女様らしく、いつも微笑んでいて欲しいんだよな〜」
「エドったら茶化さないでよ。私はあなたのような子供と違って、色々と考えなきゃいけない事が沢山あるのよ!」
「え、俺が子供だって? 失敬だな~ダイアナ、俺は大聖女様より年上だぞ!いったい何歳だと思ってんの?」
とエドが拗ねるとダイアナに見せるふくれっ面になる。
「え?──そうね。十七か十八くらい?」
「はぁぁあ──止めてくれよ、俺はもうすぐ二十二歳だぜ!」
「ええええっ……そうなの?」
「そうだよ。だっから、いつも弟扱いしてたんだな!」
「あら……まあ……」
ダイアナは睫毛をパチパチと瞬かせた。
ダイアナから見るとエドは孤児院で、既にニヶ月近く一緒に暮らしていたが、やる事なす事、とにかく幼稚だったのだ。
どうみても、孤児院の子供の方がしっかりしてると思っていた。
だが二十二とは……なんと自分より三つも年上ではないか!
「あ……エド、それは悪かったわ。あは……申し訳ありませんでした、エドお兄様!」
「ふん、今さら謝ったってなあ。まあ今夜の夕ご飯は、俺の好物のビーフシチューにしてくれたら許してやってもいい」
「あはは、やっぱりシチュー好きは子供よね~」
「いったな!」
と、エドは均整の取れた逞しい腕を伸ばして、ダイアナの体に触れようとした。
「ダメよエド!『汝、男子は寄るな!』て何度も言ったでしょう、ヒール!」
ダイアナは敢えて自分の周りに、いつもより少し小さな丸い円球の結界を張った。
たまにだが、おどけてエドは自分に触れようとする度に小球体の結界を張るのだ。
「おおっ!今日は淡い黄色だ。大きなレモン飴みたい!」
エドは子供のように喜んで、ダイアナが張った結界を指でツンツンした。
「はあ……とてもうまそうな色の結界だなあ」
──ほ〜ら、こういう所が子供っぽいんだよなぁ
とダイアナはエドの喜ぶ顔をみて微笑んだ。




