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12. 七色の魔石とエドの子供っぽさ

◇ ◇ ◇ ◇




 ダイアナはエドには内緒で、刺客に邪魔されて入れなかった洞窟へ再び足を運んだ。


 

 洞窟に行ったのは、ダイアナが子供の時にたまたま見つけた、瞬間移動のできる魔石を宝物として埋めていたからだった。


  

 外は夏だというのに洞窟の中はひんやりしていて、半袖だと寒いくらいだった。


 ダイアナは奥の小さい清水が湧いてる、岩壁の隅の下を鉄のシャベルで掘り続けた。



 ダイアナは白、水、風の魔法は習得したが、土魔法が出来なかった。

 

 なので、もし土魔法が出来たらこんなの簡単に掘り起こせるだろうと、ガツンガツンとシャベルで掘り続けながら考えた。


 聖女教育に土魔法の科目はなかったのだ。



 ガツンガツンとシャベルで固い土を掘る音が、洞窟内に木霊(こだま)する。


 その時カッと何かが当たる音がした。


 土の中から掘り起こした土器の小箱。



──ああ、あった。あった、誰にも見つかってなかった。


 ダイアナは安堵した。


 小箱から布でくるんだ魔石を、その布で拭いてから掌に乗せた。


 手で触るとほんの少しだけ原石の独特のゴツゴツした感じがした。


 エリザベスは魔石を掌に乗せて、じっくりと観察した。




──良かった。どこも欠けてない。


 

 それにしても十年以上経ってから、こうして改めてこの魔石を見ると、神殿の翡翠の女神の石碑と、碧い面の光沢色がよく似ているわ。


 

 やはりこの魔石は翡翠の仲間なのかしら?



 翡翠の宝石は七色カラーがあると言われている。


 この魔石はカット面が赤、黄、橙、緑、蒼、紫そして黒と分かれている、とても珍しい魔石だった。

 

 

 見た目もカラフルな石だが、何故ダイアナが魔石だと分かったかというと、子供の時、このカラフルな石を見つけて大喜びした。

 

 石の多面体の色が陽光を当てると、さらに他の色に変化するのがわかってペタペタと触っていた。


だが、夕暮れになってダイアナはお腹が減った。



『あ、そろそろ孤児院に戻らなくちゃ!』


と、呟いた瞬間、突然、孤児院の食堂にダイアナは瞬間移動していたのだ!


 

 その時は訳がわからず驚いたが、良く見ると碧い面に古代メッセージが彫ってあった。


 不思議な事に、ダイアナの翠色(みどり)の瞳にはそのメッセージが解読できたのだ。


 メッセージにはこう記されてあった。



『汝の望む先へと三度だけ、我は自由に飛んで見せよう!』



と書いてあった。


──何だかへんてこなメッセージだな


 子供の時、ダイアナは思った。


 

 既にダイアナは、何処へ飛んだか忘れたが、二回目を遊びで瞬間移動して使用した記憶があった。

 



『あと一回は折角だから大人になった時、楽しみにとっておこう』と子供のダイアナは決めて、洞窟の土の中に土器の小箱に入れて埋めて置いたのだ。

 

 

 だがダイアナはその後、孤児院から巫女として大神殿へ旅立った為、すっかりと魔石の事など忘れていた。




──だから、あと一回だけは飛べる!



 この七色の魔石が見つかって本当に良かったわ!


 ここから大神殿に私が瞬間移動すれば、結界を張ることは可能だ。



 ダイアナは魔石を小箱に戻して、そのまま孤児院の自分の部屋に持ち帰った。

 


◇ ◇


 

 実はダイアナがこの魔石を思い出したきっかけは、あの日、神殿で翡翠の女神の啓示を受けた直後だった。それまではずっと今まで忘れていたのだ。



 きっと翡翠の女神はこの魔石を、私に思い出させてくれたんだわ。

 

 

 必ずこの魔石装置を使って神殿に戻れるに違いないとダイアナは確信していた。


    

◇ ◇


 

 本当ならダイアナは、今すぐにでも神殿へ行き、結界期限が終わる前日までに、新たな結界を張っておきたかった。

 

 だが、新しい結界の切替は前日、それも一時間前からしかできないという神殿の決まりがあった。

 

 

 

 王宮を追放となったダイアナが、前もって神殿に戻り、密かに隠れていたとしても、もしも見つかれば罪人として牢屋に入れられてしまう。


 

 自分だけならいいが、弟子の聖女や巫女のマリーにも被害が及ぶだろう。

 

 何より自分が罪人となればこの孤児院に、万一弊害が及んだら一大事だ。


 


 ダイアナは色々と思案した結果、春の神殿結界の消える前日迄じっと待つことに決めた。


 そう、果報は寝て待てだわ?



 

──ああ、それにしても弟子のマリーたちがどうしてるか気が気でないわ。


伝書バトで連絡を取り合ってるから、神殿内の出来事は逐一わかるけれども……。


 

 ダイアナは、孤児院の居間で子供たちの服を(つくろ)っている今も、頭の中は神殿の仲間たちを常に案じていた。



◇ ◇


「ねえ大聖女さま……さっきから怖い顔しちゃって……俺の話を聞いてる?」


「え、何?」


 ふと、食卓の真向いの席で南瓜(かぼちゃ)クッキーを食べてるエドがダイアナに話しかけた。


 


 この一カ月間、エドとダイアナは姉弟のような間柄となり、至近距離で話す事が多くなった。

 

 

 まだ幸いにも接触はしていないが、時にエドの顔とダイアナの顔が間一髪でくっ付く距離で、危険地帯発生になる時があった。

 

 

──とにかくエドは私に馴れ馴れしい!




「さっきから凄い怖い顔だけど眉間(みけん)に皺が寄った大聖女様なんて、美貌が台無しだよって!──俺、何度となく言ってんだけど、あんたはうわの空だ!」


 茶目っ気たっぷりのエドが、子供っぽい笑顔でいった。



「え、私そんな怖い顔してる?」


「うん、してる。俺的にはもっと聖女様らしく、いつも微笑みを絶やさないでいて欲しいんだよな〜」



「エドったら茶化さないで、私だって人間なのよ。あなたみたいな子供と違って、色々と考えないとならない事が沢山あるのだから」



「え、子ども?失敬だな~俺は大聖女様より年上だよ。俺の事、何歳だと思ってんの?」


 とエドがよく拗ねるとダイアナに見せるふくれっ面顔になる。



「…………⋯⋯」


 ダイアナから見るとエドは孤児院で、既にニヶ月近く一緒に暮らしてわかったが、やる事なす事幼稚だった。


 孤児院の子供の方がしっかりしてると思ったくらいだ。


 

「そうね~エドの年? う~ん、十七か十八くらい?」


「はぁぁああああああ? 止めてくれよ、俺もうすぐ二十二歳よ!」



「えええぇぇ、そうなの?」



「そうだよ。だっから、いつも弟扱いしてたんだな!」


「あ──それは悪かったわ。あは……申し訳ありませんでした、エドお兄様!」


「ふん、今夜の夕ご飯は、俺の好物のビーフシチューにしてくれたら許してやるよ」


「はは、やっぱりシチュー好きは子供よね」



「いったな!」

と、エドは均整の取れた逞しい手を伸ばして、ダイアナの体に触れようとした。



「ダメよ!『汝、男子は寄るな!』て何度も言ったでしょう、ヒール!」


 

 ダイアナは、わざと自分の周りに小さな丸い円球の結界を張った。



「あ!今日は淡い黄色なんだね。大きなレモン飴みたい!とても美味そうな結界だな……」


 エドは子供のようにダイアナが張った結界を指でツンツンした。



──ほ〜ら、こういう所が子供っぽいんだよなぁ


とダイアナは思った。






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