表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/22

11. 孤児院での二人の生活  

※ 2025/6/3 加筆修正済み

◇ ◇ ◇ ◇


 

 

 森はとっぷりと暮れてダイアナは、エドの黒馬に騎乗させてもらった。

 

 もちろんエドと相乗りはできないので、エドは徒歩で馬を引く役目をしてくれた。


 

 孤児院に着いた時は既に夜となっていた。

 

 十年ぶりに逢ったシスターアンナは、少し老けてはいたが優しい笑顔は健在だった。

 

 アンナは突然のダイアナの訪問に、とても驚いていた。

 

 とりあえずダイアナはお腹がぺこぺこだといって、残りご飯のジャガイモの煮物とライ麦パンとコーンシチューを美味しく平らげた。


 もちろんエドもぺろりと平らげた。

 

 孤児院の子供たちは既に眠っていた。


 コゼット村は王都と違って、外はガス燈などはなく夜は真っ暗な闇の世界となる。

 

 せいぜい家の灯りくらいしか光は見えないので、夜に出歩く村人は殆どいなかった。


 

 食事の後、ダイアナはお茶を飲みながら、これまでの経緯を簡単にシスターアンナに説明した。


 シスターアンナは大聖女剥奪に、涙を流してダイアナに同情したが、カミラとダイアナと王太子との三角関係?を聞いて複雑な心境だった。

 

 

 彼女にしてみれば、ダイアナもカミラも大切な可愛い娘だからだ。


 シスターアンナは、ダイアナとカミラが巫女に選ばれた時、身元引き受け人が必要で、二人は書類上はアンナの養女となっていたのだ。


 

 ダイアナにとって幼女の頃から孤児院にいたので、実の母親の記憶も乏しく、シスターアンナこそ実の母親のような存在だ。


 ただ孤児院は大勢子供がいたので、時にダイアナもアンナに甘えはしたが、独り占めなど以ての外だった。

 

 

 なのでダイアナも、シスターアンナに無用な心配はかけさせまいと、多くは語らなかった。

 

 「アレックスとの婚約が解消となったのは、彼の気持ちがカミラに傾いたからだ」


ダイアナはあっさりと事務的に伝えただけだった。


 

 またダイアナはシスターアンナに、連れのエドを紹介して、彼と出逢った経緯も話した。


 

 シスターアンナはエドに、ダイアナを助けてくれたお礼をいって、もちろんその夜、エドが泊るのも快く許した。

 

 

 孤児院は古くてボロボロだったが、部屋数だけは沢山あるので、ダイアナはエドを泊めてもなんの心配もしなかった。

 

 既に夜も更けてきたので、話はまた後日となり、ダイアナたちはすぐに床についた。



◇ ◇



 翌日以降、ダイアナはエドに

「自分の事は心配しなくてもいいから、王宮に戻りなさい」

と再三(うなが)しても、エドはどこ吹く風で、飄々(ひょうひょう)した態度で孤児院に居続けた。


 

 最初の一週間は、ダイアナも口を酸っぱくして、エドに「王宮へ帰れ!」と繰り返したが、エドは全く意に介さないので、阿呆らしくなって言うのをやめた。



 それでもエドは森でキジバトや兎など捕まえたり、田畑の夏の収穫を手伝ったり、孤児院の食糧の補充に大いに役立ってくれた。


 また壊れた館の修理をしたり、風呂を焚く薪を割ったりなど力仕事もお手のもので、孤児院の人々にとっては重宝される存在になった。


 

 

 何よりエドは孤児院の子供たちにとても好かれた。



「お兄ちゃん、僕と遊んで!」

「あたしも!」

「いいぞ、みんなでかくれんぼしようか!お兄ちゃんが鬼になるぞ!」

「わあい!」


 子供とわいわい過ごしてるエドは、ダイアナを襲った刺客を瞬殺で殺したあの剣士と、同一人物とはとても思えなかった。


 

 子供たちに見せるエドの屈託のない明るさは、まるで野を駆ける少年のようだった。




──エドってどちらが本当の姿なんだろう?


 ダイアナは、洗濯や掃除をしながらも、子供達と庭で遊ぶエドを眺めていた。



 ある時、エドは言った──。



「俺はシーラン伯爵家の養子で、今は一応子爵だけど、子どもの頃はここより、もっと北の山ん中で暮らしてた。平民の子供たちと一緒にな。一応、出自は元貴族の家系らしいけど、生家は凄く貧乏だった──数年前に母親が死んじまった後、俺は生きていくのも嫌になったくらい泣いてばかりいたよ」



「まあ、そうだったの。エドはお母様が大好きだったのね」



「ああ、俺の母さんは村でも一番の美人だったんだぜ、俺と同じすみれ色の瞳でな、あんたを王宮で視るまではこの世で母さんが一番綺麗だって思ってたんだ、今はあんたの方がもっと綺麗に見えるけど⋯⋯」


エドはウットリとした目つきで、悩ましげにダイアナを見つめた。



「う⋯⋯まあ、それはどうも有難う」




──エドって何だか調子狂うわ。



 初めて森で逢った時は、情緒不安定、挙動不審で恥ずかしがり屋の人だと思ってたけど全く違ったわ。


 内弁慶なのか、まあよく私にはペラペラしゃべる子だわ。


 口は悪いわね。なまじ顔が良いから、お近づきになりたいご令嬢もいそうだけど、この悪い話し方ではちょっとがっかりだわ。


 余りにもギャップがあり過ぎる。

 

 もし貴族令嬢たちがエドと話したら卒倒もんだわよ。


 

 最初は私が聖女だからかエドも、どもりながら気を使って“貴方”っていってくれたのに。


 今では“あんた”ですもんね! あんたって何?


 

 ふふ、でもこれが彼の地なんでしょう。




 ダイアナはエドと接して見て、ふと弟がいたらこんな感じなのかなって思った。



──ただ、エドには秘密がありそうだ


 ダイアナは思った。



 銀髪サラサラ髪で、すみれ色の瞳。

 明らかに高位貴族出身の顔立ちだとわかる。



──少なくとも銀髪や金髪は王族出身の系統だわ。


 

 それに彼の纏っている魔力が、平民とは思えない高貴な銀色の光を放っている。


 ダイアナの魔力はカミラよりは少なかったが、普通の聖女の数倍は強い。


 普通の人間には視えない人の魔力値を、魔力のある人間が纏う色や濃さでダイアナは、その人が魔力持ちかどうかも分かるし、魔力の強さもある程度判断できるのだ。




──エドはそうとう魔力が強いわ。


 多分、私以上だわ。


 彼の纏う銀色の光り方が尋常でないほど輝いて視える時がある。


 

 まあ、中には私みたいに平民の親から、突然変異で金髪&翠色(みどりいろ)の眼って場合もあるからね。エドだって一概にはいえないけど……。



 ダイアナの両親は王都の平民だった。二人共茶色い髪と茶色の瞳と平凡だった。


 父は小学校の先生、母は聖女だったが二人共、ダイアナが五歳の時、王都の流行病で亡くなってしまった。


 ダイアナは母方祖母の隔世遺伝らしい。


 母方は代々魔力が強く先祖も聖女になった者が多数いたと聞く。


 

 魔力が強いというのは、一概に幸せとは限らない。


 

 ダイアナの祖母は魔力を、過信して悲惨な人生を送ったらしい。らしいというのは、ダイアナの叔母さんから聞いたからなのだが。 


 その叔母さんも亡くなってダイアナは天涯孤独になって孤児院に入ったのだ。

 


 ダイアナはふと、孤児院の子供達を眺めながら、幼い頃よくカミラと遊んだ記憶を思い出した。




──もし、私たち魔力がなかったら、もっと違った関係になっていたのかな……


 

 ちょっぴりダイアナはしんみりとしてしまった。


 


◇ ◇





 月日は初夏から真夏になりつつあった。

 二人が孤児院に来てから既に一カ月半が経過した。


 その間、ダイアナは御者のロイドに頼んだ巫女のマリーに渡した手紙の返事がきた。


 それはお互いの魔力で、伝書バトを飛ばして手紙を届ける方法だった。


 

 マリーの手紙では、先日カミラが王太子妃なった事、大聖女も兼任していて、相変わらず殆ど祈祷以外神殿には顔を出さず、アレックス王太子の治癒に専念するといって、アレックスの寝所に籠っているとの事だった。


 

 カミラに対しては多くの聖女や巫女たちは、内心不満があっても、国王代理のアレックスと神官長がカミラを容認していて、どうする事もできず悔しく思うとあった。




──このままでは無理ね。


  ダイアナはマリーの手紙を読んで、(きた)るべき、夏の神殿結界の日にはカミラでは不可能だろうと確信していた。


 

 その際、マリー率いる巫女たちの魔力で、翡翠の女神の石碑像だけは死守して欲しいとマリーに伝えた。


 

 マリーは、他の聖女たちより魔力が高いので、翡翠の女神像だけは守ってくれるはずと、ダイアナは信頼していたのだ。



 夏の神殿結界の儀式は目前に迫っていた。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
〉ダイアナは母方祖母の『覚醒遺伝』らしい。 ⇒『隔世遺伝』 です。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ