74話 最期
それは魔法とも違う技だった。
と言うか、魔法を使っているわけではなかった。
形を無いものを切る、という剣の特性だったのか、それともそれ以外の要因があったのか。
今は、それを考える余裕は無くなっていた。
目を開いてこちらを見る。
黄金の瞳が怪しく輝き、品定めをするように一瞥すると。
「ヴォォォ……」
軽くそう唸った。
その目には、何も浮かんでいない。
悪意、敵意、殺意……何も無い空っぽだった。
意思があるのか無いのか、それすらもわからない虚空の目だった。
ただ、どうやらこちらを排除するつもりはあるらしく、唸った後に上空に魔法陣が出来る。
黄色く輝く魔法陣からは豪雷が飛んでくるのは想像に易かった。
切れるかどうか、そう思ったがすぐ思い直した。
「魔王剣・空亡」
黒い刃が魔法陣ごと叩き壊す。
わざわざ撃たれるのを待つ必要はない。
「【天声落落】!!」
ほぼ同時にヴァンダルヴァが動いた。
龍、アルファがわずかに身動ぎする。
だが、それだけで何も起きていない。
「重圧も効いていなさそうだな」
「お前、雷が来たらどうするつもりだったんだよ」
「主がなんとかすると思っていた」
あっさりとそういう。
「……ワレらも時間がない。ここは短期決戦、最強の魔法を叩き込むというのはどうだ?」
「効かなかったり耐えられたら?」
そう答える俺に対してヴァンダルヴァは何事もなく言った。
「答えが必要か?」
「……いや」
愚問だったな。
「離れるぞ」
「ああ」
翼を動かし後ろへとぐんっと下がる。
アルファは未だ、動きが鈍い。
行動もワンテンポしかないし、何かを積極性に欠ける感じだ。
だからこそ、今、この時に最大の一撃を叩き込む。
実力で劣る俺達に出来るのはそれだけだ。
「覚悟は出来たか?」
「いや」
「準備は?」
「いいぞ」
ただそれだけの会話を交わして
「───<総てを塵に>!!!」
「───【竜王の吐炎】!!!」
白き極光が空中を焦がし走る。
赤き獄炎が空中を焦がし走る。
お互いに撃てる最大の魔法。
これで勝負が決まる。
早い決着は望む所だった。
そして、アルファはその二つを眺めて
「ヴォ」
一言つぶやいて。
世界が赤と白に一瞬染まった。
直撃を受けたアルファは白い光に飲み込まれ、赤い炎に食らい付くされた。
バチバチと音がしているのは雷の音ではなく、二つの魔法が互いに干渉しあっているのだろう。
お互いコンビネーションを考えて撃った魔法じゃないからだ。
それぞれの魔法がぶつかりあいつつも、それでも極大と言えるほどの威力であるのは間違いはなかった。
魔王剣と悩んだ。単純に考えて最大の火力で言えば、カルネージとオールベットだろう。
だが、もう残り時間が少ない中でカルネージに慣れるかは不安だったし、オールベットが撃てるかも怪しかった。
だからこそ、今出来る最大の火力を叩き込んだ。
……正直これだけで倒せる、かどうかは怪しい。
それでも多少なりとも傷は付くはずだ。
光が収まり始め、炎も鎮火していく。
風が煙が晴らす時に、俺は見た。
胸に僅かな傷が付いている事を。
「ふぅ……」
その息はどちらのものだったのか。
俺か、ヴァンダルヴァか。
そして、その息はなんだったのか。
俺にもわからない。
落胆なのだろうか。
絶望なのだろうか。
最強と思っていた魔法がたかがかすり傷のようなぐらいで収まったことが、ショックなのだろうか。
その時、アルファが初めて動いた。
鉤爪のような四爪の手、を胸に持っていき、傷を触る。
そうして暫くしてからこちらをみて。
「傷を、雷を、誉れと思え」
ただ初めて、そういった。
「<未だ至らぬきん>」
空に巨大な魔法陣が出来る。
酷く大きい、数百メートルはある魔法陣だ。
そう目で見えた瞬間。
天の怒りを表すような、世界を染め上げる巨大な雷が俺とヴァンダルヴァを包み込んだ。




