73話 置いてかないで
「挑もう」
そう俺は言った。
「……本気なのだな?」
「ああ、このまま救助してても、またあいつが暴れだしたらそれこそ最悪だ。倒せる、とまでは言えないが、気を引くぐらいは出来るはずだ。何より……挑むなら今しかない」
俺もヴァンダルヴァも、今の状態は時間制限付きだ。
明確に何分とあるわけではないが、挑むタイミングとしては今しかないのも事実だった。
「……そうか、ならばゆこう」
ただそれだけ言って背を向ける。
と、首だけをこちらに向けて言った。
「何をしている。流石に空中ともなればワレの背に乗るしか無いだろう。仁龍一体となって、挑まねばなるまい」
そう言われて苦笑する。
確かに、俺の空中を跳ぶ方法はないな。
強いて言えばホワイタルエレベーターぐらいだが、まああれで戦うのは流石に無茶がすぎるだろう。
そうして、俺は足を踏み出す。
いや、踏み出そうとして、その一歩が踏み出せなかった。
それは、精神的なものではなく。
「嫌、です」
物理的に袖を引く、ティリアスが居たからだ。
「ティリアス……」
「駄目です、あの、とんでもない龍に挑むんですよね? 無理ですよ!」
「おいおい、話し合っている時間はないんだ。それに無理かどうかはやってみなきゃ」
「わかりますよ!!!」
大声で、そう叫んだ。
とてもとても、大きな声だった。
「わかりますよ、見て下さい、この街を。もう、ボロボロなんですよ。これほどの惨状なんです、それを簡単に引き起こせるのが、龍なんです」
声を震わせながら、言葉を続けるティリアス。
音も聞こえそうなほどに強く拳を握りしめて。
「勝てっこないじゃないですか……ユウが強いのは知ってますよ。でも今までとは全然違うんです。本当に、全然力が、違うんですよ!! 知ってれば挑むなんて事は思い浮かばないはずです! 見て下さい! 他に挑むべき人が居るのに、誰も戦ってないのがその証拠ですよ!」
悲痛な、もはや叫びとも言えるぐらいに頭を振り乱しながらそう訴えかける。
隠していた片角と共に髪が揺れながら、俺の目を見ていった。
「勝てるとか勝てないとか、そういうんじゃないんです! 行けば死んじゃうんです、死んでほしくないんですよ! ただそれだけなんですよ、なんでわかってくれないんですか! ユウが行く必要もないじゃないですか!!」
「……かもしれない。俺でなくてもいい、そう思ったのは確かだ」
「だったらっ!」
「でもさ、思うんだよ。そう誰もが思ってる。だから、誰も挑まないんじゃないかって」
「それ、は、でも……」
「……面白い話をしてやろうか。俺の両親と妹はな、家が焼けて、その中で死んでしまったんだ」
その言葉に、驚きながらも黙って効くティリアス。
「でもさ、火ってそんな一気に回るわけじゃないんだ。まだ火がおとなしい時期、最初期ってやつさ、その時は周りの人は何してたと思う?」
「え……警察に通報とか、ですか」
「いや、写真を撮ってたんだ。それをネットに上げてる。実際、動画も見た」
「っ!」
「どっかで見たような画像の光景そのままさ、誰かが何かするだろう、しているだろうの極みさ。結局、その後そいつ等は家の周りで携帯掲げているだけで、助ける事も考えやしなかった。でも同じさ、通報まではまだしも、他人のために火の中には行く様な人間は居ない」
それは事実だ。
見知らぬだれかの為に命は賭けれない。
なにせ、理由があるからだ。
二次災害の危険性とか、プロに任せろとか、知り合いなら助けるとか、そういった理由があるからだ。
「言ってる俺もそうさ、実際の当事者じゃなければそう言っているし、正しいとおもう」
だけど
けれど
「俺は当事者だった。だから」
なんて、言えばいいのだろうか。
この感情をうまく言葉にできない。
だけど、何がしたいのか。
そう考えた時、俺の口からするりと言葉が出た。
「その時の俺を助ける俺になりたい。ただそれだけだ」
そう、結局は自己満足だ。
でも、それに全てを賭けるなら、文句はないだろう。
「だから俺は行く。悪いな、ティリアス」
「……わかりました。だったらわたっっ! …………」
倒れ込むティリアスを受け止め、地面に寝かせる。
「漫画やアニメだけかと思ったが、意外と効くんだな、首トン。だから言ったろ、悪いなって」
寝かせてヴァンダルヴァの方をむくと少しばかり呆れたような顔をしている。
何だよと、言わんばかりににらみつけるとため息を吐いて言った。
「もう少し女性の扱いを学んだほうが良いな」
「大きなお世話だっと」
飛び上がり、背中に乗る。
「手綱とか鞍は無いのか」
「贅沢ものめ」
ばさりと大きく翼を広げる。
揺れる足を抑えるために、ちょうど肩と首の間位を掴む。
みるみる地上が遠ざかっていく。
「高いな」
「言っておくが竜の背中に乗る等一生に一度あるかないかと心得よ」
「俺、二回目」
「何っ!?」
そんな会話をしながらも、空中を飛び雷霆龍の元へ向かっている。
そして、数十秒も無いくらいだろうか。
俺達は、雷霆龍アルファと空中で相対していた。
目を瞑っていたアルファは、俺達が丁度目の前に来ると目を開く。
「…………」
「話し合い、でなんとか……って雰囲気じゃないよな、アルファとやら」
そう声を掛けるが無反応だった。
そうして、一瞬また目を閉じる。
「ヴォル」
鳴き声か、話し声かわからないその声が響くと同時に
天から雷鎚が振ってきた。
魔法か、自然現象かわからない。
ただ空が光り、雷が来るという確信じみた直感があった。
魔法陣はない。
ひょっとすると雷雲に隠れているのかもしれないが、この刹那の瞬間にはみえなかった。
空から、黄色い雷が一筋伸びる。
それは間違いなく俺達へと直撃するコースで。
まだ、戦闘態勢にはいっていなかった俺だった。
振ってきた雷は、俺が無意識に奮った剣閃で左右に裂けた。
それはヴァンダルヴァの横をすり抜け、地面へと直撃し轟音を立てた。
それは、当然互いに狙ったことじゃなかっただろう。
俺も、この龍も。
だがそう、それは。
「曰く……ある刀はその逸話から、こう言われたらしいな。だから、こう付けよう」
恐らく、俺が初めて行った技、だったとおもう。
「───雷切」




