72話 選択の時
荒野とも言えるような荒れ地とかした街を走る中で俺はある事実に気づいた。
予想以上に、人が少ないのだ。
多少の怪我人は居るが、それでももっと大勢居てもいいはずだと思うんだが。
とは言え、少数とは言え現状俺にその怪我人をなんとか出来る魔法は無い。
だからそういった人達は申し訳ないが通過させてもらうことにする。
「もっと怪我人が多いかと思っていたんだがな」
「……あまり言いたくはないがな」
と、前置きをしながら前を向きながらヴァンダルヴァは言いにくそうに言った。
「あの雷だ、直撃は勿論、近距離に居るだけでも焼かれるだろう。つまり、死ぬか生きるかの二択だったというわけだ。そして、人が少ないという事は」
そう言われ、はっと周りを見渡す。
……直撃を受けただろう近くには、黒い物体が確かにあった。
それが何かは、察したくはない。
「酷いな……」
「ふむ、予想以上に落ち着いているな、もっと取り乱す物かと心配したが」
言われてみれば、かなりショックな光景だ。
しかし、俺はなんというか、可哀想だとか怒りのような物はあるが、そこまで身を焦がすような感情を抱いていないし、死を見てそれについて深く考えたり後悔してもいない。
「その魔法のせいか、それとも生来の物か……いや、今はむしろ強靭な心を持つ所だ」
ヴァンダルヴァなりの慰めなのか、そんなフォローを入れてくる。
……本当に魔法のせいなのか。それとも、慣れてしまったのか。
生来から、というのは、少し冷たい気もするが。
「しかし、動かんな」
「? 何の話だ」
くいっと顎を動かす先は空中に鎮座する龍。
アルファと呼ばれたこの災厄の主。
確かに、一度あの雷を撃った後はただ空中で見ているだけだ。
他に動いている人間も、きっといるはずだと思うが。
しかし、ただただ動かないその事は本来悪くない事態のはずだが、何やら不安も感じられる。
「……寝てるか、死んでるかならどっちがいい?」
「ふ、どちらも同じ事よ。死者は眠りに戻るものだろう?」
「違いないな……まあ、俺としてもあの雷を乱発させなくて良かったとは思うが」
力を消費しないに越したことはないし、撃たれて誰かが死ぬことも当然嫌だ。
だからこそ、今のままであってほしい。
ずっとは無理でも、せめて仲間の無事を見て、集まるまでぐらいはおとなしくしててくれよ!
「む、奥に人影だ。だが鬼ではなさそうではあるが」
「人違いか、結構な速度で走っているがそんな奥にいるのか?」
「うむ、ローブをかぶっているが故によくわからんが」
「それだよ!!!」
思わず転けそうになるが、まあ知らないヴァンダルヴァであれば仕方ないか。
ティリアスは人が居る所ではローブをかぶるって事を知らないからな。
「ティリアス!! 居るか!?」
声を上げてその場所まで近づくと、確かにローブを着た人物がそこにはいた。
その人物はこちらを見ると驚いたように。
「その声、ユウですか?」
ぱさりとローブのフードを取るとそこには見慣れた顔があった。
「人違いじゃなかったか、ティリアス、良かった」
「ええと、わざわざ探してくれたんですか?」
「そりゃそうだろ……なんだ、こんな状況で見捨てる冷たい人物に見えたか?」
「い、いえ! こんな状況ですから、むしろ龍に向かっていってるのかと」
「お前の中の俺はバトルジャンキーか戦狂いなのか……? 流石にそんな事は」
……しないとは言い切れんな。
どうしても手段がなさそうであれば挑むしか無いのだから。
「ほら」
ドヤ顔を晒すティリアスに対して少しむかっと来たのでデコピンを放ってやる。
「おうぐぅ!! 痛ったああ……なにするんですかぁ」
「わ、悪かったよ。そんなに強くした覚えはないんだが」
予想以上の涙目となって俺に訴えかけるティリアスに対して流石に悪い気分になった俺は素直に謝ることにする。
……おかしいな、軽くやったつもりなんだが。
「再会に水を差すのも悪いが、時間は大丈夫か?」
「時間ですか? 何かお急ぎでしょうか」
そう言われてなんとなくだが自分の身体に集中してみる。
……うーむ、正直わからんが。
「大体……5分くらいか?」
「そうか、ワレも似たようなものだ。ではどうする?」
ヴァンダルヴァがこちらを見る。
5分。
つまりその時間をどう使うか、と言うことだ。
救出や脱出に使うか。
それとも
俺は上空の龍をにらみつける。
あの高みの見物を決め込んでいるアルファとやらをぶっ飛ばすのに使うか。
「言っておくが、アルファに挑んだ際は、現状で勝ち目を言うと良くて五分だな」
「充分だろ」
「5%ということだぞ」
ああ、10割10分10厘の方の5分ね。
「充分だろ」
「言うではないか」
「え? まさか本当に挑むんですか?」
「正直迷っているが……」
迷う時間も惜しいぐらいだが、一押しが足りない。
なにせ今は戦う理由がない。
勿論、行ったことは許せないし、怒りも覚えている。
だが、そのために命すらも賭けて戦えるかと言われれば、それは即答できない。
むしろ、無関係の人間だし、わざわざ俺は挑む必要もない。
これほどの事態だ、俺よりも強い誰か。
そう、ハイテルテルネスやアーネストが動いている可能性も充分にあるからだ。
言い訳や理由をあげればいくらでも出てくる。
別に戦いたいわけではない。
ヴァンダルヴァも救出や脱出すると言えば着いてきてくれるだろうし、反対はしない。
「ヴァンダルヴァ、お前は」
「ユウ」
初めて、ヴァンダルヴァが俺のことを名前で呼ぶ。
そして、ふっと笑いながらも厳しい目をして言った。
「お主が、お主の道を決めるんだ」
「俺、が」
「そうだ、ワレがどうのではない。お主が、お主自身が答えを出すんだ。今、この時に」
時間は無い。
悩む時間も惜しい。
だから今、ここで決断をしなければならない。
雷霆龍アルファに挑むか
仲間を探し助けるか
───今、選択の時だ
【TIPS】
運 の
命 路
岐




