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最終話 Dエンド

 目を覚ました時、最初に見えたのは青空だった。

 雲ひとつ無い晴天を見て、俺は一瞬安らいだような気持ちを感じた後

 

「……っ! 晴れてる!?」

 

 飛び上がるように起き上がった。

 あの暗い空、雷雲に満ちた空は消え失せていたからだ。

 いや、何よりも。

 

「生きて、いるよな?」

 

 身体を触るが、特に異常はなかった。

 時間切れなのか、意識を失ったからなのか、ティルトニクスである鎧姿ではなく、元の姿に戻っている。

 一応、あちこち触ってみるが火傷だったりもしていない。

 

「あの、巨大な雷に撃たれたはずだ。だけど身体には何の傷もないし……何より」

 

 そう言いながら周りを見渡す。

 

「ここは、どこだ?」

 

 雷に焼かれ、荒野の如く荒れ果てた街はそこにはなかった。

 晴天の空の下にあったのは、緑生い茂る森のような場所だった。

 地面も土になっていて、全く違う場所だ。

 

「俺は転移したのか?」

 

 考えられるのはそれしかなかった。

 何かしら、あの瞬間に瞬間移動か何かで俺は移動した、と。

 

「……わからないが、今はとりあえず街に戻らないと」

 

 あの後どうなったかは知らない。

 けれどあの龍がまだ街を襲っている事は恐らく間違いないだろう。

 

「オオオオオオォォォォォオオオオオオオオオオン……」

 

 その声が突然聞こえ、俺は思わず身体を固くしながら警戒をする。

 

「今のは、狼か? 森なら、おかしい話じゃないが、アイアンウルフとかならいいんだが」

 

 距離は遠そうだ。

 それなりに離れた場所に居るらしいが、まあわざわざ向かう必要はないだろう。

 

「オオオオオオォォォォォオオオオオオオオオオンンンン……」

 

 再びの咆哮。何かと争っているのだろうか。

 

「……警戒だけはしておくか」

 

 そう言って足を進めながら、剣を取り出す。

 ……はずだった俺の手を見つめる。

 そこには、なにもない。

 

「え……闇は嘘に堕落し、光は真を語る。汝、真実を証明せよ。……来い『真と偽の境界剣ライズアンドトゥルース武想顕現(リアライズ)!」

 

 普段は何も言わずに出せるようになっていた剣が出ないという事態に焦る。

 俺は普段は使わない詠唱を使い、もう一度剣を出すようにした。

 

「……嘘だろ、何で出ないんだ?」

 

 だが、剣は出なかった。

 

「参ったな……」

 

 理由はわからない。

 だが、無くなって初めて気づいた。

 

「なんだかんだ、頼りっぱなしだったんだな」

 

 剣が出ないだけで俺は何も使えない。

 どれほど頼っていたかを知る。

 

「……仕方ない、とりあえず見つからないように移動しよう」

 

 ここに居ても仕方がない。

 だが、剣を使えなくなった俺にどれだけ意味があるのだろうか。

 戻っても何も出来ない、そんな不安ものしかかってくる。

 

 だが、足は進めないとどうしようもない。

 今まで以上に重い足取りで俺はあるき始めた。

 

 

 その時、奥から僅かな声が聞こえる。

 

「なんだ、獣の声、か?」

 

 唸り声に似たそんな声だ。

 同時に、聞き覚えのある声もしたような……。

 

「……こんな森に仲間がいるとは思えないが、ほうっておくわけにも行かないか」

 

 力がない俺が向かうのにためらいはあった。

 だが、聞き覚えのある声も気になった。

 

 足取りを早く、走って俺は声の場所に向かう。


 どこか見覚えのある場所を通過して、それについて考える前にその光景が眼の前に広がった。

 

 そこにいたのは、蜘蛛と龍だった。

 

「ジジジ……」

 

 口から声とも言えない音を出す、奇怪な蜘蛛。

 赤緑に覆われた鱗で、棘があちこちから生えている。

 ぽたぽたと垂れる紫色の体液を零すたびに白い煙が地面から上がっていた。

 客観的に見てまさしく毒蜘蛛のような姿をしている。

 

 そして、それと相対しているのは

 

「弱っているとは言え、毒蜘蛛『ヴァルヴァドズ』程度に、我輩がこうまで追い詰められるとは……歳を感じるのぉ」

 

 青い鱗をきらめかせる龍。

 そうそれは

 

「……アジメスタ!?」

 

 その声に反応したのは両方だった。

 

「ジジ」

 

 俺の方を見る蜘蛛を察知し、

 

「っそこじゃ!」

 

 口から青い光を放つアメジスタ。

 悲鳴をあげる蜘蛛は、俺とアジメスタを両方ちらりと見た後、森の奥へ消えていった。

 

「今のは一体……いや、それよりもなんでここにいるんだ、アメジスタ」

 

 見れば傷は無いようだ。

 その事に少し一安心する。

 

 だが、アメジスタはこちらとじろじろと見る。

 

「ん、どうした?」

 

「いや、敵意は感じぬが……なあお主」

 

 首をかしげながら、言った。

 

 

 

「覚えがないんじゃが、我輩と会った事(・・・・・・・)があるのかの?」

 

「おいおい……久しぶりにあったとはいえ、忘れるかよ」

 

「うーむ……いやあお主のような者を見れば忘れるはずがないんじゃが」

 

「全く、そう言えば前あったときもこんな森だったな。覚えてないか? お前が傷ついてて、色々教えてもらって鱗を貰ったんだ。っとそういえば……」

 

 そう言ってポケットを漁る。

 鱗を出そうと思ったからだ。

 

「あれ……ない!?」

 

 確かにしまったはずの鱗が無くなっていた。

 

「何か、勘違いしておらんかの? 吾輩はこの森に来るのは数十年振りだし、何より怪我なぞしたことはそれ以上にないぞ。……もっとも、かつて無いほど弱っておってなあ、もしも今あの毒蜘蛛に襲われていたら傷付いてた(・・・・・)とは思うがの」

 

 話が噛み合わない。

 一体、どういうことだ。

 

「しかし、お主は何故こんな所に?」

 

「あ、ああ。新王杯に出ていたんだが、そこでアルファっていう龍が現れて、いつの間にかこの森に移動してたんだ。そしたら聞き覚えのある声がしてな」

 

「うーむ、色々おかしいところがあるが……そもそも確か、新王杯は知っておるが数カ月先(・・・・)の話じゃぞ?」

 

 

 その言葉に、俺は耳を疑った。

 

 そして、思い当たってしまった。

 

 見覚えのある場所。

 俺を知らないアメジスタ。

 消えた鱗。

 出ない剣。

 そして、数ヶ月後の新王杯。

 

 これらが示す符号を。

 

 

「まさか、そんな、まさか……」

 

 思えば、最初の遠吠えに聞き覚えがあった。

 あれは、俺がこの世界に来た時に、最初に出会ったワーウルフの声じゃないか。

 

 つまり、信じがたい事に俺は

 

 

「───過去に、戻ったってことなのか!?」

 

 

 俺がこの世界に来た当日へと。

 時間が戻っていた。

ここまで読んでいただいてありがとうございます。

一部完、と言った形で最終話となります。


そのため、一旦完結とさせていただければと思います。

再開はまたいつかしたいと思っておりますが、ただその前に新作を考えておりますので、出来ればお楽しみいただければと思います。

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