69話 天秤
「主は、強いな」
どかりと座り込んだ男が頬杖を付きながらもそう答える。
嫌味や皮肉と言ったものではなく、素直に思ったことを伝えていると感じられるぐらいにはきっと気のいい男なのだろう。
だが、それ以上にイカツイ顔が裏の意味があるのではないかと思わせるぐらい常人離れした圧倒的威圧感をかもし出していた。
4,50歳はあろうかという壮年の男の顔。
戦場帰りといっても誰一人疑わないだろう筋肉隆々の男。
「そんな男と戦えるのはワレとしても喜ばしい事なのだが、すまんな、時間を取らせる」
そう謝罪を口にする。
「このヴァンダルヴァ、新魔杯でも良かったのだが……いかんせん新王杯の方に参加するよう圧力があったらしくな、ワレが知った時には既に参加済みになっていた。参加する理由は無いが、参加しない理由もなかったのでな」
そう、何を隠そうこの男が俺の対戦相手。
ヴァンダルヴァと名乗る、竜人だ。
ちなみに俺達は今、別室で机を挟んで座っている。
間には紅茶が注がれたカップが置かれているが、お互いに手を付けずに話し合っている。
と言うか、ほぼ一方的に話しかけられている、が正しいのだが。
「だがそれがどうにも気に入らん者もいるようでな」
少し遠い目をするヴァンルヴァ。
なぜ俺達がここで話すことになっているのか。
それはおよそ数分ほど前に遡る
「一旦試合をストップします」
次の試合予定時間が1分を切った所で未定に変更され、頭にハテナを浮かべていた時に唐突に現れたのはアーネストだった。
「いつの間に……というかストップ? 何か合ったのか?」
「単刀直入に一気に言うと貴方の相手はヴァンダルヴァという四龍の子供で竜人と呼ばれる種族ですが新王杯に出るのは間違っていると負けた負け犬達が吠えまくって暴動が起きているのでその対処のため一旦試合を取りやめにしますおわりいいですね?」
「はい」
まくしたてるように質問すらも許さぬ一声に俺はその二文字しか発する事はできなかった。
「では僕はこれで」
バタンと扉を締める。
直前
「はー! くそ!!!!!!」
聞こえてはいけない言葉が聞こえた気がするが、覚えていない方が良いだろう。
と言うか、今の扉はなんだ?
壁に現れて、アーネストが入った瞬間消えたんだが、なんとかドアの親戚だろうか。
……まあ転移がある時点でどこでもなんとかも魔法であってもおかしくないな。
「忘れてました、この先をでて右突き当りの部屋で休んでいて下さい」
「……もういないけど言っておくか。突然扉から顔を出すな、びっくりするだろ」
ため息を付きながらとりあえず言われたとおりにする。
えっと、ここを右に……突き当り、これか。
ガチャリと扉を開ける。
中は少し広めの部屋だ。
客室、というより応接室だろうか。
「む、誰だ?」
と、入ると男に話しかけられる。
奥の椅子に座って腕組みをする益荒男だ。
「あーえっと、アーネスト、さんに言われて来たんですけど」
「ふむ、ということは参加者か。主の名は?」
「水月です。水月 悠」
「おお! 主がワレの対戦相手であったか。まあ座れ」
言われて不思議とおとなしく俺は座った。
勿論洗脳とかそういう意味じゃなく、自然に、という意味だ。
「ワレはヴァンダルヴァ。主の次の相手、ということになる」
……そして話は今に至るわけだ。
「しかし、主はなんとも不思議な男だな」
ふと、そんな事を言われる。
「そう、ですか?」
「ふ、参加者同士だ、敬語など不要。不思議といったのはな、なんとも面白い魔力の流れだと思ってな」
「魔力の、流れ?」
「実際見えているわけでもないが、なんというか雰囲気のようなものだ。例えば火を得意する者なら荒々しく、風を得意とする者は速い、と言った様な物だ」
ふむ、心理テストのようなもんか?
……言っておいてなんだが絶対違う。
「主はな、天秤だ」
「今までの表現と違うんですけど」
荒々しい、速いの表現の後に天秤はおかしいだろ。
こう、ゆっくりとかそういった表現が来るべきだろ。
「どちらにも傾きそうで、傾いていない。なるほど不思議な男よ」
いま一番不思議ちゃんなのはお前だけどな、とは言えない。
流石の俺も言えない。
「……口は不得手でな。母上にもよく言われた。お前は一言足りないにゃ、と」
「すいませんすいませんちょっとまってもらえますか」
イカンだろ。
不意打ち過ぎる。
強面の男が「にゃ」って。
真顔で「にゃ」って。
「それお母さんの口癖かなんかですか?」
「ああ、よくわかったな」
そりゃわかるわ。
安易なキャラ付けしてるんじゃねえぞ。
「足りない、というのはよく母上が口にする言葉でな、よく言われたものだ」
違うそうじゃない。そっちじゃない。
「後は、四龍の息子なんだからもっと強くなれ、と期待と発破をよくかけられているな」
四龍……?
四龍…………なんだっけ。
世界でかなり強いやつじゃなかったっけ。
いや、違うな……もしかして!!
「母親は、アメジスタなのか!?」
アメジスタが確か四龍だったはずだ!
あいつ、こんなでかい子供を……
「違うが。ワレの母親は【刃空龍】ドレッサという」
知らない……でも強そう。
「その息子ってことは、やっぱり強いのか」
「自分の強さを語るにはまだ見聞も経験も足りておらぬのでな、控えさせてもらおう」
既に回答が歴戦の強者のそれなんですけどそれは。
「俺のことを強いって言ってたよな、なら俺より上か下かぐらいはわかるだろ?」
ちょっと姑息な手段を使う。
相手の強さを知りたい、という下心も含まれているのは確かだが。
それをわかっているのか苦笑しながらそうだなと前置きしていった。
「正直、ワレの見込みも合っているかはわからんが……」
そう言いながらも、ギラついたような目をこちらに向ける。
ひと目で戦闘民族だとわかるような赤い目。
大きく息を吸ってから、彼は言った。
「同格。そうワレは見ている」
一切の奢りや見くびり、そして謙遜もなく。
事実のみを伝えたそれは。
未だ理由がわかっていない、俺の【嘘がわかる】力も発揮され
初めて、上でも下でもない。
全くの、同レベルでの戦いになると感じていた。
【TIPS】
種族的に強力な種族である程、子孫は少ないと言われている。
差別的な意味合いではないが、通常の種族、例えば人間などは1年で1人産む事ができる。
しかしドラゴンに至っては数十年単位で1人生まれるかどうかである。
よって、その子供となれば希少価値は高いだろう。
良くも悪くも、ではあるが。




