66話 かんゆー
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控室で俺は手元にある紙を見ていた。
しかしこの紙は至って普通の紙だという事に少し興味を持っていた。
現代社会の紙とほぼ同質の紙だからだ。
紙というのは意外と技術が必要だったはずだ、製紙技術が発展していないとこういった紙は出来ないだろう。
が、この世界に来て未だ機械のようなものを見たことはない。
(え? アタシは?)
突然居ないはずの声が聞こえたような気がしたが、気のせいだ。
と言うかあいつは現代社会社会でも存在しないSFだ。
つまり、技術的にかなりちぐはぐなのだ。
文化レベルが低いと思いきや一部では現代社会を超えている部分もある。
魔法、という存在が関係しているのはわかるが、少し歪すぎる気もする。
っと、それよりも書いてある内容に目を向けようか。
『トーナメントは18チームで行います。基本的なルールは予選と同じになります。しかしトーナメントではリーダーを一名決めていただきます。そのリーダーが脱落した場合、敗北として扱いますので注意願います』
リーダーと言う物がこのトーナメントでは設定されているのだ。
もっとも、俺は一人しか居ないので決めるも何も無いわけだが。
しかし、これは俺にとっては追い風だ。
なにせデメリットはないわけだから、一人だから。
逆に俺は全員倒さないで済む。
まあ、このルールは恐らく盛り上がりを期待しているのだろう。
最後まで逆転のチャンスがある、ジャイアントキリングの可能性を高めて興行させようという魂胆だろう。
しかし俺にとって何より嬉しいのはこの一文だ。
『なお参加者には全員死に至る様なダメージを受けた場合、別で肩代わりするようにしており、転移が間に合わない事はありませんので全力を尽くして下さい』
高威力の魔法が多い俺、特に魔王剣だが気にせず撃つことが出来る。
「こちら係員です。準備が整いました。チーム『かわいそうwwwぼっちwww』のミヅキ様、闘技場へ」
「おい待て」
どこからか聞こえてきた声に対してついそんな声を出してしまう。
何だその悪意に満ちたチーム名は。
「なんだそのチーム名は」
「受付されたチーム名ですが」
受付した覚えはないんだが。
……センスからいってやったのは一人しかいないな。
覚えてろよ、絶対覚えてろよ。
違う決意を胸に俺は立ち上がり、闘技場へと足を運んだ。
『さぁいよいよ始まります新王杯本戦! 実況はわたくし、ドリアンと』
『当日に解説してと無茶振りされたアーネストです』
闘技場へ出るとそんな声が聞こえる。
どうやら本戦は実況があるらしいな。
本当、興行なんだなと感じられる。
『ではまず東の方向から、チーム『パルキオール』の登場です!』
そう言って対面には4人が立っていた。
こう、普通の冒険者のような姿だ。
レザーの鎧を来ている。
ただ全員剣のようなものは持っておらず、杖や弓などの遠距離武器だ。
やはり近接武器を持っている人間は少ないらしい。
『クラン『パルキオール』の新人達ですね。中堅クランですが討伐クエストもこなす戦闘部隊の新人ということで期待が高まりますねぇ!』
『戦闘部隊もせめてドラゴンぐらい討伐する実績があれば泊も付くんですけどね』
『アーネストさぁん! これ生実況なのでそういう事は』
『事実です』
あ、ぷるぷる相手が震えている。
『つ、続きまして西の方! なんと一人での参戦です! チーム……え、えっと『かわいそうwwwぼっちwww』です。え、この名前でいいんですか?』
『同じ苦労人の気配を感じます』
これ毎回言われるの?
マジで覚えてろよあいつ。
「一人で参加とはね、よほど実力があるのか、それとも思い上がりか……とは言え、油断せず倒させてもらうよ」
と、中央に立っている男がそんな言葉を俺に投げかける。
『4対1という不利を覆す事が出来るのか! どうでしょうか、アーネストさん!』
『結果は見えてますけどね』
「ははは、言われてるよ?」
「ああ、そうだな。言われてるぞ」
嘲るような相手の言葉に返す。
それを聞いて笑う相手達だったが、皮肉には気づいていないようだ。
『それでは第一回戦、開始です!』
ビーと言うブザー音のような物が鳴る。
こういう所は何故か現代的だなあ。
「一気呵成に攻め立てて速攻で終わらせるぞ皆! 消耗を抑えるんだ!」
その言葉で武器を構えて詠唱を始める相手。
いや、遅すぎでは?
俺は剣を円のように振るう。
「魔王剣・深淵舞」
黒い刃が俺を中心に円を描きそのまま花が瞬間的に開くように広がっていく。
黒い円はまだ準備が整っていない4人にぶち当たり。
転移光を光らせ、嘘だろといったような顔をした4人を消し去った。
「始まってから詠唱とか遅すぎだし、発動までどんだけ掛けてるんだよ」
戦闘中に数秒停止とか気の遠くなる話とか聞いた覚えがあるぞ。
『…………け、決着ううううううううう!! は、早い! 僅か数秒で全滅!!??』
『いや、悠長に詠唱してるのが悪いでしょ』
『そうはいいますけど無詠唱とか短縮詠唱はこのクラスじゃ出来ない高等技術でして……』
『でもぼっちはやったじゃん』
ぼっち言うな。
「しかし、威力はそこそこ程度っぽかったな。やっぱりカルネージじゃないと駄目か」
予めアルトリウスは起動している。
が、カルネージは起動させていない。
この状態でも魔王剣は使える事は事前の一時間で試していた。
もっとも威力はかなり下がってしまうが。
消費も割と大きいし、カルネージ化しないとコスパはあまり良くないな。
しかし、予想以上に弱かったな。
予選のアリスと比べると全然だ。
いや、ガンメタされたのもあるけどな。
とはいえ、これで一回戦勝ち抜きか。
「後もこの調子ならいいんだが……ま、希望的観測すぎるか」
まだ俺はこの世界について詳しくない。
だからこそ、知らない魔法や技術が出てくることも十分あるし、それで負けることもあるだろう。
「もっとも、負ける気はないけどな」
剣を消して俺は控室に戻る。
さて、次の相手はどんな相手だろうか。
「お疲れ様」
「あの、誰ですかね?」
控室に戻るとそこには一人の女性が立っていた。
青髪のツインテールで二重に重ねた暑そうで厚い茶色のローブを着ている。
一見すると魔法使い、もうちょっと悪い言い方をすると魔女のようだ。
「アーネスト。さっき解説してた僕」
ボクっ子だったのか……確かに解説の時そんな名前で呼ばれてたな。
「はぁ、なんで控室に? と言うか選手の控室に来ていいんですかね?」
「あんまり」
駄目じゃん。
「……それで、何かようですか? 苦労人同盟でも組みに来たんですか?」
冗談交じりにそう言うと予想を裏切りうなずく。
「え、本当に……?」
「要件としては似てる。正確に言えば」
そう言いながら彼女、アーネストは手を伸ばす。
まるで握手する様に。
「君を勧誘に来た。クラン『黄金の空』にね」
その言葉を聞いて、少し考え込み。
「クランってなんですか?」
知らない単語の説明を求めることにした。
「そこからだったか。あんまり話すの得意じゃないんだけど」
なのに解説役なのか……。
その発言に少し戦慄した。
「簡単に言えば冒険者の集まりだよ。団とか、そういうのをイメージしてもらえればいい」
ふむ、まあ聞いたイメージどおりだ。
「有望株はすぐ売り切れるからね。即座に行動しないとと思って来たんだ」
「有望、かどうかはわかりませんけど、勧誘ですか……初めてなんでなんとも」
「メリットは大きいと思うよ。逆にデメリットはないし」
「それだけ聞くと怪しすぎるんですけど」
メリットだけあってデメリットはないよ。だから入ろう! は違う意味で怖すぎるだろ。
「いや、本当だよ。クランにとっては有望な人が居るだけでもありがたいし、育てたいって人が多いから。特にウチは」
「んー、詳しく聞きたい所ではあるんですけど、次の試合があるんで」
わりと休憩時間は短い。
壁を見れば魔法だろうか光る文字で後何分で試合予定と書いてある便利仕様だ。
ちなみに後5分だ。早すぎだろ。
ってかアンタここに居るけど他の試合の解説はいいのか。
「わかっているさ、だから今は声掛けだけ。最初に声をかけたって事だけ、覚えておいてくれればいい」
そう言いながら懐から黄金色したカードのような物を取り出す。
それを渡してきたので受け取るが、特に何も書いていない。
「これは?」
「名刺」
名前入ってねえよ。社会人かよ。
「ウチのクランメンバーなら見ればわかるよ」
「ふうん……あの、離してもらえます?」
受け取った後、カードを再度掴んでくるアーネスト。
「ごめん、試合中に物渡しちゃいけないんだった。返して」
俺は既に他の三人と似たポンコツ感を感じていた。
【TIPS】
クランは基本的に冒険者の9割以上が所属している。
それは一人ではだんだんと厳しくなってくるからである。
入る理由は様々であるが、創設を除けば勧誘されて入る事が最も多い。




