65話 始まる本戦
唐突に出てきた名前に俺は驚きを隠せなかった。
吸血女王、シルヴァリアと言えば勿論忘れる事はない名前だ。
メイドであるエクレア、チルと共に城に住む女王。
その力は戦った俺が一番良く知っている。
だからこそ、言った。
「無理だ」
出来ない物は出来ない。
かつて戦ったときよりも俺は強くなっている。
しかし、それであっても俺は勝てないと思えるほどの強さを持っていた。
だからこそ、ハッキリと言うしか無い。
そもそも感情的に受けたくないというのもあるが。
「そうか、ならいい」
と、何か言われるかと思ったがそんな事はなくあっさりと引き下がる。
「であれば、決勝で負けてもらう必要も無くなった。君の仲間は開放するから後は自由にするといい」
興味をなくしたかのように、そういった。
俺はと言うと、突然のその言葉に混乱を隠せなかった。
「待てよ、誘拐までしておいて俺に依頼したんだろう? それで、俺が出来ないと一言言っただけで全部やめるっていうのか?」
「そうだ。無意味なことはしない」
ただ何も感じられない表情でそう淡々と言った。
「何より、まあ……君自身の話だ。君がそう選んだならば構わん。ではな。また会おう……もっとも、次会う時は」
帽子で目線を隠しながら男は言った。
「忘れているだろうがね」
そう言って影に溶け込むように消えた。
瞬間移動の類だろうか、転移光はなかったが。
「一体、なにがどうなってるんだよ」
唐突な誘拐宣言。
急な依頼。
変貌した態度。
翻す言葉。
「まるで意味がわからんぞ……ん?」
と、そばに光が生まれる。
これは、転移光か。
「ご主人様ー!!!」
「うおっと!! おま、アルマダか。いきなり飛びついてくるなよ」
光から現れたアルマダが俺に飛びかかり、思わずキャッチしてしまう。
「良かったー……あ、ご主人様無事?」
「そりゃこっちのセリフだ。お前ら捕まったとかって聞いたが」
「うん、誰かわからないけど、ボク達の前に突然現れてね、三人とも空間に封印されていたんだよ」
空間に封印ってなんかすごそうだな。
「でもその空間が急に無くなって、急いでボクはご主人様の所に瞬間移動してきたんだよ」
話と状況から見て、恐らく解除したのは先程の話の時にハイテルテルネスが解除したのだろう。
言葉通りではある、という事はほぼ確定的にその封じ込めたのはハイテルテルネスで間違いはない。
「そうか」
そう言って俺はアルマダを撫でる。
少し驚くアルマダだったがおとなしく撫でられていた。
俺は、ここでハイテルテルネスの事を言わないでおこうと思った。
理由は、うまく言葉にできない。
ただ、なんとなくだが。
言わないほうがいいような、そんな気がしていたのだ。
この選択が、後にどうなるかはわからないが。
「残りの二人、ティリアスとマキナはどうした?」
その言葉ですこし呆けていたアルマダはえっとーと前置きしてから考え始める。
しばらくして
「そろそろ来ると思うよ」
と、そんな事を言う。
こいつ、二人を置いてきたな。
「あーーーー! 居たーーーー!! 居ましたぜ姉貴! やっちまってくだせえ!!」
「誰が姉貴ですか。全く、それよりもアルマダちゃん! 急に転移していなくならないで下さい。びっくりしたじゃないですか」
「あーごめんねえ、つい」
「ついって……もう、せめて次は一言言ってからにしてくださいね?」
「ちゃんと報告しろよなー」
ティリアスがマキナをジト目で見るが口笛を吹いて知らん顔をするマキナ。
ティリアスはそれをみて少しだけため息を吐いた後俺の方に向き直る。
「ごめんなさい、捕まってしまったみたいです」
「まあ、そういうこともあるさ、気にするな」
「ろくな抵抗もできなかったのが悔しいですけど……」
ハイテルテルネス、という奴は予想以上に強いのかもしれない。
この三人を一斉に拘束できるのは、中々居ないと思うんだが。
「そうだ、ご主人様ー 予選突破おめでとー!」
「あ、そうでしたね。おめでとうございます」
「おつー。ま、でもこれで満足じゃないっしょ?」
三者三様にねぎらいの言葉を掛けてくれる。
「ああ、ありがとな。予選終わって、次は本戦か」
「そうだねーえっと次は確か」
アルマダがなにかを言おうとした瞬間に光が走る。
転移光、ではない。
その光は俺のポケットから出ている。
一体何かと取り出してみれば。
───これより一時間後に本戦を開始します。第一闘技場までおこし下さい。
と、そんな文字が浮かび上がっていた。
「わりと、早かったな」
「本戦は、トーナメントだっけ?」
「確か、闘技場に居た係の人がそう言っていましたね」
トーナメントか。
予選でもだいぶ苦労したが、それ以上の相手が出てくるのだろうか。
「ユウ?」
「どうした?」
不思議な顔をしたティリアスがなにかを言おうとしたが
「いえ、なんでもないです」
「? そうか」
さて、いよいよ新王杯本戦か。
決勝で負ける必要はなくなったので、これで本気を出せる。
まあ、決勝まで行けるかという問題はあるが、そんな弱気は出してられんな。
新しい力も手に入れた。
後は、優勝するだけだ。
俺達四人は、早速第一闘技場に向かうのだった。
【TIPS】
移動方法にも数多く存在する。
瞬間移動は転移光を発生させるが癖がなく使いやすいと言われている。
中には影を使った転移も存在するが、影がある所でないと移動できない欠点がある。
しかし、条件が設定されている物は通常の瞬間移動と比べると一部分で勝る部分がある。
発動速度だったり消費魔力だったりするらしいが、研究は進んでいない。




