61話 ワールドエンド
すみません、投稿予定を入れていなかったので遅くなりました……
明日も夜投稿になるかと思います。
ふっと、夢から覚めると元の闘技場に戻ってきていた。
夢の中では感じなかった疲労感と右腕の絡みついた蔦と剣の重さ、そして凍えきった様な身体が大変に気分が悪い。
これならもっと夢の中にいればよかったなとも思ってしまった所で首を振って情けない考えを振り払う。
「ふう……でもまだ、失格にはなっていなかったみたいだな」
戻ってきたら医務室で負けていた、なんて展開でなくてよかった。
空を見れば飛び散った雲がまだ戻っていないことからそれほど時間は経っていないようだった。
精神世界では時間の進みが遅い、なんてよくある設定ではあるがそれが今はありがたい。
ぐっと剣を握り直す。
『むむ、まだやる気みたいやな、でも……』
再度霧が周囲を覆い始める。
どうやらまた同じ戦法で俺を追い詰めるみたいだ。
『何度でも貼り直すでー!』
そんな事を言うが、虚勢だろう。
先程撃った魔王剣とやらで、霧は一度ほぼ吹き飛ばされていた。
二発目は撃てないか、撃ってもまた貼り直せばいいと考えているのだろうが、つまりはそれは他に方法が無いということだ。
消されるなら違う手を考えれば良いと思うが、それが無いということはアリスの出来るのはここまで、と推測できる。
違ったら恥ずかしいが。
「トゥールー」
声を掛ける。
返事はない。
はぁっとため息を吐く。
相変わらず肝心な時に役に立たんやつだ。
本当に追い詰められないと出てこないのかあいつは。
「まぁ、良いか、さて……やるか」
『ん、どうするんや。さっきの撃つのか、それともアグリシアか?』
「ま、見てろ」
ふうと、一息吐いて俺は言った。
「リズ」
『はいよ、任せろ相棒』
『「───<疑似英雄譚・黒き暴虐>!!」』
瞬間、周囲に暴風が吹き荒れる。
黒い風が俺に纏わりついて、形を成す。
そして俺の影すらも俺の身体へと纏わりついて。
「これが……」
『あぁ、格好いいぜ相棒』
夜のように深い色のマントを背にはためかせ。
全身は闇のように昏いコートを羽織っている。
所々には赤い紋様が刻まれている。
そして、剣も姿を変えていた。
黒く細い片刃の長剣。
刀とも違う、その剣は『真と偽の境界剣』が姿を変えたものだ。
と、まだ右手に蔦が絡みついている事がわかると
「っふ」
そのまま剣を軽く振っただけで蔦は粉々に砕け散り、ビリビリと空気を震わせた。
『な、なんや今のは!! ふ、振っただけでめっちゃ風圧来たで!?』
霧も一瞬吹き飛ばされそうになったがアリスが制御したのか、なんとか散るのはこらえたようだ。
『さて、わかってるだろうが、話したとおりその姿は攻撃特化だ。トゥの時の白き誓いと比べると、防御力は0。小さい炎の魔法でも、その火の粉だろうが食らったら火傷跡が残るほど耐久性はねえ』
「わかってる、さっさと決めるさ」
聞いていた話、リスクだ。
白き誓い、エグゼクタと比べてどっちが優れているか、という話ではない。
エグゼクタは防御に厚く、全体的に身体能力が上がっている。
この姿、カルネージはそれを攻撃に極振りしたようなものだ。
例えるならば
エグゼクタ
攻撃:30 防御:50 速度:30
こうだとしよう。数値は適当だが。
カルネージ
攻撃:150 防御:0 速度:0
こうだ。清々しい程のステータスと言える。
さて、これを見るとなんだ、合計値カルネージの方が高いじゃんとなる。
が、それは大きな間違いだ。
これは補正値と考えればいい。
0というのは全く補正がかかっていないということ。
わかりやすく言葉に変えるとこうなる。
エグゼクタ
攻撃:大体の敵は倒せる 防御:ほぼ攻撃が効かない 速度:かなり早い
これがこうなるわけだ。
カルネージ
攻撃:殺意の塊 防御:死ぬ 速度:避けれない
攻撃はそりゃ最高だろう。
しかし、防御と速度に補正が無いという事は、今までの通常モードよりも弱いということだ。
エグゼクタはおろかアルトリウスを使って居ないときでさえ防御と速度は向上している。
だから仮に通常モードで魔法を受けても火傷はしないし雷に当たっても感電死しない。威力にもよるが。
つまり、今の俺は現実の、普通の人間と同じ身体だ。百円ライターであぶられても火傷するし水ぶくれになって数日苦しむ。
その状態で魔法を受けたら? 死ぬわそりゃ。
と、デメリットも非常に高いわけで乱発はエグゼクタ以上に出来ない。
だが。
「行くぞアリス。そして終わりだ」
この状態で、アルトリウス状態で撃ったあの威力の魔王剣を放てばどうなるか。
「魔王剣」
オーバーキルになるかもしれないが、審判もいるらしいからなんとかなるだろう。
多分。
「───黒壊月」
その瞬間、闘技場全てが黒に染まった。
突き立てた剣、その地面のヒビが黒く、そして蜘蛛の巣のように広がっていく。
わずか一瞬で闘技場の壁すらも。
その、一呼吸に満たない後、黒い波動の様な物が天高く吹き出す。
まるでマグマの噴火のように全てを覆い尽くし、途中にあるものを全て破壊して。
その中央にいる俺は周囲を逆に覆われて半分ぐらいビビっている。
と言うか、足元がぐらっぐらだ。
崩壊するんじゃなかろうか、ここ。
周囲は地獄だ。
黒く吹き出すナニカ、オーラのような波動のような物がひたすら世界を壊しているような。
地獄の三丁目といったような風景だ。
やっていることは完全にラスボスなんだがこれは大丈夫なんだろうか。
と言うか止めに入って来なかったが、アリスと観客、そして闘技場は無事なんだろうか。
そして俺は無事でいられるのだろうか。
予想以上の威力にそんな事を考えながらも
いつ終わるんだろうかこれと、思いを馳せていた。
『TIPS』
この世界に生きているものは常に魔力で覆われている。
それ故にマッチのような火程度では火傷もしないほど耐久性はある。
勿論、魔法や高温になれば無理ではあるが、その耐久性こそが魔力の強みであり魔獣討伐が難しい原因である。




