60話 揉まないのか・・・・・・
「ん…………ここ、は」
目を覚ますと、俺は暗い部屋にいた。
いつの間にやら寝ていた身体を起こすと、そこがまるで牢獄のような部屋という事がわかった。
寝ていた地面は硬い煉瓦で出来ており、周囲の壁もわずかに見える範囲では全面が煉瓦で覆われている。
外から差し込む光は月明かりのように朧な一閃だけ。
その光も一つだけある鉄格子の窓から差し込んでいるだけで、部屋の中は全体的に暗闇で包まれていた。
「俺は、そうだ新王杯に出て、アリスと戦っていたはずだが……どこだここは」
身体が勝手に動いた後、意識を失っていたのか?
牢獄のように見えるが、捕まっている、のか?
「いや、にしても……」
手枷や足枷のの様な物はないし、後ろを振り向いてみれば木の扉があった。
見た限り、カギそのものが扉には着いていなさそうで開けようと思えば開きそうだ。
とりあえず、出てみようと立ち上がり扉へ向かおうとする。
「よお、起きたか宿主」
そう声をかけられ、振り向くと、闇で見えなかった奥から見えたのは赤い目。
ついで、胡座をかき、悪い笑みを浮かべながら頬杖をつく女性の姿が見えた。
黒髪の、二十代を思わせるような女性。
しかし、囚人服を着ていて、手に枷をはめられ、それが鎖で壁に繋がれていた。
「お前は……」
「ああ、会うのは初めてだぜ。ま、わかっちゃいると思うが……俺様がリズ、だ。宿主」
ふっと笑ってそのままポーズを崩さずに言った。
「リズ、トゥールーが言っていたもう一人か」
「へぇ、トゥのやつ、なんて俺様の紹介したんだ? 恐らくは随分とご機嫌斜めな紹介だっただろうがな」
「お前がここに居るって事は、精神世界的な何かか、ここは」
「察しが良いね、過去に招待チケットでも貰った事でもあるのかい?」
「無いが、まあそういうこともあるだろうとな」
不思議と、初めてのような気はしないのだが。
まあ魔法がある世界で今更精神世界なんて、合ってもおかしくはないだろう。
「随分と順応が早いようで何よりだね、それぐらいのほうが話しやすくていい」
と、ふと気づいたようにリズは言った。
「なんだなんだ、熱烈な視線を感じるが、傾国の美女、俺様に見惚れちまったかな? っと、こんなアクセサリーじゃ魅力も半減してるけどな」
そう言ってジャラリと、手についている枷と鎖を鳴らしながらニシシと軽く笑う。
……悪意自体は感じない、敵意もだ。
「それとも、この黒髪が珍しいか? ああ、宿主もそうだったか」
暗闇で見づらいが、見れば確かに黒髪だ。
「いや、そうじゃない。……聞いていた話で抱いていた印象と違うからな」
「なるほど。やはりご機嫌な紹介だったみたいだな。どんな話か語ってくれてもいいんだぜ」
楽しそうにそう言うリズ。
「確か、怒りや悪意などの負の感情によって力を増し、誰かのためには動かない。自分より弱い者をいたぶるのが好きで、逆に舐められる事が気に入らない。そして、攻撃的だと言っていたな」
「ほうほう、こりゃまた事実をヒステリックに並べた様な話だ。これだから女性は怖い」
「違うっていうのか?」
「いーや、合ってるぜ。でもよぉ、これってそんな悪い事か?」
と、そんな問いを投げてくる。
「怒りで力を増しちゃ駄目か。 それなら義憤は許されないのか。
誰かにために行動しない。 無償の行動を強要するのはいいのか。
弱いものをいたぶった。 魔物退治は違うのか。
舐められる事は気に入らない。 誰だってそうさ。
攻撃的。 守る前に倒せば良いじゃねえか」
驚くことに、リズはそう言った。
いや、内容に驚いたのもそうだが、そのリズという女性はしっかりとした考え方をもっていたからだ。
話を聞いた限り、悪辣なやつだと思っていたがそうじゃない。
「ま、意見が違うのは仕方ねえ、その見方は人間側。俺様は魔物側の見方だからな」
単純に、価値観、視点が違うだけだ。
「それは、お前が言っていた黒の王、魔王に関係するのか?」
ニヤっと笑うリズ。
「初回サービスはここまで、取引と行こうぜ宿主」
「取引、だと?」
「あぁ、見てくれこの手枷と足枷、それと窮屈なこの部屋。女も居ないし退屈でありゃしねぇぜ」
「お前女性じゃないのか?」
女も居ない、という所で少し首を傾げる。
「女性だから可愛いモンや美しいモンを侍らせたいのさ」
わかるようなわからんような。
「取引の内容は簡単だ。俺様は力をくれてやる、かわりにここから出してくれ」
「……三つ聞きたいことがある。力の詳細、出す方法、そして出した時になにが起こるか、だ」
「ま、当然のところか。男らしく即決でも構わないんだぜ?」
「馬鹿言うな」
「それか、俺様の身体を求めても良いんだぜ?」
「馬鹿言うな。というか、女を求めていたんじゃないのか?」
頭にハテナを浮かべて首をかしげるリズ。
「別の男も行けるが」
ああ、そう。
「いらない」
「この胸柔らかいぜ?」
「揉むな揉むな……ったく、もうちょい」
「危ない存在だと思った、か? いや、間違ってねえぜ」
ふっと笑いながら続きを話すリズ。
「まず情報の内容だが、俺様の力だが、見たろ? あの技、魔王剣。まずアレ、使えるようにしてやるよ。あとおまけもやる。そんで、出した時どうなるかだが」
そこで肩をすくめる。
「別にどうもねえさ、単純に俺が表に出れるってだけだ。ああ、現実的にってわけじゃなくて、宿主の中でって事だが。今のトゥと同じ様な感じだ」
「……それだけ聞くとデメリットは少なそうに見えるがな」
「そっちにとってはな。俺様にとっちゃ退屈なこの部屋から出れるだけで十分よ。あぁ、一応わかってると思うが嘘はついてねえのはわかるだろ?」
……確かに、俺は嘘がわかる。
「もう一つ、聞かせろ」
「最後って言うんなら良いぜ」
「今、出られないなら、過去に声を聞けたのと、俺の身体を動かしたのはどうやったんだ?」
その問いに対して、初めて沈黙がおりた。
そう、出られないということであれば、身体を動かしたり出来ないはずなのだ。
「あー……その、それはだなあ……」
口ごもる。
やはり、何かを隠して
「引き千切ったんだわ、手足」
「……はい?」
「いや、手枷と足枷あるだろ? でも扉には鍵がかかってねえからさ、手足引き千切って外出たんだよ。外出ると傷が治んねえから、そのままだと死にそうになるからあんま表に出れねえし痛ぇし、辛ぇんだわ」
「引き千切ったって、どうやって」
「そんなもん、思いっきり引っ張れば腕取れるだろ?」
こいつ頭おかしいんじゃないのか。
「そんな眼で見んなよ、興奮するだろ。まあ俺様だってそれはやりたくない、だからこその取引だ。さぁ、質問タイムはここまでだ」
そう言って、手のひらを上にした形で、人差し指を突きつけて言った。
「宿主は、この取引をどうする? ライズオアトゥルース?」
どうやら、このリズという奴は言葉遊びが好きらしい。
「言っておくが、保留は無しだ。待たされんのはもう飽きたんでな、ここで選ばないなら俺様は今までどおりこの部屋にいて、声も掛けねえ」
そう言われて、俺は悩んだ末、答えを出した。
「わかった。答えは───」
【TIPS】
届かないようだ。




