47話 ???
さて、場所を教えてもらってきた俺は洞窟を見回す。
中には光る苔があり、明かりは十分のようだ。
一応、ロープや火石入のランタンを持っていったほうが良いという事でアイアンウルフの報酬からベルトも買って腰に着けている。おかげで報酬は大分減ってしまったが、ギルドで売っている当たり商売上手だなと思わなくないが、まあいいだろう。この昇格試験が終わればもっと稼げるだろうし。
しかしランタンやロープもわりと大きめのサイズなのだが不思議と邪魔にならない絶妙な位置にくくりつけられている。
……やるなアリス。
「確か、2階にあるギルドの証を持ってくるんだったな」
どうも定期的にこの昇格試験があるらしく、わざわざ2階に証を置いて行っているらしい。
ダンジョンの探索訓練も兼ねてって所かね。
「さて、行きますかね……はてさて、変なのが出ないと良いが」
巨大な虫系とかな。
ゲームとかではありがちな敵だが実際巨大な虫に出会ったら正気度下がると思うんだよな。
……やだなあ、黒光りする巨大な奴が出てきたら。
そんな不安を抱えながら俺は洞窟の中に入っていく。
ゲームとは違い、すぐ帰還出来るアイテムなんて便利なものはない。
ダンジョン内の魔力。ダンジョンコアがもたらす魔力影響は魔獣に変えるだけではなく、瞬間移動などの妨害もあるとかで、仮にアルマダが居ても帰りは徒歩になる。
だからこそ半分の力を使ったところで帰らないと、帰りも同じぐらい力を使うわけで、それを超えると帰れる可能性がぐっと減るわけだ。
それがダンジョンの踏破を難しくしている所為でもあるらしい。
とはいえ、2階程度なら大丈夫なはずだ。
「……まあ、そうだよな」
俺は一階の階段前に着いていた。
途中、少し巨大なネズミがいたが苦戦することもなく倒すことが出来た。
まあ普通に考えてランク10の昇格試験でそんな強力な魔獣が出るわけがない。
そのまま階段を降りる。
更に洞窟の奥へと入っていく。
「今度はコウモリか」
牙を向いて飛んでくるコウモリを切り捨てる。
一直線に飛んでくるとかカモ以外の何者でもないな。
(安定。流石マスターですね)
(まあ、チュートリアルみたいなもんだしな)
(ちゅーと、りあるとは?)
そう言えば何故かトゥールーにはそういった現代語というか、そういったのは通じないんだよな。
特に苦戦する事もなく、俺は更に奥へと向かっていく。
一本道だから迷うこともない。
そのまま進んでいくと階段を見つけた。
その近くには小さな祭壇のようなものがおいてあり、そこには小さなバッチが箱に入れられていた。
その箱にはギルドの証と記載がある。
階段の方に目を向ければその横には石版がおいてあり
『危険! 昇格試験の人は絶対に入らないように!』
と記載されていた。
……まあ別に奥には用はないしな。
「さてバッチを取って帰るか。随分と楽な試験だったな」
一つだけ取ってポケットにしまう。
そのまま俺は踵を返してギルドへと向かう。
はずだった。
「だ、誰か! 誰か助けてくれ!!」
そんな悲鳴が聞こえなければ。
「……今、助けを求める声がしたよな?」
(肯定。恐らく下の階からかと思われます)
下ってつまり3階だよな。
行くなって書いてあった階段の先。
(マスター。冒険者は自己責任。見捨てても構わないかと)
トゥールーはこういう時シビアだ。
そして間違ってはいない。
「とはいえ、見捨てるのも目覚めが悪いんだよな……この辺の敵なら大丈夫だろうし、まあ一階下ならいいか」
(ふう、お人好しですねマスター)
(馬鹿言うな。全部自分のためだ)
義憤とか慈愛みたいなそういった感情じゃなく、ただ見捨てるのも何かな、というぐらいの感情しか無い、だから善行でもなんでもない。
(ですが、おすすめはしませんよ)
(わかってるさ、油断はしない)
恐らく勝てるとは思っているが、もしかしたら強いやつが出るかもしれない。
その事はわかっていると言外に伝えたが帰ってきた言葉は違った。
(否定。マスター、人を助けるのは、損することもある、ということです)
(損?)
どういうことだろうか?
そんな事を思いつつ俺は階段を降りる。
……少し空気が変わったか。
あのハルサラの森に近い雰囲気だ。
階層が変わるだけでこんな違うのか?
(コアが近くなる分、強い魔獣が生息しやすいのかと)
なるほどな。と言ってもまあアイアンウルフ程度なら全く問題ない。
とはいえ、一応は急いでやるか。
俺は走りながら奥地へと向かう。
一本道のおかげですぐにその人物を発見する事ができた。
複数の猿のようなものにたかられている男を。
「や、やめろお!!」
手に持った量産品のような剣を振るって追い払おうとしているが、ただ振るっているわけで斬ろうとかそういう感じではない。
あれなら火の着いた棒きれのほうがまだ役に立つな……
「そのおっさん、伏せろ」
「え? だ、誰だ!」
「誰だって良い。早くしろ」
だが俺の声に振り向いてしまう。
馬鹿かアイツ! 敵から目をそらすんじゃねえよ!
予感は当たり、それを見て一斉に猿たちが襲いかかる。
くそ、光羽を撃つか!? いや、おっさんが邪魔だ。
しゃあねえ、密かに試していた技を試すか。
「【白亜守護陣】!!」
俺がそう唱えるとおっさんの前に光の盾が生まれる。
瞬間、猿たちはその盾にぶつかってぎゃんと声を上げて弾かれる。
(御見事。魔法の発動位置変動、成功ですね)
(元のアイディアがあの野郎ってのが気に入らないけどな)
頭に浮かべたのはイカれた科学者みたいなやつ。ダルダダーンだ。
召喚位置の変動、という事でひょっとして他の魔法も同じ様に出来ないかと試していたのだ。
精度はまだ高くないが、今やったホワイタルは少し離れた位置なら出来るようになっていてよかった。
「こ、この魔法は一体」
未だ状況が把握できておらず、しかも動こうとしないおっさんに対して内心少しだけ舌打ちをしながら力を調整して足に力を入れ、天井ギリギリになるように跳ぶ。
「光羽!」
ホワイタルで出来た盾の上から振り落とすように剣を振るい、上からまとめて猿たちを切り飛ばす。
……流石に少し慣れたとは言え、未だちょっとだけ殺すのには躊躇があるがな。
三匹の猿はそのまま自分の血溜まりに沈んだ。
俺はその少し奥に着地して振り向く。そのタイミングで丁度ホワイタルの効果が切れ、おっさんの顔が見える。
無精髭と疲れた目をしたおっさんだ。
荒く息をしていて、ん、腰にはランタンも何もねえんだけど。
「おっさんは冒険者なのか?」
「え、あ、ああ。そうだ……君も冒険者なのかい? あ、いやまずは礼を。助かった、ありがとう」
そう言って礼を告げるが俺は気にするなと手振りをする。
「冒険者かってのはそうだ。……なあおっさんランクは?」
そう言うとぎくりとわかるぐらいに身体を強張らせる。
やはりか、この階層に来るには正直全然動きがなってない。
声への反応もそうだし、俺が来た足音とかも気づいていなかった。
「……多分だけどよ、ランク10じゃねえのか? それならアンタも昇格試験を受けに来たんじゃねえか?」
「う、お見通しか……ああ、そうだ」
「なら書いてあっただろうが、昇格試験を受けに来たやつは下に降りるなって。なんで降りたんだ」
「それは、その……色々あって」
何が色々なんだか。
「実力も伴ってないのに降りるのは不味いと思うけどな」
「ぐ……ま、待て! さっきアンタも、って言ったな、であれば君もランク10なんじゃないのかい!?」
「そうだが……」
何が言いたいんだ?
「で、であればわたしの事を糾弾できないだろう! だって君も同じなんだから!」
「???」
このおっさんは何を言っているんだ?
「どういう意味かわからないんだが……俺がここに来たのはアンタの悲鳴を聞いたからなんだが」
「そ、それに関しては礼を言っただろう! けれど、来てしまった以上君も同じ! わたしを馬鹿にするような事は言えないだろ!」
え、マジで何を言っているんだこのおっさんは。
【TIPS】
昇格試験は基本的に一人で行うのが通例である。
勿論仲間をこっそり連れて行ってもわからないが、その時点で実力が無いことは明白であり
今後の仕事を受ける内に死ぬか、全て仲間に任せて完了するかである。
ギルドとしてはどちらでも構わない。




