44話 いきなり
瞬間、その姿が変化する。
たなびく赤いマントに赤いマフラー。そして金属の胸当てのような物を付けている。
ま、間違いねえ。これは。
「行くぞ! はあああああ!」
そのままイエティに特攻する。
それに気づいたイエティが鬱陶しそうに腕を振り上げて叩きつける。
しかしそれを両手を交差させて受け止める。
「っく、重いな! しかし、はぁ!」
腕を弾くようにイエティの腕を上に跳ねさせ、ジャンプして顔面に蹴りを放つ。
それをうけてイエティを後ろに下らせた、すげえ。
それに怒りを覚えたのか、ぶん殴るように何度も拳を振るうイエティだったが、その全てを見事に交わす女性。
「甘いぞ! 拳とは、こういうものだ!」
正拳突きのように胸に拳を突き刺す。いや実際刺さったわけじゃなく表現としてだが。
本当映画みたいだな……。
「な、なんなんだお前は! 関係ないだろ!」
それに声を荒げて言ったのはガルだ。
しかしそれよりも声量大きく返答する。
「ある! こんな町中で暴れては皆が困るだろう! 故に! 我が正義に基づいて倒さねばならないだろう!」
一片の曇りなく言い切る。
「正義だぁ!? っは、化物を殺すのがお前の正義なのか! それを頼んだやつがいるのかよ! それはなあ、偽善っていうんだよ!」
それを吐き捨てるように言う。
こいつ本当性格が腐ってんな……だがそれにも怯まず戦いながら言い返す。
「構わん! 偽善だろうと善だろうと、他人に何を言われてもオレはオレの正義を貫くだけだ! 何より! それで助かる人が居るならば、それは素晴らしいことだ! 他人に悪と言われようとも!」
だがそんな言葉も跳ね除ける。
しかしイエティも強いのか、所々で殴られている。
……助けに入った方が良いか。
「助太刀は無用だ!」
が、それを見越したように声が飛ぶ。
「これはオレが始めた事。君には一切責任も義務もない! だからもしオレに何か合っても傷つく必要も気に病む必要もない!」
ハッキリとそう言い切るところは凄いが、しかし殴られている女性を放置するっていうのは。
「っふ、ならば見せようか! 問題が無いという事をな!」
そう言うと足を垂直に上げ、顎下から強烈な一撃を与える。
これには流石効いたのか、舌でも噛んだのか悲鳴をあげるイエティ。
ちらりと周囲を見た後回し蹴りのように身体を回して蹴りを入れる。アクション映画みたいだ。
その強烈な蹴りを受けて道の中央に吹き飛ぶイエティ……ん、ケリで強制的に移動させたのか。
周囲に物も人もない……ということは大技か!?
その瞬間を見切ったように、後ろにバックステップする女性。
「はあああああああああああああ!」
駆け出すようなポーズを取ると、魔法陣が地面に現れ、段々と小さくなっていく。
やがて、右足に魔法陣が見えなくなるぐらいまで小さくなると、右足が赤く光った。
や、やはりこれは。
そのまま女性はイエティに向かって駆け出す。
ダンと音がするように跳躍をして、空中で一回転をすると
「───【赤熱の蹴撃】!!!」
蹴りがイエティに直撃し、衝撃で後ろに吹き飛ぶイエティ。
よろよろと立ち上がるイエティだったが、女性は後ろ、つまりこちらを向いて言った。
「正・義・完・了!!」
その瞬間、イエティが爆発した。
これ日曜朝にあるスーパーヒーロータイムだああああああああああ!!
「な、馬鹿な……あんな化物を倒す、だと……て、てめえどんなインチキを! い、いや高ランクだ!! そ、そうだ、ランク4とか、3とかの化物クラス!」
「過分な評価だな。オレはまだランク9のただの冒険者。ま、登録してまだ間もないがね」
少しばかり恥ずかしそうにそう頬を書きながら彼女は答える。
その言葉に対して俺と同じ…‥と呟くようにした後がっくりと肩を落とす。
しかし、ランク9で結構な強さなんだな。
……いや目の前の男を考えればピンキリか。それか実績が足りないからランクが低いだけで本当の実力はもっと上か。まあ、後者かねえ。
「しかしふう、無事に終わって何よりだったな。少年も無事で良かった」
そう言って俺の方に来ると肩をバンバンと叩く。
豪快な人だと思うが、輝くような笑顔を見せる当たりそういう人なんだろう。ヒーローだしな。
「ああ、助かったよ」
「あっはっは、優しいな少年は。手出ししなくても君なら倒せただろうに。余計な真似だったかもしれないが、これも性分でね、許してくれ」
そう笑っているとぐぎゅる、と腹の音がなる。
俺ではない、目の前の女性からだ。
その音を聞いて手を叩くと。
「よし、ご飯にしようか。少年、君も来たまえ、気にするなオレの奢りだ」
言いながら手を掴み、そのまま歩き出す。
「ちょ、ご、強引だなアンタ」
「良いじゃないか。これもなにかの縁だ。少し食べながら話すのも楽しいぞ」
そのまま力強く手を引かれる。
流石に振りほどくのは申し訳ないと思ったが、それを知って知らぬかずんずんと歩き続ける。
「それとも何か用事があったか? それなら無理にとは言わないが」
足を止めずにそう聞いてくる。
「ん、まあ。用事はないが……そういえばあの男は放っておいて良いのか?」
「街で騒ぎを起こしたんだ、自警団がそろそろ駆けつけてあの男も捕まって事情聴取されるだろうな。だがしかし少し堅物でな、オレ達も事情聴取を受けると夕方までかかってしまう。説明する義務はないし、後は任せていいだろう」
こういう所はクレバーなようだ。
「問題はないだろう? それに見目麗しいとは言えないが、女性と一緒にご飯でしかも奢り。男ならどーんと胸張って行こう!」
胸を叩きながらそう言い放つ。
話しててわかるが、すごく真っ直ぐな人だなあ。流石ヒーロー。
それに、本人は見目麗しくないと言っていたが、それは謙遜だろう。
女性的な美人というよりかはイケメンの類ではあるが、美形なのは確かだ。
うーむ男装すれば似合いそうだ。
「おっと、自己紹介を忘れていたな。オレはガーネット。ガーネット・スカーレッド。気軽にガーネットと呼んでくれ!」
自分を指を指しそう自己紹介をする。
めっちゃ赤いな。名前が。
「それで、少年の名前は何だい?」
こちらの目を覗き込みながらそう問いかける。
「悠だ。水月 悠。俺も悠でいい」
「ユウか! 良い名じゃないか。おっと、そろそろ着くぞ。よく行く店なんだが……食べれない物はあるかい?」
「いや、まあ特には。あまりに奇抜な物じゃなければな」
「そうか、なら大丈夫だろう!」
店の中に入っていく。
一見普通の店だが、上の看板にはデカデカと肉! 肉! 肉! と書いてあったんだが……
若干の不安を覚えつつ未だ離してもらえない手を引かれ俺も中にはいる。
入った瞬間むせ返るような重厚な肉の匂いが広がっている。
こちらに気づいた店員が小走りに走ってくる。
「いらっしゃいませ、何名様ですか?」
「2名だ!」
「ではこちらのテーブル席へどうぞ。あ、灰皿が必要であればお渡ししますので、灰はそちらにお願いします」
「いやタバコは吸わな……吸わない」
こちらをチラリと見たので首を振るのを見て、そう返す。
こういう所は異世界でも変わりないんだな。というかタバコもあるのか。
席に座ってメニューを渡される。
そのメニューを見て俺は苦笑いしか出なかった。
・重厚肉厚ステーキ
・半熟鳥肉ステーキ
・ほぼ生牛ステーキ
・ドラゴンステーキ
・大ボリューム! 肉乱舞ステーキ
ステーキしかねえじゃねえか。
「オレはいつもの超! 大盤振る舞いステーキで。ユウはどうする?」
なんだよ超大盤振る舞いって。
……メニューの下の方にあるな。俺の目がおかしくなければ1kgって書いてあるんだが?
「好きなのを選んで良い。……ただ黄金ドラゴンステーキだけは勘弁してほしいが」
恥ずかしそうにそう告げるガーネット。
そのメニューを見ればなるほど、金貨100枚。いや高すぎだろ。確か金貨1枚が1万って考えると100万か。
……店のメニューの値段じゃねえな。
「普通のステーキで良いんだが」
「なら重厚肉厚ステーキか」
「内容量400kgって書いてあるじゃねえか。肉厚すぎだ、もう少しボリュームを落とせ」
そこまで大食漢ではないのだ。
どっちかと言うと食は細いほうだしな。
「そうか、ダイエット中か。なら一般用ステーキか」
なんだよ一般用って。
……内容量も普通だ。これでいいか。
頷く俺を見ると早速店員を呼んで注文する。
「注文了解いたしました。本日は少なめなんですね」
「お、おい! そ、そういう事を言うな!」
注文を受けた妙齢の女性は少し笑いながら戻っていった。
店員に顔を覚えられてるじゃねえか。というかこれで少なめって。
「ふ、普段はもうちょっとだけ食べるだけでそんなにその、大食いじゃないんだ」
わたわたと身振り手振りでそんな事を言うが1kgの時点で大食だと思うんだが。
「良いんじゃないか? まあ食べれる分には」
特に気にせずにそう回答をするとテーブルに乗り出してそうなのだ! と大声を出す。
「食べれればいいんだ! それなのに女性らしくないだのはしたないなど、全く、お腹いっぱい食べれればそれでいいじゃないか!」
嫌な思い出があるのか眉をしかめながらもそう力説するガーネット。
「その点ユウはよくわかっているな。……そういえば聞いていなかったんだが、何故あんな状況になったんだ?」
あんな状況、と言うのはあの男の事だろう。
「ああ、それはな……」
ご飯が来るまで俺は説明をした。
パーティーを組もうとしたこと、そこで一悶着あったこと、その後にあの男に会った事。
ステーキが来た後も説明を聞きたがったので、食事をしながら話し終える。
「なるほど……もぐもぐ。それは、災難だったな」
どこに消えているのか、巨大なステーキが口の中に放り込まれては消えていく。
大柄ではあるが、そこまで食べれるのか。
というか机の上がステーキで埋まっているんだが一人前じゃないのか。
「ん? なんだ食べたいのか。ほれ」
食べ終わった俺がガーネットが食べている様子を見ていた俺を足りないと勘違いしたのか肉を切ってフォークで刺し、突き出してくる。
「いや、大丈夫だ」
「遠慮するな。ほれほれ」
「ちょ、いや本当に良いんだって」
口元に執拗に持ってこようとするガーネット。
しばらく抵抗していたが諦める様子がないので、仕方なくため息を吐いて食べる。
……肉だな。いや、不味いわけではないんだが凄い肉の味だ。
「あっはっは。おっと、待たせるのも悪いな」
スピードを上げてそのまま食べ始める。
食べながらガーネットはふと気づいた様に言った。
「そういえば間接キスだったな」
「ごほごっほ! 水飲んでいるときに真顔でそういう事言うなよ!」
ピタリと動きを止めて口から出したフォークを真顔で見つめるガーネットの姿と合わさって水が気道に入った。
「お、なんだなんだ照れているのか。可愛いやつだな!」
笑いながら残りの肉を平らげていく。
やがて、食べ終わった皿も下げられて一旦の小休止タイムだ。
「ふう、少し足り……満腹だ」
「普段もっと食べてるんだろ、食べりゃいいじゃないか」
「そこはわずかに残った乙女心というやつだな!」
残っているのか、というのは流石に失礼か。
と、そこでふと思った事があった。
「ランク9って言ってたよな? と言う事は、ガーネットも出るのか、新王杯」
その言葉が出ると、ガーネットは少し驚いたように声を出す。
「そのつもりだが、ユウも出るのか?」
「一応そのつもりだ」
その言葉を聞くと、少し考えた後。
「ということはもうチームも決まっているのか?」
「…………一応な」
まあ、ティリアス、アルマダ、マキナかね。
不安でいっぱいだが。
「そうか、であればオレ達はライバルって事になる訳だな!」
ニヤリと笑うガーネット。
そうか、新王杯に出るって事はガーネットと戦うことになるわけか。
「お互い手加減は無しだ。そしてどっちが負けても恨みっこなしでいこう!」
その方が面白いと言わんばかりに堂々と宣言する。
真っ直ぐな気質に当てられたのか、俺も自然と笑みが溢れる。
「あぁ、けど、俺も負けねえぜ?」
「良い覇気だ。……なら、どちらかが優勝したら祝勝会を開こうか」
そう提案してくる。
「気が早いな。優勝できるかすらわからないのに、それに、今日会ったばかりの俺を誘うなんてな」
「何を言う。優勝するという意思を強く持たなければ意味がないだろう。だからこそ、オレはこう言う」
立ち上がって、俺の方に手を伸ばす。
握手を求めるような格好で、ガーネットは言った。
「決勝で待つ!」
……まるでスポ根漫画みたいな展開だ。
だが、しかし。
悪くはない。
俺は手を握り返して言った。
「あぁ、決勝で会おう」
普段のキャラではないが、まあこういうのもたまには良いだろう。
「ああ! ではデザートといこうか」
「まだ食うのかよ!!」
しまらない展開だと、少しばかり笑いながらデザートを食べるガーネットを見る。
そしてデザートを数分で食べ終えたガーネットと店を出た所で声をかけられた。
そう、会いたくはなかった。
【TIPS】
肉と言っても食べられる種類、食べられない種類がある。
むろん毒のありなしはあるが、魔獣の肉が大きく違うのである。
魔獣自体の肉はもともと動物ということもあり食べられる事も多いが、魔力を多少なりとも取り込むことになるため
ある程度の実力がないと気分が悪くなったりするのである。
なお、一部の地域、国はどんなものも食べられるようにする熱い熱意があるそうだ。




