43話 日曜の朝
幸いなのか、それとも意思の通りなのか。
銃だけを両断した後すぐに光の刃は消え、周りに被害を与えることはなかった。
「武器を人に向けるって事はよ、どうなっても構わねえって事で良いんだよなっ……」
久しぶりに少し怒りを感じる。
何だこいつは。
自分勝手に騒ぎ立てて銃を人に向けて、挙げ句、アリスにも銃口を向けるだと。
「ちっとやりすぎじゃねえのか……なあ?」
威圧した覚えはない。
だが、俺の雰囲気に押されたのか、後ろにわずかに下がる男は、その事を恥じるように一瞬顔を強張らせ、虚勢を張る様に声を荒げた。
「てめえ! 何しやがった! 俺の、俺の武想になにしやがった!!」
「脆すぎだろ、一撃で切れるなんてメンテが足りてねえんじゃねえのか?」
そもそも、固有武想が壊れたり切れたりするのは初めて見たが。
……やっぱあのハンマーはやばかったかな。
(万一壊れてたら修復に時間かかりますよ)
(修復出来るのか。なら問題なかったな)
(藪蛇)
「ぶ、武想を斬るなんてよほどの力差が無いと出来ないはず……」
なんだ力差があれば出来るのか。
てっきりなんだっけ、こいつの、あのあれだ。面倒くせえ魔法切りで良いだろ。
魔法切りの能力かと思ったが、そうでもないのか。
「……やるっていうなら相手になるが?」
正直、俺はあんまり戦闘が好きってわけじゃない。
だが、こういった奴を見逃すほどお人好しでもない。
もちろん殺すつもりはないが、痛い目に遭わせてやるという気持ちぐらいはある。
「な……ま、待ってくれ……」
「武器がなくなったらそれか? 武器が無い相手に武器を向けておいて、それは通らねえんじゃねえのか」
ざわりと心が震える気がした。
あの、クラウに復讐すると決めたときのような、何か黒い物を感じた。
オレに、何かが入ってくるような。そんな感覚だ。
だが、気持ちが悪いわけでない。
むしろ、高揚している気がする。ならばと、オレはそのまま身を任せてやろうかと思い始めた。
腕の一本ぐらいは、ふっとばしてやろうと。
その時。
(───まだ早ぇ)
トゥールーではない、別の声が一瞬聞こえる。
その瞬間、俺の心がふっと軽くなる。
そして冷静になって頭を振るう。
何やろうとしてんだ。
確かに武器を向けたのは良くない行為だが、まだ傷付けたわけじゃない。
そして、相手は武器を失って戦意も喪失している。
それなのに、腕を吹き飛ばす? ……やりすぎだろ、流石に。
それをやったら同じ穴のムジナだ。
「……パーティーは組まねえ。理由は、言う必要はないな?」
返事を聞かずに俺は剣をしまう。
しかし、詠唱せずに出たのは初めてだな。
一体なんでだろうか?
(回答。共鳴率が上がったからです)
と、そこでトゥールーから返事があった。
そう言えばそんな話もあったな。
(共鳴率とやらが上がるとそんな事もできるのか。しかし、何故急に上がったんだ?)
(……後でお話します。今は、この場を収める事が良いです)
(……ま、黙ってるより全然マシか)
「アリス、アイアンウルフはどこに居るんだ?」
急に話を振られたアリスはわたわたしながらも書類に手を伸ばし目を通すと
「え、ええと。ここから西の森やけど」
「俺一人で受けても構わないな?」
それはアリスと後の三人に向けた言葉だ。
「ウチは構わへんけど……」
視線を三人に向けるが、驚いた表情から変わっておらず、何も回答はない。
「……まあええんちゃうか。でも大丈夫なんよね?」
「ああ、力は見せたとおりだろ?」
その言葉にびくりと身体を震わせたのはガルと言われた男だ。
こちらに視線を向けようともしない。
……情けねえ。力が上の相手にはこんなのかよ。
「行ってくる。そいつらは、任せていいか?」
もう危険はないだろう。
そう判断してギルドを出る。
「わかったで。……気をつけてな」
「ああ、サンキューアリス」
それでも変わらず俺に声をかけてくれるアリス。
その言葉で、怯えた目を見せる三人の視線によって少し俺に影を差した所に、安らぎを感じた。
(さて、今度は話してもらうぞ。共鳴率の話と、後聞いたことない声がなんだったか、お前なら知ってるんじゃないのか?)
ギルドを出た所で俺はトゥールーに話しかける。
意外にも、トゥールーは普通に話し始めた。
(回答。マスターはアルトリウスとティルトニクスを何度も使い、力を制御しつつあります。その御蔭で、共鳴率も上がっているのが一つ)
(使っていれば上がるとは言っていたが、なるほどな。……もう一つは?)
(マスターの2つ目の問の回答にもなりますが……マスター、ご自分の剣の名前はご存知ですよね)
言われて自分の武器の名前を思い出し、一つ推論が浮かんだ。
(真と偽の境界剣……ひょっとして、もう一人居るのか? トゥールー、つまりトゥルーともうひとつ、ライズが)
(正解。その通りです。マスターの怒りによって少しだけ目覚めた様です。その影響で、共鳴率が上がったのかと)
怒りによって目覚めるってどこの戦闘民族だよ。
しかし、それだとおかしいな。
(何度か、俺も怒りを覚えたことがあるが、何故このタイミングで?)
直近で思い出すのはハルサラの販売所の所だ。
ダルダダーンの事で、俺は怒りを覚えた筈だが。
(……もう一人。名前はリズ。そのリズは、怒りや悪意などの負の感情によって力を増します。ただ、好みがあって誰かのため、では動かないのです)
(あの時は悪魔達のことを思って、てことだったからか? だが今回は一応アリスとかも気にしてだったはずだが)
(もう一つ、リズが気にいった状況かという事もあります。……自分より弱い者をいたぶるという状況が気にいったか、逆に舐められた事が気に入らなかった、という事かと)
とんでもねえ奴が居るな。
聞いただけで性格が悪そうだ。
(そして可能であれば、リズの力は使わない方が良いかと)
(ん、まあ話を聞く限りはあまり良いやつではなさそうだが、力?)
(はい、リズと私は表と裏。マスターが使う【真なる白夜の王】は守護の力。だからこそ反動も少なく済みます、しかしリズは攻撃的、その分反動は強大です)
(反動ね、どれぐらいなんだ?)
(死に至る可能性が高いです)
きっぱりと言い切ったトゥールー。
……こいつは色々問題もあるが、嘘は言わない。
つまり、実際使えば本当に死ぬかもしれないという事だ。
……だからこそだろうか。
不思議とリズがそれほど悪いとは思わなかった。
なぜなら、あの時止めた声がリズだとすると、死なないように使わないようにした、というのは甘い考えだろうか。
「待ちやがれ!!!」
と、そこで聞き覚えがあるような声が響く。
後ろを振り向くと。
「……なんだお前か」
先程のチンピラ。ガルとか言ったか。
大分ギルドから離れてきたが、俺をわざわざ追いかけてきたのか?
暇なやつだな……。
「くそ、くそ! てめえのせいで俺の評価が下がって、ランクが10に戻っちまったじゃねえか!!」
「知らねえよ自業自得だろうが。実力があるならまた上げ直せばいいだろうが」
「うるせえうるせえうるせえ! てめえのせいだ、てめえのせいで俺は……俺はな! 天才なんだ!」
何をいきなり言い出すんだこいつは。
何とか流神拳とかつかうのか?
「ギルドに登録してわずか一ヶ月でランクを9まで上げた! 持っている武想も、絶対命中って強力な能力だ! お前みたいなクソガキに、負けるわけがないんだよ!!」
絶対命中ね。そりゃ強いな。
だからって話だが。
「ああそうかい。なんだ、リベンジにでもしにきたのか?」
若干ため息を吐きながらそう告げる。
まあ、相手にしてほしいっていうんなら相手してやらんでもないがな。
正直負ける気はしない。
「へ、へへ……武想も壊れた俺じゃ勝てないなあ、でもよお! だからこそ、もうどうなっても構わねえんだよ!」
そう言って取り出したのは黒い箱。
何だあの箱? 手に乗るぐらい小さい箱だが。
「これが何かわかるか……?」
「知らねえよ、プレゼントか? 誕生日には早いぞ」
「プレゼントね、合ってるぜ……お前への、死のプレゼントだ!」
叫びながら箱を地面に叩きつける。
黒い霧が飛び出し、何か形を作っていく。
そして、現れたのは。
「ははは……たまたま貰った黒の厄災。その中には……封印された魔獣がいるってのは本当だったな!」
まず出てきたのは巨大な毛むくじゃらの腕と足。
そこから全員も毛で覆われた、まるでイエティを思わせるような生物。
少しチリチリする。勝てない相手では無いと思うが。
「オオオオオオオオオオオォォォ!!」
だが、そのイエティは何思ったか、暴れだす。
胸を叩く当たりゴリラなのかもしれないが、2m以上はある巨体が腕を振り回すだけでもかなりのものだ。
特に、暴れて砕けた地面の破片があちこちに飛び、関係ない人まで巻き込んでいる。
「おい、目的は俺だろうが、暴れさせるんじゃねえよ!」
「はは、こいつは俺の命令も聞かねえ、ただ開放しただけだ……なんとかしたいなら、自分でなんとかしてみろよ」
駄目だこいつ早くなんとかしないと。
とりあえずアルトリウスでも起動しようとした、その瞬間だった。
「待て! 町中での狼藉、見過ごせん!!」
どこからか降りてきて俺の眼の前に着地したのは、一人の女性だ。
だが、かなり背が高い。180以上はあるだろう。
灰色のマントを閃かせその女性はこちらを振り向く。
「少年、怪我はないか? 安心しろ、今オレが奴を倒す!」
そう言って笑顔をみせて親指を立てる。
なんかすごい爽やかな笑みだ。
「怪我はないが、大丈夫か? 結構強そうだが」
「問題ない、そして強かろうが弱かろうが、人に害成す者を見逃すことなど出来ない!」
そう言い切ると、右手を掲げる。
「我が道は唯一つ! 弱きを助け強きを挫く、己の正義をここに!『曇りなき意思』! 武想顕現!」
すると、ベルトが装着される。
……ベルト? ま、まさか!?
彼女はもう一つ現れた、手に持った赤い宝石のようなものをベルトにはめ込む。
そして見得を切る様に右手を前に突き出しながら俺の想像の通りに、彼女は言った。
「───変身!」
【TIPS】
日曜朝の番組は通称スーパーヒーロータイムと呼ばれるらしい。




