41話 やると思ったときには!
「宜しいでしょうか?」
「ああ、頼む」
そう言って俺はエクレアさんに声を掛ける。
ぐっすりと眠った後、俺達は城の入口に居た。
瞬間移動で戻るためだ。そこには全員が揃って見送りに来てくれていた。
「ユウ兄ー! 元気でーっすよー!」
チルは両手を振って見送っているし。
「新王杯の際は我も観戦に行くからな。参加できない、なんて事無いようにするであるぞ」
腕を組みながらもそんな事を軽く笑いながら告げるシルヴ。
「それでは送り届けて参ります」
いつもの通り、そう言ってシルヴに頭を下げるエクレアさん。
「世話になったでござる」
こちらに背を向けてお礼を言うマキナ……ちょっとまて。
「おい、なんでお前こっち側なんだ。向く方向が逆だろ」
こっちにケツを向けるんじゃねえ。
ああ、もちろん今は服を着ている。
真っ黒なゴスロリ服だ。フリルとかがめっちゃ着いている。
「あたし着いていくから! よろしくな!」
「何一つよろしくねえよ。定員オーバーだ、これ以上ポンコツを抱えきれん」
「まるであたしがポンコツのように言うではないか」
「そう言ってるんだ」
「まあまあ良いじゃないですか」
と、そこで助け舟を出したのはティリアスだ。
「一緒に行きたいって気持ちは尊重しましょう」
「そうだねー! マキナが居れば助かる事も多いよー!」
「……お前ら、マキナに何吹き込まれた? それかワイロか?」
いつものコイツラじゃねえな。
普段だったらこんな物分りがいいわけがない。
「べ、別に……」
「さ、さぁ……」
「おう、明言してみろや。マキナから何も言われてないし貰ってないとな……どうした言えんのか?」
冷や汗をかきながら明後日の方向を見る二人。
こりゃ確実に買収されてやがる。
「いいじゃんー別にいいじゃんー連れってってよパパー」
「誰がパパだ誰が。駄目だ駄目だ」
コレ以上増えると手がつけれん。
ただでさえトゥールーが話してない中でコレだ。
収集がつかなくなるだろうが。
「あのねー知ってる? 新王杯ってチーム戦なんだよ」
「初めて聞いたぞ……チーム戦?」
それに反応したのはシルヴだ。
頷いて補足する。
「うむ、過去から4人のチームで挑む形式のはずだ」
「4人……」
俺、アルマダ、ティリアス……一人足りねえな。
トゥールーは戦闘参加出来んしな。
「そう! むしろあたしは誘われる側なのだよ! ……今なら無料で着いてくるよ?」
「シルヴじゃだめなのか? 戦闘面では申し分ないが」
シルヴはその言葉に苦笑いを返す。
「気持ちはありがたいがな、流石に我は無理だ。ギルドに登録というのも好かないし、多少なりとも名前が通っていてな、参加は断れるだろう」
「まあ、新人って言うには流石に無理があるか……その点で言えばアルマダもじゃないのか?」
「ボクは名前が知られてないからね! 大丈夫だよ!」
そういえば使い魔になって記憶を溶かす事がなくなったが、記憶が消えていくんだったか。
「でも強いやつは覚えているんだろ? なんか言われないか?」
「た、多分大丈夫……有名でもないし」
言い切れない所に不安を感じるが……まあ最悪別のやつだな。
「エクレアさんは?」
「そんなにあたしを仲間外れにしたいの!?」
そんな抗議は受け付けずにエクレアさんに声を掛けるが、首を横に振られる。
「お誘いは有り難く思います。しかし、わたくしはこの城に仕える身。お許し下さい」
「まあ、エクレアさんはそうか。……うーん」
ちらりとチルを見るが、ぶんぶんと首を横に振っている。
「む、無理っす! そんな人がいっぱいいそうな所絶対無理っす!」
ダメそうだ。
「…………うーーーん」
「そんなあたし駄目な所見せた!? いいじゃーん、仲間にしてよー、いえーい」
謎のポーズを決めるマキナ。
「……………………しゃあねえか」
「今めっちゃ苦渋の決断みたいな顔しなかった?」
あってるぞ。すごく悩んだからな。
別の人間をギルドで誘う線を真面目に考えた。
とはいえ、それもリスクが高いか。色々とな。
「ビームしか見てないが戦えるんだろうな? 一発撃って終わりのポンコツ兵器はいらんぞ」
「だいじょーぶだいじょーぶ」
ピースをするなピースを。そういう所が信用しきれねんだって。
「はあ、仕方ないか。きっちり働けよマキナ」
「ういっすがんばりまーす!」
やむなく俺は同行を認めた。
笑顔で敬礼をするマキナ。
「ふふ、それでは話は纏まった様ですので、移動致しますね」
「頼む。……じゃあなシルヴ、チル」
「またくるのである。待っておるぞ」
「待ってるっすよ!」
その声を聞きながら、景色が歪む。
戻ってきたのは、元のティリアスの家だ。
「それでは、良き生活をお祈りしております」
そう言ってエクレアさんは消えていった。
……短い間だったが結構な収穫があったのはよかった。
「うわ、ぼろ。廃墟?」
「あ、あはは……」
「ティリアスの好意で居させて貰っている場所だ、わかるな?」
「う、ごめんなさい」
「い、いえ本当の事ですからね……」
そう言いながらもショックは受けているらしい。
言いたい気持ちは、正直分かるが、言って良いことと悪いことがあるだろうが。
ってそうだよ。
「よくよく考えれば今までここで集まることはあっても宿として使った事なかったな。……宿探しをしねえといかんな」
「え? ここで寝れば良いのでは?」
「わざわざ宿借りる必要ないよねー?」
「まーあたしは場所さえあれば別にどこでも寝れるし」
お前寝る必要あるのかよ。
「いや、駄目だろ。色々な意味で」
「おやおやー! 色々って何かなー! なんだろうなー! あたしわかんなあああああああああ!」
「アイアンクローって知ってるか。顔面を掴んで握る技何だがな?」
「いま受けてるやつですねわかります!!」
ったく、本当こいつは別ベクトルで面倒なやつだ。
その横できょとんとするティリアス。
「えっと、なにか問題でも……?」
「お前、マジか……俺から言うのも何だけどな、生物学上女性が3人いる中で俺が一緒に寝たり住むのはまずいだろ」
「なんで生物学上をつけたんですか。ああ、そういう……何でしたっけ。男女同衾せずでしたっけ」
前文抜けてんぞ。それだと恋人出来ねえだろうが。
いや、前文付け加えても同じか。
「ボクはご主人様にそういった事を気にする事に驚いたけどね。ボクの格好に特に何も言わなかったし」
お前その服わかって着ていたのか。
ってかもはや服じゃねえよなコレ。
局部だけ隠している服とか服の機能果たしてねえし。
「ただまな板には興味がないだけじゃないの?」
「ぶっ壊すぞ! マキナだって同じじゃん!」
「違いますー! ツーカップぐらいうえですー!」
「は? 水も流れないぐらい平に見えるけどね!」
「あるし? 超あるし? 盛れば百倍ぐらいになるし?」
「せんでいいせんで……百倍にしたら奇乳通り越して武器だろうが」
仲がいいやら悪いやら。
ちなみに、アルマダは平。マキナは微。ティリアスは巨だ。
……おいこっちを見るなお前ら。
「まあみんな気にしてないみたいだしいいんじゃない?」
「良くねえよ。大体ベッドも一つしかねえんだぞ」
「皆で一緒に寝れば大丈夫じゃないですか?」
「どう考えても二人でいっぱいいっぱいなんだが」
「詰めればなんとかなるんじゃないー? 多分だけど!」
「なるか。落ちるわ……俺が床でアルマダとティリアスがベッドでマキナは壁か?」
「柔らかい布団を所望する」
「お前さっきどこでも言っていっただろうが、で、俺も出来れば床で寝たくない。だから宿を借りる、OK?」
現代人だからな。
床で寝たくないし、隣にポンコツとは言え女性がいる状況で寝れるほど図太くはない。
ごく普通の一般人なのだ俺は。
「むー! つまんないー!」
「つまんないって何だよ……さて、俺はちょっと出かけてくる」
「お? 色街か? あたしにムラっときちゃったか?」
「こいつはっ……! ギルドだギルド! 新王杯の事も聞かなきゃならんしな」
行ってらっしゃいという言葉を後ろに俺は家を出た。
ったく、マキナは輪をかけてポンコツか。
……さて、一人になったことだし。
ギルドに行く途中にもう一つ片付けておくか。
(トゥールー。聞こえるな?)
返事はない。
声に出してもいいが、それだと怪しい人だと思われてしまうからな。
(トゥールー返事をしろ)
……ほう。
(最終警告だ。これに答えないと大変なことになる)
…………いいだろう。
お前覚えてろよ。
俺は決意を胸に抱いてギルドに向かった。
「新王杯? なんや出るんか?」
ギルドに入った瞬間、こちらに駆け寄って声をかけてきたアリスに対して話を聞いてみる。
……てかすぐこっち来れるって仕事してんのか?
「ああ、一応出ようかと思っていたが何か問題でもあるのか?」
「それなりに強いやつが出てくるからなあ。とは言え、出る分には問題ないで。でもちょっと実績が足らんなあ」
書類をぺらぺらとめくりながらそう言うアリス。
しかし実績?
「実績って何だ? ランクとは違うのか?」
「んーまあ似たようなもんやね。依頼とか討伐をこなせばこなしたという実績が出来るわけや。んで、それが貯まるとランク昇格するって寸法や」
経験値みたいなもんか。
というか普通に実績なのか。
「新王杯って新人って聞いたが、実績とか上げていいのか?」
「ああ、新王杯は新規登録から一年以内であれば参加権があるんや。けど人数の水増しや談合を防ぐためにある程度の実績かランクが必要っちゅーわけやな。ちなみに再登録は出来るけど参加権はないでー」
なるほどな。
確かに再登録とかで出れたら新人とはいえんしな。
「けど後一ヶ月。つまり最初に登録した人間からほぼ一年間の差があるわけなんよ。大会とはいえ戦闘や……大丈夫なんか?」
心配そうに見上げるアリス。
嘘とか社交辞令じゃなく、本当に心配しているらしい。
「まあ、やれるだけやってみるさ」
肩をすくめる俺。
実際どれぐらいの相手が出てくるかわからない。
ティルトニクスを使えば行けるんじゃないかとも思うが、同じような強敵が居ないとは限らないし、大会という場所では、決勝以外では使えないだろう。
使ったら倒れそうになるしな。もう少しなんとかならんかね……。
「ん、ならウチも応援するで! 目指せ予選突破!」
「目標低いなおい。ってか予選もあるのか」
「あるでー。予選を行ってから本戦や。ちなみに全部トーナメントやから、弱い相手に当たることを祈るんやで」
「……いや、大会で弱い相手を願うってどうなんだろうな」
「それもそやな。っと、良いのがあるで。アイアンウルフの討伐や、パーティー募集もあるしこれおすすめやで」
そう言って机の上に出した一枚の書類。
なになに、アイアンウルフ五体の討伐……アイアンウルフって確かハルサラに行く途中で会ったあのハリネズミ狼か。
ん? パーティー3/4? 一名募集?
「この一名募集ってのは?」
「ああ、既に三人集まっているパーティーがあと一人募集しとるってことやね」
そういうことか。
……あの狼に四人? 多くね?
「過剰戦力じゃないのか?」
若干呆れ顔でそう返した俺に対して指を振ってチッチッチと口で言うアリス。
「甘い。甘すぎるで。アイアンウルフは強敵や、今のランク10のユウじゃ勝てへん」
勝てへん、ねえ。
「今回のパーティーはランク9の三人や。色々教えてもらうとええでー」
ああ、一応教導の意味を込めておすすめしたのか。
やるじゃんアリス。
ん? ふと思い出したが、俺って確かクラウの時力を使ってたような……。
あれを見ればある程度強さがわかるんじゃないのか?
「なあ、お前クラウとの戦闘の時居なかったのか?」
すると、不思議そうに首を傾げる。
「え? クラウと戦闘? そんな事あったんか?」
おいおい、ギルドの前であれだけ騒いで知らねえって……ん。
ああ、覚えてないのか。
そういや、あの時アルマダが居たから記憶が無くなってるんだな。
「いや、いいさ。んで、その三人ってのはどこにいるんだ?」
「そろそろ時間やからな。待ってれば来ると思うで。だから椅子にでも座って待ってれば大丈夫や」
「そうか、じゃあ待たせてもらおうかね。ああ、そうそう」
重要な要件を忘れてた。
「ここに暖炉とか炉とか火でも良いが、そういうのないか?」
「そういうのは鍛冶場に言って欲しいなあ。火石くらいならあるけど、何に使うん?」
火石か、確かティリアスが家で使ってたな。
赤い石で叩くと火が出る石だ。火打ち石とは違って、石そのものが燃え盛るやつだ。
小さめの石はよく料理に使っているが、大きさによって火力も違うらしい。
「剣を炙ろうと思ってな」
「!?」
(!?)
「な、なんでそんな事を? 焼入れは鍛冶屋でやってもらったほうがええで?」
「そりゃ鋳造の時だろうが、何、ちょっと焼きを入れようと思ってな。ハンマーでもいいぞ」
「ハンマーを何に使うん? 人でも殴るんか?」
「大体合ってるかもな。剣をぶっ叩く」
(!?!?)
「折れるんちゃう……それ」
「固有武装って折れるのかね。……実験にもなるだろ」
くくくく、痛めつけてやるぜ。
都合の悪い時は黙っている調子のいいヤツに一発ガツンとくらわせてやらんとな。
言いたいことだけ言って都合が悪いと黙るようなメンヘラポンコツ剣にはな。
(きょ、拒否)
「一番大きくて硬いやつを頼むわ」
「それは火石の話か? それともハンマーの話かいな?」
「両方だな」
(懇願。やめて下さいです)
幻聴が聞こえるなあ……まあ知らん。
目には目を。歯には歯を。無視には無視をってな。
「わかった……持ってきたで、とりあえずハンマー」
すぐ戻ってきたアリスが一抱えして机にドンとおいたのは巨大なハンマーだ。
これなら剣なら簡単に砕けそうだな。
(し、質問。……本気です?)
「借りるぞ。む、重いな」
かなりの重量だ。けど持てないほどではない。
これなら振り下ろした時の威力も高いだろう。
「やるなら外でやってな?」
「おう、ありがとな。後で返しに来るわ」
そう言って俺は表に出た。
流石に大通りでやるのは気がひけるので少し離れ小道の人気の少ない所に腰を下ろす。
そして剣を取り出す。
(じょ、冗談ですよね?)
剣を床に置く。
(本気ですか!? も、もし砕けたりしたらどんな影響があるかわからないんですよ)
ああ、きっと馬鹿な事をしているんだろう。
けどな、お前は一つ忘れているぞ。
「俺はやる、といったらやる男だ。脅しなんて陳腐な事は言わん。二度と逆らえんようにしてやる」
ハンマーを振り上げる。
(わかりました! わかりました! 今度からそんな事はしません!)
(……最初からそう言えば良いんだよ)
(うぅ……マスター怖いです)
(だがな、それはそれとして)
(え?)
「おらああああああああああああああ!!!!!」
ガァン!と凄い音が響き渡る。
何事かと通行人がこちらを振り向くほどだ。
(きゃあああああああ!!! ほ、本当にやった! 本当に!!)
(俺はなあなあで済ます男ではない。最終通告はしたはずだ)
「おら! おら! おら!」
ガンガンガンと剣に向かってハンマーを振り下ろし続ける。
普通に考えたらバカだろうな。
自分の力を失うかもしれないようなこんな頭のおかしい事をするとは。
だけどな、こいつ何度も話をボイコットするし?
肝心な話は言わねえし?
あげく新王杯で勝ったら話す?
「何様のつもりだごらああああああああああああ!」
その後、俺はトゥールーが完全に泣き出して懇願し、二度とそういった事を言わない様にキッチリ釘を指した上でようやくやめてやった。
【TIPS】
既に実行している。




