40話 だーんじょーん!
「新王杯? なんだそれは?」
二人を見れば首を振る。
うーむ、聞いた限り大会みたいなイメージがあるが。
「新しい王でも生まれたのか?」
「いや、そういう意味ではない。新しい者から王が生まれる、という意味合いだ。順番に説明しよう」
人差し指を光らせると、空中に文字を書き始める。
おお、結構かっこいいなそれ。空中文字はちょっと魔法っぽいぞ。
……いや散々魔法を使っておいてなんなんだとは思うけどな。
なになに、1から10までの数字が並んだがこれは?
「これはな、ギルドが発行しているランクだ。これが低いほどつまりは強く高名であるといえるであろう」
ランクか。AとかSSとかじゃねえのか。
低いほどって事は、ランク1が最強ってことなんだな。
「それでだ、ギルドに登録してから一年経たない者、つまりは新人を集めて戦わせる大会がある。それが新王杯」
なるほど、新人戦とかルーキーズカップとかそういう意味合いなのか。
「なんで戦わせるんだ?」
「うむ、ギルドに登録するもの、冒険者と呼ぶのだがそれらは基本的には魔獣を狩っていたりするのだが、高ランクになればなるほど知識や知恵、つまりは人に親しいモノを討伐するようになってくる。……例えば、吸血鬼の女王、とかな」
にやりと笑う。
「そりゃアンタだろうが……まあわかっていっているんだろうが、何だ、討伐される予定でもあるのか」
「ない。が、討伐されない保証もない。人には害をなしてはいないつもりではあるが、どこで恨みを買っているかわからんのであるからな。依頼されればギルドとしては対応するであろう」
それ良いのか……?
どんな人間、人じゃないけど、そういった善良な人でも討伐されるって。
「安心するが良い。大抵とんでもない報酬額を用意する事になるのであるから、そんな事を酔狂で用意できる者はいない。仮に居ても、そういう人間は理由がなく討伐依頼を出したりはせぬし、受ける者もそもそもおらんよ。もし出したとしても、出した人間性を疑われる様な依頼は出せぬ」
需要と供給がないわけか。
まあそりゃそうだよな。俺だってそんな依頼受けたくないし。
ああ、だから出せないのか。むしろ相手次第では出したやつに敵意を持つかもしれんからな。
「まあ、あくまで礼だ。いわゆる悪い我の様な存在を退治するにあたって、対人戦も必要と考えたギルドの対策の一つがこの大会というわけだ。他にも色々開かれてはおるぞ」
ギルド慣習のPVP。プレイヤー対プレイヤー戦で、対人スキルを磨かせるってことか。
それが結果的に強大な敵対策にもなると。なるほどな。
「なんでそれに参加しないといけないの?」
そこで純粋な質問をしたアルマダに対しもっともだと回答を返すシルヴ。
「うむ、理由は二つある。一つはお主達が今後、同じ様にその翁とやらを探す際に行けない場所が出てくる。それはいろいろな理由があったするが、それを緩和するのがランク。つまりランクを上げれば行ける所が増える、それだけ手がかりも見つけやすくなるというのが一つ」
いわゆる高レベル専用ダンジョン、みたいなもんか。
まあそういう場所もあるだろうな。
一見さんお断りとか。
「もう一つ、というのはなんでしょう? 何か良いものが商品で出るとか?」
「ほう、良い所を突いておる。確かに新王杯では優勝すれば良いものが手に入る。時期によってまちまちだが、まあ大体は神器を授けられる」
『駄目です』
こういう時だけお前は出てくるんだからもう!!
あんな意味深に消えておきながらこういう場面で出てくんな!
『絶対駄目です!』
……お前が協力的じゃないと俺も神器に乗り換えたくなってくるんだが?
『…………やだもん』
もんじゃねえだろうが。
ったく、ようやく喋ったかと思えば自分の要望だけ伝えて、そして意味深な事だけ伝えて回線切断。
それで自分以外使うなってちょっとわがままがすぎるんじゃねえか?
『それは……』
お前が俺に対して、色々やってくれてるのはわかるさ。
けどな、言わなきゃ俺にも伝わらねえ。
伝わらなきゃ信頼も出来ねえ。
言いたいこと分かるよな?
『……もう少し、もう少しだけ』
駄目だ。丁度いい機会だしこの際ハッキリと
「ユウ? どうした?」
っと、思考がトゥールーの方にいきすぎてしまったか。
「悪い、ちょっとトゥールーが神器で騒ぎ始めてな……そもそもこいつが何者なのかってところを問い詰めている所だ」
「ふむ、意思を持つ固有武装か。それでなんと?」
「今まさにそれを聞いている所だが……どうにもな」
さて、どうするかと考え始めた時に。
『新王杯。それが終わったら、お話します。全てを』
……何故そこで新王杯が出てくるんだ?
ただの時間稼ぎじゃねえだろうな?
『否定。区切りとしては、そこが良いと判断したのです。だからマスター、どうかそこまでは……』
うーん。
……っち、しゃあねえ。
だがこの約束を破った時は覚悟しろよ。
溶鉱炉に突っ込ませても文句言わせんぞ。
『恐怖。ぜ、絶対に話しますです』
「……新王杯が終わったら話すってさ。ったくなんで新王杯なんだか」
やれやれとため息を付く俺に対して、シルヴは難しい表情を見せていた。
「どうした?」
「いや、もしかすると知っていたのかと懸想をな」
「知っていた? 何をだ?」
「うむ、我が新王杯を奨めた理由の最後の一つはな。優勝すると、ある権利が手に入るのだ」
シルヴはそうしていった。
だが、その名前を聞いて俺は納得した。
「機械仕掛けの時計塔。そう呼ばれるこの世界で最も高く、未だ踏破されていないダンジョンへの挑戦権がな」
……なるほど、それは確かに、関係がありそうだ。
しかし、ダンジョン?
「この世界にダンジョンがあるのか?」
「うむ? ダンジョンを知っているのであるか?」
「いや、知っていると言うか……」
参ったな。ゲームとかで知っているとは言えない。
「ふむ、事情がありそうであるな。まあ今は詳しく聞かんのである。ダンジョンと言われるのはな、土地、あるいは建物が強い魔力を持った場所を指す」
「魔力を?」
「うむ、強い魔力を持つとな、自然とその魔力に引かれて魔獣やらがあつまる。そうやって数多くの魔獣達が住み着くわけだ」
「ってことは、ダンジョンってのは魔獣の住処って事か?」
「大体あっておる。だが強い魔力に身をおくことで強くなっていく、魔獣同士の生存戦争もあってな、普通の魔獣よりも強いのだ」
なるほどな、ダンジョンが強い敵なのはそういう理由なのか。
いや、ゲームと一緒にしちゃいかんな。
「それだけではない、物にも魔力が宿る。魔力が宿って、それは神器となるのだ」
「神器ってダンジョンから出来るのか!」
宝箱とか武器がある理由は……ってだからゲームと違うって。
「そもそも神器とは魔力を秘めた物体の事を示す物だ。まあ最も、だからこそ神器と言ってもピンキリだ。使い捨てのものもあるのである」
「なるほどな……ああ、ちょっとした疑問なんだが、その理論からすれば魔力を込めれば神器って簡単に作れたりしないか?」
その問いにほうっと感心した様な顔を見せるシルヴ。
「間違っては居ない。故に人工的に作られた神器もある、それはティリアスが詳しいのではないのであるか」
水を向けたのはティリアスの方だ。
しかし、ティリアス?
「ヒノトには紙に魔力を込めて使う符術と呼ばれる魔法があります。広義的に言えば、その符も神器、ということですね」
符ってあれか、よく神社に売ってるやつ。
あれも神器か……とたんに身近に感じて価値が落ちた気がするのは何故だろう。
「そういった神器などを作る者を錬金術師や鍛冶師と呼んだりもするが、まあそこはおいておくのである。つまり強い敵が出るダンジョンはそれだけ神器を手に入れることもできる、一攫千金を目指す冒険者たちがダンジョンに向かう理由の一つであるな」
「一つ? それが目的じゃないのか?」
「ダンジョンの固有の鉱石や魔獣の素材を狙う冒険者も居るのである。何よりも、ダンジョン踏破。これも大きな目的であろう」
「ダンジョン踏破、クリアってことだよな? でもそれってクリアしたらなにかあるのか?」
「うむ、まずダンジョンが消える」
消えるんかい!
「それデメリットだろ。貴重な鉱石とか色々拾える場所がなくなるんだし」
「言いたいことはわかるのであるが、クリアも大事な冒険者の仕事なのである」
首を振って否定をするシルヴ。
「なんでだ?」
「クリアしないと魔獣がどんどん強くなっていくし、周りに被害が大きくなるからだよー」
それに引き続いて言葉を続けたのはアルマダだ。
俺はそれに驚いた。
「お前……物事を説明できたのか?」
「ちょっと酷くない!?」
残念だが当然だ。
「むぅ~! それぐらいは知ってるんだからね! ずーっと放置していくとダンジョンの魔力も上がっていって強い魔獣が集まるし喧嘩するしで大変なんだよ。だからある程度で攻略しないと後ですっごい不味いことになるよ」
「不味いこと?」
「かつて、ダキニ洞窟というダンジョンがありました」
今度はエクレアさんだ。
「資源が取れると喜んで決して攻略をさせなかった洞窟です。最初はそれなりの洞窟だったのが、徐々に強く深くなっていきました」
……なんか物語みたいだな。
「やがて、手がつけれなくなるほど強くなっていった魔獣は周辺を襲いました。そこでようやく討伐隊が組まれ攻略に乗り出したのですが……失敗。予想よりも強力な魔獣が住み着いていたのです」
「強力な魔獣?」
「はい、外から来た強力な魔獣がダンジョンに住み着いて更に力を増したのです」
ああ、そうか。単純に元々強い魔獣が住み着くってこともあるのか。
「【骸喰らい】フェルトメール。それを主とした魔獣達はやがて、国すらも滅ぼしました」
「国まで!? そこまで強くなるのか!?」
「魔獣の強化だけでなく、魔獣化も起きる速度も加速度的に増えていきますので……」
「そりゃ、放置すると不味いってのはわかった……しかしクリアってどうするんだ?」
「うむ、基本的には最奥にはボスと呼ばれる最も魔力を持った魔獣がおる。それはダンジョンの魔力の核、ダンジョンコアの近くに住み着いて魔力を得ているから強いのだがボスを倒しコアを破壊すればいい」
「ダンジョンコアね……ちなみに持ち帰ったりは出来ないのか?」
「凄い発想をするであるな……まあそういった事をしようとした者も居たが結局その場所から動かせなかったらしい」
だめか。人工ダンジョンや素材に使えないかと思ったんだが。
「たが、コアを壊すと溜まっていた魔力が解き放たれてな、強力な神器が手に入る事が非常に多い。だから踏破にもかなりのメリットがあるのである」
ボス報酬ってわけじゃなく、ダンジョン攻略報酬ってことか。
んで、ダンジョン自体なくなるから何度もは取れないと、なるほどうまく出来ているわ。
「……で、話は戻るがその踏破されていないダンジョン、時計塔だったか? やばいんじゃないのか?」
「だろうな、しかし未だ魔獣がそれほどに強くなった報告は無いらしいのである。……最奥はどうなっているか、不安に思っている国は多いがな」
時限爆弾みたいなもんだもんな……。
「しかしうかつに人を入れて死なせるわけにも行かぬ、それゆえに強いダンジョンには制限がかかっているわけだ。その制限が、ランクというわけである」
「ようやく話が見えてきたよ。っても最奥に行くのは無理だろその話からすれば」
「最奥まで行かずとも、何か手がかりはあるかもしれんし、力試しにはもってこいであろう? こういうのが好きそうに思えたがどうだ?」
……当たり。
RPGとかハックハンドスラッシュ系は俺の好きな部類だ。
「とはいえ、神器は俺には使えないんだろ? それに、名前的にはなにかありだが今まで攻略出来なかったダンジョンだ、危険も大きそうだが」
「ふむ、まあそれも最もだがな。ユウよ、本題はそこではないのだ」
微笑を浮かべながらシルヴは優しく言った。
「お主は、ここまで働きすぎだ。故にな、ひとまずは、少し休んでみろとそういっておるのだ。新王杯はこれから一ヶ月後。それまでな」
「一ヶ月、か」
「ここまでわずか数日なのだろう? であれば、街を見回る余裕もなかったはずである。戦いも良いが、時には休息も大事であるぞ」
言い聞かすようにシルヴは言う。
……確かに、一理はある。
「そう……だな、たまには休みもいいか」
この世界に来て、俺もはしゃぎすぎたのかもしれない。
よくよく考えれば俺は知らない事も多い。
……ここらで少しばかり休憩するのも悪くないか。
「そうだな、ってもここにギルドがないから、レイヴェルトに戻ることになるか」
「うむ、明朝エクレアに送らせよう。何、もし来たくなったらいつでも来て良いぞ」
「そう言われてもな、どうやって来れば良いんだよ」
「アルマダに教えておいた。頼めばいつでも瞬間移動でこれるであろう」
いつの間に……まあ謎解きもあるし、訓練も途中だし色々やり残しはあるから戻ってこれるのは嬉しいがな。
「ひとまずは、今日の夜を楽しむが良い」
そう自信たっぷりに言ったシルヴ。
その夜、その言葉に違わず豪華な夕食であった事は間違いなかった。
【TIPS】
一攫千金を夢見るものは多い。
そして、その一攫千金の方法が多いことも事実である。
しかし、それは常に同等以上のリスクを持っている。
時に命ですらも釣り合わない程に。




