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38話 その顔はどっち

「どなどな~」

 

「やめろ怒られるわ。つか結構余裕なのな」

 

「いや、わりとエネルギー足りない。冷却機能も働かせれないし」

 

 そんなもんまで付いてるのか。

 マジでこいつなにもんだ。この世界で明らかに異質だろ。

 

「……いや、ちょっと待っててくれ」

 

「うん? ああ、りょー。ここで大人しく待ってるわー」

 

 意図を読み取ったのか素直にそう言う。

 

 俺が向かった先、それは奴隷たちがいる鉄格子だ。

 俺の姿を見て怯える彼らだったが、鍵を壊すと目を白黒させる。

 

「……俺に出来るのはここまでだ。悪いが全員を助けるなんて善意に満ちた事は言えねえ。助けた後は勝手にしろなんて無責任かもしれねえ」

 

 鍵を順番に壊しながらそういう。

 

「だから、恩とか感じなくていい。後は自由にしろ。……代わりに逃げ出せなかったとしても恨むなよ」

 

 そんな言い訳を言いながら。

 すべての鍵を壊した後俺は台車に戻って、多く感じる視線に耐えかねて走り出す。

 

「……これは偽善だよな」

 

 ぽつりと呟いた言葉に対して答えを期待したわけではなかったが、マキナは答えてくれた。

 

「それはあいつらが決めることだから、自分は善って思っとけばいいんじゃない?」

 

「……そりゃありがたい言葉だ」

 

 苦笑しながらそう答えるしかなかった。

 しかし。

 

 

 

「でもあたしは助かった。だからありがとうって言うよ。ありがとね」

 

 ……ったく。

 不覚にも嬉しいと思っちまった。

 

「それなら、よかった」

 

「でもどうやって上がるの?」

 

 俺達の前には階段。

 台車は、階段は登れない。

 

「…………お別れだ。達者でな」

 

「ちょ、待てよ! 絶対に離さんぞ……」

 

 しゅるしゅるとコードのような物を伸ばしてくる。 

 

「おい馬鹿止めろ冗談だ。……熱、まだ持てんな」

 

「愛の力でなんとかしろ」

 

「なんでもそれで解決出来るのはラブコメだけだ。……しゃあねえ。後は出るだけだしな」

 

 少し意識を集中させる。

 後は逃げるだけだ。森まで行けばなんとかなる、はずだ。

 隠れるか、迎えが来るか、どっちかは達成できるなら。

 

「<疑似英雄譚・白き誓いティルトニクス・エグゼクタ>」

 

 これで一気に駆け抜ける。

 防御に特化してるなら熱い物も運べるだろう。物って所が笑いどころだぞ。

 

「かっけえ」

 

「お前、下むいているはずだが……?」

 

「機械ですから」

 

 こいつ機械って言ったぞ。

 

「まあいい、運ぶぞ」

 

「安全運転でよろー」

 

「……今更だが、恥ずかしがったりしないのか? 機械だからか?」

 

「ばっか恥ずかしいにきまってるだろぉ? でも今は恥ずかしがる時じゃない。物分りの良い女なので」

 

「そりゃ、面倒がなくてなによりっだ!」

 

 担ぎ上げて一気に階段を駆け上がる。

 登る、というより飛ぶように何段も軽々飛ばして。

 

「はやーい」

 

「その言葉わざと言ってるだろ」

 

「てへぺろ」

 

 こいつ古い言葉を使うよな……一体本当何者なんだ。

 

 幸い、誰にも合わずに表に出ることが出来た。

 そのまま俺は全力で駆けた。

 森へ向かって全力疾走だ。

 

 ……色々あったが、なんとかなってよかった。

 なんとか、助けることが出来てよかった。

 

 ただ、俺は走りながらそんな安堵を感じていた。










「ぐっ……ここまでか」

 

 森に着き、更にその奥を駆け抜ける。

 出来るだけ街から遠くに、出来るだけ奥地には入らぬように考えながらただ足を動かしていたが、力が入らなくなってきた俺は足を止めて、座り込んだ。

 ティルトニクスを解除して、剣も消す。

 ……未だ、トゥールーからは声はねえか。

 はあっと内心ため息を吐きながら愚痴をこぼす。

 

「くそ、重いんだよ……!」

 

「レディに重いとは失礼な」

 

「ざけんな、お前何百キロあるんだよ!」

 

 見た目は完全に幼女っぽいくせにとんでもなく重い。

 いや、機械ということを考えれば当たり前なのかもしれんが、重い。

 

「そ、そんなねーし。百キロもねーし?」

 

「そうかいそうかい、で、実際は何キロか言ってみろや」

 

「女性に体重を……はい、99.999キロです。正直に言ったから、よしこいつを捨てていこうみたいな目はやめるんだ」

 

 人はそれを百って言うんだ。

 ったく通りで重いわけだ。

 

「……デブめ」

 

「ちょ、おま、おまえー! 身体の素材的に仕方ないっしょ!? 素材の重さで、あたしデブじゃないから!」

 

「ば、ばかやめろ! 俺は疲れてんだ!」

 

 わーわー騒ぎ始め俺の顔を引っ張ってくるマキナを引き剥がす。

 

「ったく、まじで身体が重いんだからやめろ……そういう意味じゃねえよ! 俺の身体の疲れの話だ!」

 

 俺の言葉に対して再び飛びかかってくる様子を見せたマキナに対して先手で声を投げる。

 しぶしぶ引き下がる当たり物分りが良い……のか?

 

 ……つかこいつずっと全裸か。

 

「お前服とかねえの? なんかゴスロリみたいな服着てたって言ったが、あの部屋にはなかったよな?」

 

「おん? ああ、服は作れるからね、っても今はエネルギー足りないからそれも作れないけど」

 

「エネルギー万能すぎだろ……そのへんから吸収できんのか? 悪魔からなんか吸収してただろ」

 

 ティルトニクスを使った反動か、身体がすこぶる重い。

 だが、まだ倒れるほどではない。あの光の奔流、オールベットを使わなかったからだろうか?

 

「あれはこの世界でいう魔力を奪ってるからねー、そこらの木じゃとてもとても」

 

 首を振って否定する。

 ……うーん流石に全裸はまずいか。

 

「……なんだその手は」

 

 手を伸ばしてくるマキナに対して怪訝な目を返す。

 

「くれ。服」

 

「俺が女性服を持っているように見えたか?」

 

「貴様の着ている服を全て貰いたい」

 

「馬鹿言ってんじゃねえぞ……しゃあねえ、上着だけはくれてやる」

 

「お、フェチか?」

 

「お前にやるものはもうない」

 

「あー! あー!!」


 またわーわー騒ぎ出しやがって! 大人しくしろこの!

 うお、こいつ! 無理やり剥ぎ取ろうとしてきやがる!

 

「っぐ、やめろこの……抵抗するんじゃねえ!」

 

「その服、貰い受け……ん? ふふふ……」

 

 なんだ、こいつ急に笑い出しやがって。

 と、突然抵抗をやめたマキナ。

 

「うおっ!」

 

「きゃー、やっぱりあたしのからだがめあてだったのねー」

 

 思わず押し倒すような格好になってしまった時、そんな事を言い始めるマキナ。

 いやまあ、はたからみたら裸の幼女を押し倒す不審者、いや変質者にも見えるが。

 原因お前だからな?

 

「ああ、このままろりこんによってあたしのじゅんじょうはけがされてしまう」

 

「はっ倒すぞお前……」

 

 とりあえず起き上がろうとしたが、起き上がれない。

 ……?

 あれ、起き上がれん。

 

 ってなんか背中に巻き付いてるじゃねえか!

 なんだこれ細いコードみたいな?

 

「っく! 殺せ!」

 

「お前……」

 

 ノリノリじゃねえか。

 俺にはお前のキャラがわからんよ。

 

「幾ら我が体を自由に使おうとも我が心までは自由に出来ん!」

 

「いいから離せや! このコードはお前の仕業だろうが!」

 

「っふ、これぞ奥義、堕威手喜砲流度」

 

「頭イカれてんのか……ってかやっぱりお前の仕業じゃねえか! 遊んでる暇は……」

 

「あたしとは遊びだったの!?」

 

「面倒くせええええええ! あれ……」

 

 もう無理やり立ち上がろうとしたら足ががくりと落ちてしまう。

 

「え、マジで胸に飛び込むとか草食系にあるまじき行動じゃね?」

 

「いや……まじで、身体が動かないんだが。何をした」

 

 身体に全く力が入らない。

 ……まさかとは思うが。

 

「違うよ。流石にそんな勝手に吸収するなんてことはしないよ」

 

「……悪い、結構疑った」

 

「そこはちょっとって言ってほしかった感。まあ言うて結構力使ったみたいだし、疲れじゃね?」

 

 そう言いながらマキナは身体を動かす。

 

「……おい」

 

「感謝していいのよ。膝枕、嬉しいっしょ?」

 

 膝を曲げて、そこに寝かされた俺はマキナに膝枕をされていた。

 

「普通に寝かせろ」

 

「なんと、こんなシチュ早々ないよ? 全裸の幼女の膝枕とか」

 

 そんなシチュいらねえよ。

 ……いらねえよ。

 うん。

 

「羞恥心はねえのかお前には」

 

「だからあるって。ふつーはしないよ、これでも感謝してるんだからね。普通だったらあたしの顔面をドロドロに溶かしてトラウマにさせてる」

 

「こええよ。絶対やめろよ」

 

 夢に出るだろうがそんなの。

 

「んー力を貰おうと思ったけどちょっと無理そうだね。だからそろそろ助けてよ、ねえチル?」

 

 は? と思ったその時耳にがさがさと草をかき分けるような音がしたかと思うと。

 聞き覚えのある声が続いて耳を打った。

 

「あ、あはは……バレてたっすか」

 

 俺の所からは顔は見えないが、その声と口調とマキナのセリフでチルであることはわかった。

 ……え?

 

「お前、いつから?」

 

「えっとねーあたしの処女を散らそうとした所かな」

 

「そんな事してねえだろうが……もう叫ぶ力もねえのに……」

 

「あははは、その、お邪魔っすかね?」

 

「後二時間後くらいに来てくれれば全部終わってると思うよ」

 

「馬鹿なこと言ってないで……迎えに来たんならさっさと助けてくれ」

 

「まじ? 草食系にも程があるくない? 勃たないの? ホモなの?」

 

「お前後で覚えてろよ……」

 

 単純な話だ。

 いくら俺でも、別に恋人でもなんでもないやつに手を出したりはしない。

 ……度胸がないとも言うけどな。

 ってもだからって襲ったりする程俺は頭がピンクじゃねえよ。

 

 この世界に居るかわからんけど、警察にもお世話になりたくないしな……。

 何よりも、俺には気になっている事があるからな。

 

「んじゃ、帰ろーか」

 

 なんやかんや言いつつも、そうやって帰りを促す。

 なにやらわたわたしてそうなチルを幻視しつつ、チルの声を聞いた。

 

「あ、な、ならメイド長を呼んでくるっす。ここなら多分大丈夫、なはずっすから。ユウ兄も、動けなさそうっすしね……」

 

 気を使ってくれたのか、本来は恐らく来てほしくないだろうエクレアさんをよぶらしい。

 まあ、遠くなったとは言えハルサラの近くだ、来ないに越したことはないだろうが……今は正直このまま帰りたい。

 

「……呼び行くってどこ行くんだアイツは」

 

 足音をさせながらどこかに行ったチル。

 近くまで来ているのかね、と思いながらも。

 

「ねーねー」

 

「んだよ……」

 












「───ひょっとして、君は異世界から来たんじゃないか、なんて言ったら笑う?」

 

【TIPS】

 裸の少女を担いた男の目撃証言がありました。

 白い鎧を来た変態です。更に販売所を襲撃した疑いがかけられております。

 大変な変態ですので住民の皆様は見つけ次第通報をお願いします。

 ───ハルサラ自警団より

 

 

 ……なお、販売所に居た人物は全員行方不明。現在捜索中です。

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