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34話 れっつごーじゃんぷ

 歩きながら色々な話をした。

 というより、チルの方から積極的に話しかけてきた。

 

 内容は他愛もないものだ。

 甘いものが好きだとか、よく物を壊して怒られたとか、そういった身の上の話とかもだ。

 

「なるほどな、一応チルもエクレアさんも給料ってことでお金を貰ってるのか」

 

「そうっす。そのお金で街に行って色々買ったりするっすよ」

 

「そのお金はシルヴから出てるんだよな? シルヴはどうやって稼いでいるんだ?」

 

「宝物庫ってのがあるっす。そこから色々売ったお金だったり、まあ……侵入者からかっぱらったりっすね。最近は全然そういう事はなくなったっすけど」

 

 誰かが鍵をなくしたからだろうなあ。

 しかし、宝物庫か。あのシルヴが使っていた宝剣も宝物庫から取ってきたのだろうか。

 ……はめた手袋を見る。勿論利き腕の右手につけている。

 ちなみに黒いレザーの、なんだろう、バイクとかで付けてそうなアレだ。

 

「あ、それも多分宝物庫のやつっすね。人に渡すことは滅多にないんすよ! それだけ気に入られたってことっすね、流石ユウ兄っす!」

 

 所々で俺をめっちゃアゲしてくるのはなんなんだろうな。

 コミュニケーションに飢えている、という気もしなくはない。

 いや、実際飢えてるんだろうな。

 

 身の上話を聞いている限り、楽しそうに話している。

 だが、その内容は全て城の中だけだ。

 街に買い出しに行ったという話はあっても、街の誰かに会ったとか、友人の話とか、城の中以外の話は、無い。

 

 飼い殺し、というわけではないだろうが……流石に踏み込んで聞くわけにもいかんな。

 

「っと、ちょっと待ってっす。……居るっすね」

 

 そう言って先頭を歩くチルが足を止める。

 暫くすると、喉を鳴らした狼が一匹、現れた。

 背中の毛皮がハリネズミのように尖っている。

 

「アイアンウルフっすね。一匹ぐらいなら自分に任せ」

 

 ……おい、その後ろからぞろぞろと団体さんが現れたぞ。

 ええと、二十匹はいるか? 随分と多いな。

 

「20倍になったが大丈夫か?」

 

「…………命をかけるっす」

 

 かけんでいい、かけんでいい。

 仕方ねえな。

 まあ、シルヴやアルマダから感じた圧はまったくない。

 あれぐらいならなんとかなるだろう。

 

「闇は嘘に堕落し、光は真を語る。汝、真実を証明せよ。……来い『真と偽の境界剣ライズアンドトゥルース武想顕現(リアライズ)

 

 剣を取り出す。

 この詠唱も短くなんねえかな。毎回長いんだよ。

 

「んで、アルトリウスモード起動」

 

 俺が白い光に包まれる。

 

「んじゃ、まずは新しくなったやたらめったら斬り改め光……」

 

 を、試す前に一つ頭に浮かんだことがあった。

 それは今この状態になったことで目の前の狼たちが目に見えて動揺し始めたから思いついた事。

 

 んー出来るか? とりあえずやってみるか。

 身体に力を入れつつ、放出するイメージで。

 

「───失せろ」

 

 瞬間、脱兎の如く逃げ出す狼達。

 一目散に後ろの方に散らばって逃げていく様子を見て、口を開けるチル。

 

「解除っと……意外と出来るもんだな」

 

 シルヴやアルマダから感じた威圧、というのだろうか。

 それを真似して出来ないか、と思って適当にやっただけだがうまくいったみたいだ。

 

「すすすすすごいっす! アイアンウルフ達を簡単に追い払うなんて! まるで主人みたいっす! 流石ユウ兄っす!!!」

 

 めっちゃ興奮しておる。

 いやまあ、正直俺もこういうのが使えて気分がいいのは確かなんだが。

 

「まあ、これで道中は大丈夫だろう」

 

 ……しかしこれは楽でいい。

 だが警戒はしないとな。

 威圧が効かない相手が出てきたら、つまりはそういう事だ。

 

 その場合は最悪、ティルトニクスを使うハメになるかもしれん。

 だが、それは不味い。

 

 周りに被害が出すぎる、つまり目立つ。

 そしてそれを使うと俺がバテる。そんな状態で街に入れるかどうかは大いに疑問の余地があるだろう。

 

 ……効かない相手からはなんとか逃げ切るか、アルトリウスモードで対応するしか無いか。 

「ハルサラの街までは遠いのか?」

 

「ええっと、このペースなら後30分ぐらいっすかね」

 

 長いような短いような。いや、わりとあるな。

 この森を30分か……んー。

 

「ペースを上げれないか?」

 

「ん、んんー。走れば早く着くっすが……大丈夫っすか?」

 

「大丈夫って、どういう意味だ?」

 

「いや、その、言うのも申し訳ないっすけど、人間の速度とエルフの速度は違うっすから……」

 

 ああ、なるほどな。

 

「大丈夫だ。アルトリウスモード起動」

 

「お、さっきのっすね。身体能力が強化されるんすかね、それなら少しスピード出しても大丈夫っすかね」

 

「ほう……言うじゃねえか」

 

 随分と舐められたもんだ。

 言っておくがエクレアさんについて来れる程度の速度は有るぞ。

 

「道的にはこのまままっすぐでいいのか?」

 

「そうっす、後はずっと真っ直ぐっすが……」

 

「なら競争しようぜ。そうだな先に着いたほうが勝ちって事で、負けたら……」

 

 む、飯でも奢るにしようとしたがこいつ中に入れないか。

 んーなら戻ってから、いや歓待されて意味なさそうだな。

 

「何でも言うことを聞くっすか!?」

 

 言ってねえよ?

 

「わかったっす……全力で行くっす」

 

 言ってねえよ! 行くな!

 

「待て馬鹿野郎! そんな事一言も言ってねえだろうが!」

 

「あ、そ、そうっすね。も、申し訳ないっす……」

 

 おお! は、話が通じた!!??

 良かった。このまま走り出すというポンコツムーブじゃなかったか。

 アルマダならやるな。絶対やる。

 

「話か通じたことに俺は感動を覚えている」

 

「よ、よくわからないっすが褒められてるんすよね?」

 

 基準にしている奴らよりはな。

 

「まあ、やっぱりやめようか」

 

「ええー!?」

 

 なんでそこで首振って否定するんだよ。

 

「競争したいっす! なんか楽しそうっす!」

 

「まあ、別にいいけどよ。なんでもっての話はなしだぞ」

 

 頷くチル。ったく仕方ねえなあ。

 ま、今の身体能力で森を突っ切ったらどうなるかってのも興味はある。

 

「んじゃ、行くぞ。さん、にい、いち……GO!」

 

 足に力を入れて跳ねるように同時に走り出す。

 景色が流れていく。

 まるで忍者にでもなった気分だ。ちょっと楽しい。

 

 途中に木が生えてたりはするが、ステップでかわす。

 目もスピードについて行けるようになっているみたいだ。

 

 ちらりと視線を横に向ければ、笑顔を見せながら並走をするチル。

 

「わりと速度出しているんだが、付いてこれるんだな」

 

「それはこっちのセリフっすよ。ユウ兄こそ、エルフについて来れるなんて流石っす!」

 

 興味深いのは、俺と動きが違う所だ。

 俺は身体能力の強化のせいか、地面を普通に高速で走っている様な感じだが、チルはなんというか、一歩で暫く滞空しながら進む様な動きだ。

 俺がトントントントンという感じなら、トーン、トーン、トーンといったような。

 

「でも、もう少し速度を上げれるっすよ」

 

 ニヤリと笑うチルに対して俺も笑みで返す。

 

 そしてお互いに速度を上げた。

 矢のような速度で背景が流れていく。

 

 速度は、互角か。やるじゃないか。

 ただ少し息が切れ始めている、か?

 

「っふ、っふ……ユウ兄は疲れてなさそうっす、ね!」

 

「疲れてはいるさ、普通ぐらいにな」

 

 疲労感のようなものは感じている。

 それは制限時間とかではなく単純な体力の問題だ。

 しかしまだ大丈夫だ。

 

「速度は、まだ上げれそうだが」

 

「まじっすかあ……自分はこれ以上は辛いっす……」

 

 そうは言うが、その速度っていうのは全速力だ。

 体力的に考えれば数十秒ぐらいで足が止まってしまう。

 マラソン的な速度を考えれば今がギリギリといったところだろう。

 

 しかし、予想以上なのはチルだ。

 はっきり言って置き去りにするぐらいだと思っていたが、ついてきている。

 

 ……いかんな。知らずうちに驕っていたのかもしれん。

 シルヴの言葉じゃないが、力に溺れないようにしないとな。

 

「っと、そろそろっすよ」

 

 それから数分ぐらいだろうか。

 元が三十分と考えるとかなりの速度で時間を短縮したらしい。

 

「このすぐ先が森の出口。そこから歩いて10分くらいの所にハルサラがあるっす」

 

「この後も歩くのか……そのまま走っていくのはまずいか?」

 

「いや、別に良いと思うっすけど、あんまり力を見せないほうが良いと思うっす」

 

 んー……まあそういう事なら普通に歩いていくか。

 

「じゃあ、そろそろ聞かせてもらおうかね……その助ける友人についてな」

 

 あえて聞かなかったその友人が何者なのか。

 察していたのかわからんが、シルヴ達も特に言及はしなかったが、ここなら大丈夫だろう。

 

「……ユウはヒトカタ、というのを知っているっすか?」

 

「ヒトカタ? いや、初めて聞いたが……」

 

「人の姿をしておきながら人ではない者を呼ぶっすが、その異常性から忌み嫌われあらゆる人種から人として扱われない。それがヒトカタ。

 そしてそれが、自分の友人っす」

 

「ヒトカタ……」

 

 人形、と書くのだろうか。

 

「人として扱わないって、どういうことだ?」

 

「知っていると思うっすが、竜も吸血鬼も鬼も悪魔も、人とて数えられるっす」

 

 確かに、今まで竜であっても一人と呼ばれていた。

 

「だけど、ヒトカタはそうじゃない。道具や物と一緒っす。だから、人として受けれる事が出来ないし、何をしたとしても、罪に問われる事はないっす……」

 

 何をしても罪に問われないって、ちょっとひどすぎるだろう。

 

「ヒトカタってそれ程のものなのか? その、人の姿はしているのに一体何故そこまで」

 

「……生きるのに食物を必要とせず、痛みも感じず、およそ生物とは思えない身体をしているからであります。それに、子供も作れないとか……」

 

 そこまでなのか。

 ……とは言え、もう少し情報はほしいな。

 とりあえず最低限でも聞いておくか。

 

「わかった。じゃあ、名前と場所、あと見た目を教えてくれ。最低でもこれがわからんと同しようもないからな」

 

「はいっす。名前はええと……」

 

「おい、友人の名前がわからんって言うのは……」

 

 呆れたような俺の声に対して両手を振ってそうじゃないと慌て始めるチル。

 

「なんか不思議で長い名前なのでそこまで覚えてないんすよ。だから、自分であだ名をつけてそれで呼んでるっす」

 

「あだ名ねえ……それでわかればいいんだがな。一応、聞いておくか」

 

 正直あんまり期待はしていなかった。

 しかし、その名前を聞いて俺はヒトカタと呼ばれる存在がどんなものか、想像がなんとなくできた。

 

「マキナ。自分はそう呼んでるっす」

 

「マキナ、ね」

 

「? どうしたっすか。なんか納得した様な顔をしてるっすが」

 

「いや、気にするな。所でそのヒトカタってのはどうやって現れるんだ?」

 

「それがわからないっす。突然現れるっす、どこかにまとめて住んでるわけじゃないっすし、後めっちゃ数は少ないっすね。自分もマキナ以外のヒトカタは見たことないっす」

 

「そうか……まあ、わからないならいい。んで、場所と姿は?」

 

「恐らくっすが、マキナは販売所の地下にいるっす」

 

 販売所? ……なんか嫌な単語だな。

 

「多分想像の通りっす、ハルサラでは、異種族が売られてるっすよ……奴隷として」

 

 ……異世界に奴隷は若干付き物って言うと偏見かもしれないが。

 実際聞くとあんまり気分は良くないな。

 特に、目の前の少女の友人がそうなっていると考えると。

 

「言いたくはあんまりないが、結構時間が経ってるんじゃないのか? その、もう売られてるって可能性は……」

 

「可能性はなくはないっすが、多分、大丈夫だと思うっす」

 

 煮え切らない返事ではあるが、そう言うってことはなにかあるんだろうか。

 

「ヒトカタは人気がないっすよ。その、奴隷としては……その……」

 

 口ごもる。

 しかしうつむきながら言葉を発した。

 

「楽しく、ないっすから」

 

 その言葉で、奴隷がどんなふうにされているかはなんとなく、想像がついてしまう。

 ……はあ、まあ、言いたくはないよな。

 しかし聞いておかないといかんのが辛いな。

 情報は武器だからな。特に一人となったら、な。

 

「販売所がどこかは、知っているのか? 地下って言っていたが」

 

「はいっす。あ、これを渡しておくっすね!」

 

 そう言って渡されたのは紙だ。書いてあるのは、地図。

 羊皮紙とかではなく、普通の紙だし、手書きで書いてあるわけでもない。

 だが印刷されたものとは少し違うようだ。

 

 その地図には赤丸で囲ってあるところがある、おそらくこれがその販売所だろう。

 

「そこの赤丸が販売所。そこの地下に居るはずっすが、警備とかもいるっすから気をつけてほしいっす」

 

 警備か。それをどうするかも考えておかないといけないか。

 最悪は物理でゴリ押しになるんだが。

 

「わかった」

 

 地図を四つ折りにしてポケットにしまい込む。

 そう言えば俺の格好、ごく普通の現代的な洋服なんだが誰も突っ込まないな。

 ……和服やメイド服がある世界で今更か。

 

「姿なんすけど、まずすっごい綺麗な銀髪っす」

 

「銀髪か、長さは?」

 

「ええと、メイド長と同じぐらいっすかね。腰ぐらいまであるっす」

 

 ロングの銀髪っと……

 

「服装っすが、最後に見たときはええと、ゴスロリ服だったっす」

 

 ご、ゴスロリ?

 そんな言葉をこの世界で聞くとは……あ、いや言葉は変換されているんだったな。

 だからゴスロリが一番近いってことか。どんなだっけか、ドレスみたいなやつだっけか?

 あんまりファッションは詳しくねえんだよな。

 

「なんかドレスみたいなフリフリであってるか?」

 

「だいたいそんな感じっす。ただ、まあ……その、服をちゃんと着ているかは……」

 

 ……いたたまれない空気に包まれる。

 はあっと俺はため息を吐き出した。

 

「それぐらいか、後は……なんかあるか?」

 

「ええと……あ、そういえばこれも渡さなきゃっす」

 

 そう言って渡してきたのは小さな袋。

 若干の重みがあるが……振ってみるとちゃりちゃり音がする。

 

「お金っす。主から渡すように、と」

 

「シルヴには世話になりっぱなしだな……借りておこう」

 

 前回の依頼報酬は渡しちまったから無一文だし、流石にのんきにハルサラで金稼ぎしている場合じゃないだろう。

 ギルドがあるかどうかもわからんしな。

 ……ポケットが膨らむな。でもギリギリ入る。

 

「……自分にできるのはここまでっす。どうか、友人をよろしくお願いします」

 

 最後は、普段の口調ではなく。

 頭を下げて、そう頼み込んだ。

 

「ああ、助けてみせるさ」

 

 だから俺もそう答える。

 その言葉に安堵したのか、笑顔を見せた。

 

 そうして俺は、一歩を踏み出した。

 ハルサラまで、後少しだ。

 

【TIPS】

ヒトカタは人ではない。

何も食べず、排泄もせず、魔法も使えず、代わりに奇妙な技を使う異常な物体だ。

謎の身体で出来ており、痛みすらも感じず、子供も作ることが出来ないヒトカタ。

数こそ少ないものの、他者を必要としないその物は、いつか人を滅ぼすかもしれない。

故に殺さなければならない。砕かねばならない。でなければ滅ぶのは我々かもしれない。

まだこちらを襲ってくることはない、しかしそれは油断させるためかもしれない。

心せよ。そして隣人を思うのであれば見つけ次第殺すのだ。

───平和主義者 レイルの演説より

 

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