33話 ハルサラへ
「うむ、しかし『ハルサラ』か……」
腕を組んで難しい顔をするシルヴ。
即答しないあたり、よほど気難しい場所なのか?
「まあ、俺も話を聞いた限りだが簡単じゃなさそうなのはわかってるが」
「うむ、亜人。いわゆる人間以外を指す言葉なのだが、その当たりが強くてな。聞いての通り人間以外は完全にお断りの都市なのである。入ることも許されんし、近づいただけで襲われるなんてこともある」
世紀末かよ。いくらなんでも差別がすぎる気がするが。
「それほど厳しいのには理由があってな。ユウ、覚えておいてほしいのだが人間という種族はそもそもそれほど強いわけではないのだ」
「まあ人間が最強だなんて思っていないが……」
むしろ弱いほうだろうな。
アニメやゲームでも一部が特化して強いだけで、人間自体はそれほどでもないとかもよくある。
「だからこそ、他種族に虐げられる者も居るのである。……そういった者たちが集まって出来た都市が『ハルサラ』」
なるほどな、そうやって被害を受けた人間達が集まった場所だからこそ、他の種族を強く排斥するわけか。
「だがな、この場で人間はユウ一人。つまり、たった一人で行かねばならん。そして、助け出した後は恐らく街を敵に回すだろう。……言いたいことがわかるか?」
「……まあ、最悪を考えればな」
そう、未だかつてしたことがなく、今後もしたくはない事。
現代社会では禁忌ともされる程の事。
「そう、ユウ。お主は人間を殺す必要があるかもしれん、そう言うことだ。出来るか?」
「……正直わからねえ。ぶっちゃけ、殺したくない気持ちで一杯だが」
現代社会の法律でも、俺の人道的倫理観でも、殺人はしたくない。
魔獣は、まだ害獣というような、まあ気分は良くなくても依頼という大義名分があった。
しかし、あのクラウでさえ、俺は殺すのは戸惑った。
「覚悟を決めないと行かせてはもらえない、そう言いたいのか?」
「少し違う。そうなった場合は覚悟を決める覚悟を持て。言いたいのはそれである」
「……考えておく」
先延ばしなのはわかっている。
今決めないと実際その場になった時、俺は行動できるのか不安でもある。
だが、だからといって行かないわけにはいかんだろう。
「良いのか? そもそも、お主が引き受ける理由はないのであるぞ。……我が出向いても構わんしな」
そう言いながらも、少しだけ顔が強張ったのを俺は見た。
やはり、行くのは抵抗があるのだろう。
今の城と生活を捨てる可能性もあるのだから。
「いいさ。……友人の友人である頼みだ」
「ふ、ふっふっふ。卑怯だな、そう言われれば止めることなど出来ぬである」
嬉しそうにそう答えるシルヴと、目を伏せて黙って礼をするエクレア。
「つーことで、お前らはお留守番だ。迷惑かけずにちゃんと待ってるんだぞ? わかってるな?」
頭を抑えてうずくまる二人に声を掛ける。
「ううう……わかったよー」
「じょ、女性の頭を何度も殴らないで下さいよ……」
「だったら女性らしくしろ。殴られるような事をするな」
正論で叩き伏せるとぐうの音も出ないらしい。
ため息を付きながら、ふと大事な事を聞いていなかった。
「そう言えば、そのハルサラって都市にはどうやって行けば良いんだ?」
「あ、自分が案内するっす!」
そう言って元気よく手を挙げるのはチル。
「? お前人間、なのか?」
「あ、いえ違うっすね。自分は」
そう言って髪で隠れた耳を見せる。
ん、若干尖っている様な?
「自分は森人。エルフって呼ばれる種族のハーフ。いわゆるハーフエルフっす」
エルフ!?
……エルフ!?
「エルフなのに耳トンガリじゃなくて髪も緑じゃなくて巨乳じゃないぞ?」
「せ、セクハラっすよ! ハーフの中でも自分はエルフの血が薄いっすから、人間に近いんすよ」
人間に近いのにそのピンク色の髪はおかしくねえか?
……いや今更だな。
「ん、どーしたの?(実は薄い赤髪)」
「何か気になる点でも?(エメラルドグリーン)」
「どうなさないましたか?(濃い赤髪)」
「む、我の顔になにか着いているか?(金髪)」
「え、え、何か悪いこと言ったっすか?(ピンク)」
「……いや、別に」
色取り取りだな。今更気にせずともいいか。
『青髪です』
お前……白と黒の剣のくせに青なのかよ。どういうことだよ。
ってかお前の姿見たことねえんだが。いつか擬人化とかしねえだろうな。
青髪……そう言えばアメジスタも青か。カラーパレットみたいだな。
ちなみに勿論俺はごく普通の黒髪である。
「ハーフも居るのか。しかし、それでも異種族って事だろ? ハルサラに行って大丈夫なのか?」
「う……いや、申し訳ないっすけど近くまでっす、中には行けないっす……」
「まあそうだよなあ」
いくらハーフとはいえ、異種族ではある。
というか、予想ではハーフの方が酷い扱いを受けそうでも有る。いやイメージだけどな。
「となると、やっぱり俺一人で行くことになるか」
『否定。トゥールーも居ます』
……頼もしい援軍だな。
「ふむ、少し待っていて貰えるか?」
「ん、別に構わんが……」
なんだろうか。
そう言い残してすばやくどこかに行ってしまった。
それから数分経って戻ってくる。
「餞別だ。これをお主に譲るのである」
そう言って手渡しされたのは一つの、手袋?
黒い手袋は中二心をくすぐるが、なぜ片一方だけなんだ?
「それはな……」
そうやって耳打ちをされる。
わざざわ隠す必要があるのかと思ったが。
「……ほう、なるほどな」
「面白いであろう?」
悪くない。なかなかに使えそうだ。
「それともう一つ、お主に教えておこう」
「む……それは、良いのか?」
聞いてからそう反応を返す。
「構わんだろう。ただ、わかっていると思うが、使い所は間違えるでないぞ」
「わかってるさ」
迂闊には使えないのは間違いない。
とは言え、大事な場面で使うには不安が残るが。
「うむ、では……頼んだのである」
「気をつけてねー」
「無茶しないで下さいね」
「無事を願っております……勿論、両名の」
全員に見送りの言葉を受ける。
……いや、嬉しいけどさ。
「あの、ここからどうやって行くか聞いてねえんだけど」
「ご安心を」
そう言ってエクレアさんが指を鳴らしたと思うと景色が歪む。
瞬間移動か。ってかこれでしか移動してないが本当便利だよな。
変わった景色の先、それは森の中だった。
ただ、レイヴェルドの森と比べると木々が太く、そのせいか薄暗い。
そして、雰囲気が少し荒い、といえば良いのか。
「デールの森っすね。魔獣が多く住み着く、ハルサラから離れた森っす」
「うお! お、お前居たのか……」
「勿論案内しないとっすから! あ、自分のことはチルって呼んでほしいっす」
「ん、ああ。わかったチル。俺のこともユウで良い」
「わかったっす! ユウ兄!」
「待て、何で兄が付くんだ」
「え、だって妹だって言ったっすから……それなら、と思って」
それは属性の話であって別に妹になれという意味ではないんだが。
「いや、それは」
「ユウ兄! へへ、自分には家族が居なかったっすから、その、こういうの憧れてたっす……」
やめろと言い出しにくくなった。
「あ! 勿論メイド長も主人も家族だと思ってるっすよ! でも兄って言うのが自分欲しくて……夢がかなったっす。ありがとうっす……っ!」
……こ、こんな笑顔で言われたら駄目だって言えねえ。
しかも全部本当の事だし。
「…………ユウ兄と呼んでくれ」
「はいっす! あ、それでっすね。この森から結構離れてる所にそのハルサラはあるっす。森を出れば街道があるっすが、出てもし自分の正体がバレると不味いので申し訳ないっすが森を通っていくっす」
「わかった。道は分かるよな?」
「勿論っす! 仮にもエルフっすからね。森はお手の物っす。それに案内を買って出たのにわからないなんて事はありえないっすよ」
ありうるんだよなあ。
まあ、チルじゃなくて別の二人だがな?
「とはいえ、魔獣が居ることも有るっすから気をつけないといけないっすね。そしたら自分がなんとかするっす!」
そう言って胸を張る。
よくよく見るとこいつメイド服のままじゃねえか。
こんなん街道に居たら一発で職質だろ。
「その服歩きにくくないか? 特に森とかを歩く服装じゃ無いと思うが。それと、戦えるのか?」
「大丈夫っす。これでも全然動けるっすよ。戦いは、まあ……あの二人に比べればイマイチっすけど、普通の魔獣なら大丈夫っす。あ、魔獣が何かは知ってるっすか?」
「確か、動物が魔力で変質した物だったよな?」
メタルラットやサンドホーンも魔獣だ。
「そうっすそうっす。まあ自分にどーんと任せるっすよ」
そう言って鼻息を荒くするチル。
とはいえ、二人ってエクレアさんとシルヴだよな。
シルヴはともかくとして、エクレアさんよりイマイチって言われるとちょっと不安があるな。
エクレアさんが弱いと言っているわけじゃないが、それよりも弱い、という事はあまり戦力として期待をしないほうが良いかもしれない。
悪い意味で言っているわけじゃなく、街に入ったら一人になる。
そういった意味も込めてだ。
そんな事を思いながら俺たちは歩き始めた。
【TIPS】
髪の色は各個人の資質で変わると言われている。
両親からの遺伝もあるが、得意な属性や環境によっても変わったりするらしい。
そのため、家族全員が違う髪色ということも珍しくはないようだ。




