28話 吸血女王の実力
「さて、では訓練と行こうか」
そう言ったのはシルヴ。
あの後俺は部屋に戻って念のためノックをしたらシルヴもエクレアさんも普通に対応してくれた。
そして早速訓練を始めたいという事でティリアス、アルマダを連れて一つの部屋に入ったんだが。
「なんだこの謎空間は……」
普通の部屋に入ったと思えば、中は明らかにおかしい程広い。
灰色の壁に覆われてはいるが上も百メートルはある巨大な一つの箱。
野球場か? と思うぐらいには広く、まさしく訓練用と言わんばかりに何もない。
「我が城にある訓練場だ。魔法で結界を張ってあるのでな、どれだけ暴れようとも問題は無いのである。存分に力を発揮してよいのである」
自慢そうに言うが、確かに狭くて動けないなんてことはなさそうだ。
「早速我が相手しても良いのだが、まずは動きを客観的に見たいのである。エクレア」
「はい。お相手を務めさせて頂きます。何卒宜しくお願い致します」
そう言って頭を下げるのは赤いメイド服を着たエクレアさん。
特に衣装チェンジは無い。
「言って置くが、エクレアは強いぞ。それでも我の見立てでは良い勝負になると思っているのであるが」
「まあ、強さが見た目で判断は出来ないのは知っているが……女性には手を上げずらいな」
「「え?」」
お前らは例外だポンコツーズ。
「紳士でいらっしゃいますね。しかし、これは訓練。遠慮なさらずに来て頂いて結構です」
「お互い万一の時は我が止めに入る。安心するがよい」
「ん、信じるからな」
「はっはっは、そのセリフは、エクレアを下してから聞きたいものであるな。では両者、構えを」
俺は剣を出現させる。
この重さにもだいぶ慣れてきた。
一方、エクレアさんは何も構えは無い。
悠然と立っているだけだ。
距離は50メートル無いくらい……だろうか?
「それでは……始め!」
「っは!」
その瞬間、高速で手を払ったかと思いきや現れたのは投げナイフ。
直線的に俺を狙ってくる。
「アルトリウス起動!」
白い光に覆われると同時に剣を振るい、白い刃が投げナイフを消し飛ばしながらエクレアさんの方に向かうが
「居ない……上か!?」
「いえ、右で御座います」
そう言われて慌てて右を見る。
しかし、見えたのは飛んでくる投げナイフだけ。
「失礼、私から見てで御座いました」
「意外とこずるい事を!」
ナイフを持ったエクレアさんが突撃してきていた。
だが同時に反対方向から飛んできているナイフ。
前の俺ならどうしただろうか。対応できただろうか。
「【白亜守護陣】!」
「っと、守護魔法ですか……ここは引くと致しましょう」
白い盾が出た瞬間に、跳ねるように後ろに逃げる。
判断が速い。背後からキンとナイフをはじいた音がする。
「ほう、無詠唱で光刃、短縮詠唱で盾を出すか。中々であるな」
「ユウーふぁんばれー!」
「ふぅ、ユウ、応援してますよ」
「お菓子とお茶飲みながら観戦してる奴に言われるとなんか腹立つんだけどな!!」
くそ、完全に観戦者じゃねえか。
とはいえ、動きが速い。
と言うより、それぞれの動きに無駄がないといったほうがいいのか。
動き自体が速いわけじゃなくて、それぞれの動作が洗練されているという感じだ。
「ふむ、しかし遠距離では分が悪そうで御座いますので、一芸お見せ致しましょう……【加速】」
そう唱えた瞬間、先程よりも早いスピードで飛び込んでくる。
加速か、わかりやすいが面倒だな!
「なら数で押す! でやああああ!」
「乱撃で御座いますか。見えておりますよ」
連打した光の刃をすれすれで避けていく。
完全に見えてんなこれ!
ならこれでどうだ。
「【白亜守護陣】!」
正面に盾を出す。
「成程、私では突破できないと思いましたか。では……【瞬転】」
突然姿が掻き消える。
「……少し読みを誤ったか。もう少し奮戦すると思っていたのであるが」
エクレアさんは、瞬間移動が使えた。
あの瞬転と言うのは、恐らく短距離のワープだったのだろう。
であれば、現れる位置は。
「な!」
「俺の正面だよなあ! 【軌跡を喰らえ、驕れるもの】!」
瞬間移動をすることぐらい読めていたさ。
ここに瞬間移動で連れてきたのはエクレアさんだからな。
それなら、戦闘でも使うだろうという読みができた。
だからこそ盾を出してすぐに後ろを振り向き、剣を振りながらアグリシアを放った。
しかし最近単発でこっちを使う事が多い気がする。
光の龍が俺から直接放たれ、エクレアさんを飲み込む。
「まさか、これ程の強さとは見くびっていた。素直に、称賛しようユウよ」
飲み込む直前、突然現れたシルヴが光の龍を片手で消し飛ばした。
……まじー?
「ふむ……」
調子を確かめるように右手をにぎにぎしている。
「すまぬな、エクレアでは少々力不足であった。エクレア、許せ」
「いえ、ユウ様は、大変お強いですね。想像以上で御座いました。完敗で御座います」
「……いや、言うほど余裕があったわけじゃないさ」
逆に言えば、使うしかなかった。
それ以外の手持ちの札ではどうしようもなかったからだ。
後ろに来る、と言うのも賭けだった。
盾を突破できる手段があったらむしろ俺は一撃でやられていたかもしれないからなあ。
「いや、本当に想像以上だ。あれだけ言っておきながら節穴であったのは恥ずかしいが……何年程戦っているのであるか?」
「えっと……二日?」
多分それぐらい、か?
「なるほど二日……二日ぁ!? はははは嘘であろう? ……であろう? え?」
「俺が固有武想手に入れて、ティリアスと出会うまでが一日? で模擬戦して、クラウと戦って、アルマダと戦って、ここにきて、あれ、ああ正確には二日目ってのが正しいのか」
「」
「」
二人とも絶句しているんだが?
「まあ、仕方ないですよね。ユウですから」
「ご主人様だしね」
「お前らはすぐそれだよ……」
『流石はマスターです』
お前もかよ。
「私は、二日目の初心者に負けたのですね……」
「我が従者はな……強いんだぞ……」
「お、おう……」
あかん。なんか負のオーラが漂っている。
「ふう……で? 本当は何年なのだ?」
「いや本当だよ、昨日まで固有武想持ってなかったし」
「なるほど、である。嘘ではないようだが……ええ……」
驚きすぎだろ。
いや、まあ。確かに剣握って数日でこの強さってのはチートだと俺も思うけどさ。
「でもアルマダに負けたしなあ」
(ボク世界でもトップクラスだけどね)
「クラウにも最初負けたし」
(すぐ子ども扱いでしたけどね)
「そういえばアメジスタにも勝てねえって思ったし、模擬戦抜かせば実質勝ったのってこれが初めてか?」
「あれは途中で地竜が出てきたのでノーカウントです」
「細かいなティリアス……まあ結構負けてるから、普通に勝って嬉しいな」
「アメジスタにアルマダ、か。比較対象が凄いのであるな……」
いやそう言われても強さわかんねえんだよそいつら。
もっとわかりやすくレベルとか世界ランキングみたいなのがあればなあ。
「いや、ユウが規格外なのはわかったのである。どうやらエクレアではなく、我が相手する必要があるな。しかし……エクレア」
「はい、情けない所をお見せしてしまい……」
「いや叱責ではない。我が力を見抜けなかった、それだけのことである。そうではなく、アレを持ってくるのである」
その言葉に驚いた後、納得したように頭を下げる。
「了解致しました」
そう言って指を鳴らすと消える。
そういえば来るときも指を鳴らしていたな。
でもさっきは瞬転とか言ってたが、何か違うのかね?
っと、直ぐに戻ってきた。
手には一振りの剣。宝石が着いた豪華絢爛な、宝剣と言えばいいのか。
それをシルヴに渡して、ティリアスたちが居る所に戻っていくエクレアさん。
「ユウ。其方は、強い。我でも素手では、訓練にならんかもしれぬ。故に使わせてもらおう……魔哭剣【コントリアス】をな」
「それが、アンタの固有武想か?」
「む? ああ、固有武想は我は持っておらん。と言うか、固有武想は一部の種族しか持てんのだ。吸血鬼や悪魔は固有武想ではなく、こういった魔力が籠った武器。神器を使う」
「ほう! 神器!」
わくわくするじゃねえか。
「それは俺も使えるのか?」
「使えなくはないが……おすすめはしないぞ。固有武想と同時に使うというのは共鳴率を下げるからな」
ふむ、共鳴率。確か固有武想の力を高めるなんかあれだったよな。
『肯定。ちなみに使ったら拗ねます』
「……拗ねるとどうなる?」
『全能力値が50%ぐらい下がると思って頂きたいです』
ちょっとデメリットでかくない?
『使うたびにです……あと恨みます』
厳しくない?
くそ、めっちゃ使いたいのに許されないとは。
「さて、お待たせしたな。力は見せてもらったのである。しかし、その中でもやはり、足りないものがあるのである……いや二日目だと当たり前であるのだがな……本当信じられんのである」
そう言いながらも目がキラキラと輝いている。
「だが! 最高の原石である! より強くしたいという気持ちが高まったぞユウ!」
そう言って剣を構える。
それに合わせて俺も剣を構えるが、あの威圧感は無い。
目が翠に輝いていない事から、あの力は使っていないみたいだ。
「では始めるか。……ではまず、一つ大事な事を教えておこう」
「ん、なんだ?」
警戒を解かずに答える。
「格上と対峙する時は、警戒は意味がない」
「っ……嘘、だろ?」
俺の首。
そこに、既に剣を突き付けられていた。
【TIPS】
固有武想は聞いている物より良いものではない。
それはどんなものであれ一生使わなければならないからだ。
無論使わなければならないわけではないが、人間にのみ許されたその魔法を
捨てるというのは大きな差が出てしまうのも事実である。




