29話 模擬戦そのに
俺の首。
そこに、既に剣を突き付けられていた。
「今のは単純な速さ。だが見えなかったであろう? 一部の魔法を抜かして、基本的には詠唱や魔法名が必要だ。それを発動させないためにはどうするか、そう、発動前に倒す、だ」
「……見えない速さってどうしようもねえだろうが」
「ふふ、今のは意地悪であったな。すまぬ、エクレアの仇を少しでも取っておきたくてな。許せ、戯れと受け取ってほしい」
そう言いながら元の場所に戻る。
……恐ろしく速い速度。俺でも見逃すわ。
「さて、今のは極端な例だが、あえて厳しい言い方で言わせてもらう。格上に最速行動されると格下は何もできない、と言うのをわかってもらえたであるかな?」
「痛い程にな……」
まじで対応できない。
先手必勝と言うレベルではないぞ。
「うむ。だがな、正直そこまで気にせぬともよいのである。見えぬほどの速度、と言う時点で遥か格上であり、ぶっちゃけ勝てるはずもないのである。が、防戦では逃げる事も傷を与える事も出来ん、わかるかな?」
「ま、なんとなくはな……」
ようはぶちかましてとんずらが一番って事だな。
「さて、先程のは意趣返し。ここからが本当の訓練と行くぞ」
目が翠色に光る。
身体が少し重くなる。重圧、とはまた違うようだが。
しかし前ほどではない。
「ほう、耐えるか……並みの魔獣すらも動けなくなる魔眼なのだがな」
「魔眼か。随分と、カッコいいもん持ってるんだな」
「くくく、素直に誉め言葉と受け止めるのである。我の魔眼は『空の魔眼』。これでお主の近くの風、空圧を高めて動きにくくしているのだよ。もっとも、魔眼自体にそもそもとして相手を威圧する、と言うのが基本で備わっているのだが」
動けない理由はそれか。
威圧と空圧のダブルバインド。デバフ型か?
「魔眼については語ると長いので省略するが……どうした、来ないのであるか?」
く、情報収集はここまでか。
先手は取られたくない。であれば。
「せい!!」
「ふむ、まずは牽制といった所か」
光の刃を片手で弾くんじゃねえ。せめて剣ぐらい使えや!
「おりゃおりゃおりゃおりゃ!!」
「ほう、先程に引き続き連打できるのか!? なるほど、流石であるな」
だったら当たれってんだよ!
全部片手で全部はじくとかどういう動きしてんだ!
「アドバイスを授けようか。我もそこな悪魔アルマダもそうであるが、何も言わずに魔法を発動させることは出来る。が、あまりそれはしない。なぜかわかるか?」
「恥ずかしいから」
「ち、違うぞ? 魔法の名前、魔法名を唱えるという事だけで消費が抑えられ、威力が上がるからである。無詠唱なのはとっさの時や高速で発動したいときのみであるな。故に」
びしっと指を突き付ける。
「その光の刃、名前がついておらんな。であればつければ威力が向上するであろう。消費も抑えられる」
「それだけで威力があがるってのも凄い話だがな。特に消費はしてないぞ?」
「……今なんと?」
聞き違いかと言わんばかりに耳に手を当てる。
「いや、これ全然消費しねえんだよ。余波らしいからな。お前らもそうじゃないのか?」
「違う。全然違う。マジで違うぞどうなってるのであるかそれは」
めっちゃ困惑しているんだが……。
「規格外っぷりは置いておいて、ま、まあ名前を付ければ選択肢の幅が広がるだろう」
「名前ねえ……やたらめったら斬りじゃだめなのか?」
「……戦闘中故それなりに言いやすく短いものをお勧めするのである。装飾語も無関係ではないのでな」
「ん? てことはつけた名前によって効果が変わったりするのか?」
それは聞いたことないな。
色々カスタムが効きそうだが。
「多少はな。例えば、水を発射する魔法だが……【水弾】」
手の平から水の弾丸が飛ぶ。
俺はそれを剣で切り裂く。
「こっちに飛ばすんじゃねえよ!!」
「これも訓練である。下級魔法だが、お主なら普通に弾ける……今切り裂いたか?」
「ああ、ま、言ってもいいか。俺の剣は形のないもの、魔法とかを切れるらしい。そういう固有能力だ」
「…………形のないものを切る?」
しばしシルヴがフリーズする。
そしてムンク顔をしながら。
「ああああああああああああ!! そ、それええええええ!! 聞いたことあるである! 古の魔王が使っていた【無象切断】であるな!」
叫ぶなよ。キャラ保て。
ってか魔王? そんなキャラがこの世界にいたのかよ。
つか使ってる能力魔王のかよ。闇落ちとかしねえよな俺?
力が、勝手に……とか、俺から離れろ! とか 闇の力が暴走! とかやめてくれよ。
「そんな凄いのかこれ?」
「世界最上位クラスの能力である……汎用性、効果共に文句の付けようがない」
そ、そんなにすごいのか?
「私言いました」
「お、おう。存在感はアピールしなくていいぞティリアス」
『…………』
どや顔を晒していそうなトゥールーも放っておこう。
「つつくたびに色々出てきて話が進まんのである……それにこれ以上パンドラの箱を開けたくないである」
泣き言を言い始めたぞ。
パンドラとか人を危険物扱いするんじゃねえ。
「では次に。水よ敵を穿て【水弾】」
おお!? さっきより早いぞ!
それでもまだ対応できる俺は先程と同じように剣を振るって切り飛ばす。
「早くなったであろう? 貫通力も上がっているのである。詠唱を行った事と穿つ、と言う言葉の影響である」
なるほどなー。
詠唱って結構大事なのか。
「ちなみにほい」
水弾がまた飛んでくるが……あ、遅い。
ふむ、無詠唱だと80kmくらいか? バッティングセンターの一番遅い奴だ。
魔法名があると100くらい?
詠唱したときはマジで速い。120はあるか? もうちょいあるかもしれん。
「これが無詠唱である。差があるのがわかるであろう。しかしだ……水よ、烈火の如き速度で敵を完膚なきまでに打ち滅ぼせ【水弾】」
「ん……ああーなるほどな。ほいっと」
無詠唱よりも早いが魔法名よりも遅い。
「わかったであるか?」
「一つは。水って言っているのに反対っぽい火が入っているからだな?」
頷く。おお、当たったみたいだ。
「魔法にそぐわぬ言葉をつけると弱くなるのである。更に過剰に装飾したり強い言葉は魔法のキャパシティを越えてしまう」
「また新単語か……キャパシティってのは?」
「単純に魔法の格であるな。この水弾に世界を滅ぼせと言うのは無茶であろう? 無茶な言葉だと魔法も答えてくれないのである」
なるほどな。
今から48時間働けと言われても無理無理やってられんわ! と言うように無茶ぶりは魔法のモチベを下げるんだな。多分。
「さて、それを見越してとりあえず先程の光の刃に名前をつけるのである」
ふむ、まあ今後これを使う機会も多いしな。
さて、どんな名前にするかね。
「我のお勧めは」
「ボクはシャインブレードがいいと思う!」
「いえ、ここは光羽と……」
「僭越ながら、極光たる永劫の刃、が宜しいかと」
「お前ら……エクレアさんまで」
エクレアさんに至ってはあれはマジで言っているのか?
……まあ驕れるものとか真と偽の境界剣とか使っている俺が言える立場じゃないんだが。
いやまて、俺が決めたわけじゃないからな?
「我のお勧めは! 自分を貫くという意味で! リバレースである!」
「…………」
「な、なんであるかその目は。その不憫な者を見る目をやめるのである!」
こいつはまさかの被りか……。
「うーん……」
「わくわく」
「どうですか?」
「最善を尽しました」
「我何かしたであるか?」
「お前らクイズの結果発表を待つような顔しやがって……」
うーん、まあ。
「光羽で」
「っ!」
ガッツポーズをするなガッツポーズを。
「えー理由はー?」
「消去法。エクレアさんのはちょっと長いし、アルマダのも多少な」
「我は?」
「……言いにくいんだが別魔法名と被っている」
「むむ、だが我のセンス自体は間違っていなかったという事だな。ふははは、ではその名を呼んで打ってみるがよい!」
急に元気になったな。
やれやれ、どれだけ変わるか知らんがやってみるかね。
「光羽!」
そう軽い気持ちで言ったはずだった。
が、飛び出した光の刃は悪魔の翼、蝙蝠を思わせる羽の形になり、縦に広く鋭くなっていた。そして速い。2倍くらい早くね……?
「ぬおっせいっ! ぐぐ……い、威力が高いのである」
同じように片手で弾いたが、右腕を固いものを殴った後の様に振るっている。
ふむ。
「光羽光羽光羽光羽光羽光羽光羽光羽」
「ちょっと!?」




